二度目の人生は魔王の嫁

七海あとり

文字の大きさ
42 / 44

秘密その2

しおりを挟む
「ヨハン」

「なんですか?」

「ヨハンは前に王族追放を免れないくらいの大きな秘密を抱えているって言っていたよね。それが一体何なのか聞いてもいい?」

「・・・いいですよ。聞いていて、楽しい話ではありませんが」

 

ヨハンは記憶を辿るように、視線を落とした。

 

「ギルバートの母親であり、側室でもあったリリアンヌを、私の父・・・前国王は溺愛していました。それを私の母でもあり、王妃でもあったアイリーンは快く思わなかったのでしょう。――リリアンヌに毒を盛り、殺害したのです」

 

ヨハンの口から発せられた言葉は、衝撃的な内容だった。

海の底のような静寂が、車内を支配する。

 

「この事は私と母であるアイリーンの秘密でした。国王にばれたら、王宮追放を免れませんから。墓場まで持っていくつもりでした、しかし・・・」

「ギルバートは、気付いたんだね」

「・・・はい」

 

ヨハンは膝に置いた拳に力を込めた。

悔しさとやるせなさが、手に取るように伝わる。

 

「聡明なギルバートの事です。おそらくいくつもの綻びを、点と点を繋げるように繋ぎ合わせ、私達の秘密に辿りついたのでしょう。そしてこの事を交渉材料にギルバートに脅されました。王太子の座を譲らないと、国王に告げるぞ、と。先ほども言った通り、リリアンヌは前国王の寵愛を一心に受けていました。この事件が明るみに出れば、私達は王族追放は免れない。いや、もしかしたら絞首の刑に処されるかもしれませんでした」

 

 

「国王の愛する人が殺されたのですから当然ですね」とヨハンは自嘲するように鼻で笑った。

 

「・・・悪いのはアイリーン元王妃だ。ヨハンは何も悪くない」

「・・・確かにそうですね。でも私は王族です。清く正しい存在でなければいけない。親の罪は、子供が背負わないといけないのです」

 

ヨハンは視線を窓の外に移した。

その表情は憂いに満ちている。

 

「・・・王太子の座をギルバートに奪われて、私の生活はまるっきり変わってしまいました。離れの宮殿に追いやられ、周囲を取り巻いていた人達も全員離れていきました。あの頃は、王位継承権をギルバートから取り戻そうと、必死でした。だから次期王太妃と噂されたカルミアに近づいたのです」

「僕に?」

「・・・はい。今だから言えますが、私は貴方に毒を飲ませようとしていました」

「・・・え」

 

 カルミアは戸惑ったように瞳を揺らせた。

 

「魔国から取り寄せたナーデリアという毒花を使って、カルミアを昏睡状態に陥らせようとしていたのです。そしてそんな貴方を交渉材料に、継承権を取り戻そうとしました」

「そう、だったのか」

「....結局は貴方に恋をしてしまって、未遂に終わりましたけどね」


ヨハンはカルミアの様子を伺うようにちらりと盗み見た。しかしカルミアから、軽蔑の感情が感じられないと分かるとすぐに視線を逸らした。


 

「愚かにも私は母親と同じ道を歩むところでした。カルミアに出会えてなかったらと思うと、ゾッとします。私を変えてくれたカルミアには頭が上がりません」

「変えてくれたって・・・、僕は特別な事は何もしてない」

「確かに特別な事は何もしていないかも知れない。でも私は貴方に救われたんです、カルミア。」

 

そう言って、ヨハンは今まで見せた事ないような優しい笑みをカルミアに向けた。カルミアは心の中に陽だまりが差し込んだような気持ちになって、それがくすぐったくて思わず狼狽える。

 

「そ、そうだ。あの魔笛!!」

 

カルミアは照れ隠しのように、話を逸らした。

リュックの中から、魔笛を取り出すと、それをヨハンに見せる。

魔笛はすっかり光を失い、ただの銀笛に変貌していた。


「この魔笛は一体何?どういう仕組みで魔王が召還されるわけ?」

「仕組みは分かりませんが、この魔笛は魔国の王族に代々受け継がれて来たものだそうです。普段は普通の銀笛ですが、満月の夜にだけ“この中に眠っている者”を呼び出せる召還魔具になると聞きました」

「・・・眠ってる者?」

「――借りるぞ」

 

ジキルはカルミアから魔笛をひょいと奪った。

月明りに照らされた銀笛の外装が、白々とした光を纏っている。

 

「この中には特殊な空間が広がっている」

「特殊な空間?」

「時間の概念がない空間だ。この中にいれば年も喰わなければ、病気も進行しない。俺はこの中に二百年間眠っていた」

「二百っ!?」

 

人間だったらとっくにご臨終している。

魔族は人間より長生きだと聞いたことがあるが、果たしてジキルは一体何歳なのだろう。

聞きたいような。けれど恐ろしくて聞けないような。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...