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あのにます
【5話・ガラス越しの景色(前編)】/あのにます
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それが当たり前の筈なのに、誰も居ない部屋に私は動揺した。
野乃花は何処に行ったのだろうか。
彼女の鞄も見つからず、それで良い筈なのに、野乃花が居ないという事実に私は動揺していた。
家中を一回りして野乃花がいないのを改めて確認した私は、テーブルの上に書き置きらしきものを見つけた。
ルーズリーフの紙一枚に、野乃花らしい几帳面な字がしたためてある。
「アオトさんへ」という書き出しから始まり、感謝の言葉が綴られていた。
迷惑になっているのは分かっている、これ以上は迷惑をかけないと、そう書き残してあったのを読み終えた私はその場に座り込む。
家出した中学生を二晩泊めてあげた。
彼女はそれに感謝し、そして私の迷惑になると家を出ていった。
何の問題もない。
何かトラブルに発展する前に、無事に終わったのだ。
これで良かった筈なのに、それを望んでいた筈なのに、釈然としない気持ちが私の何処かにあって。
そして、野乃花は本当に家に帰ったのだろうか。
そんな疑問が浮かぶ。
彼女が何か問題を抱えていたのは明らかで、それを切っ掛けに似合わぬ家出という手段まで選び、それが綺麗に解決したとも確証はない。
考えが纏まらず、私は迷った末に鈴乃に電話をかけた。
野乃花が消えた。
その旨を鈴乃に伝えると、彼女は暫し悩んでいる様だった。
『アオトさんの最寄り駅って何処ですか』
鈴乃が突然、そんな事を聞いてきて私は訳も分からず答える。
私の返事を聞いた鈴乃は少し待って欲しい、と言う。
電話の向こうでキーボードを叩く音が聞こえた。
『アオトさんは、件の彼女がそのまま家に帰ったとは思ってないってことですよね』
「何となく」
野乃花と初めて会った時の事を思い出す。
彼女がやろうとしていたのは、見知らぬ相手との援助交際だった。
おそらくそんな経験も無いのに、だ。
他に手段が無かったのかもしれない。
けれども、野乃花の性格を鑑みればその結論に至るのは少々飛躍し過ぎであると思える。
何か、別の理由。
何か自棄になっていたのではないかと私はその時、思った。
彼女にそうまでさせた何らかのトラブルが、そう簡単に解決するとは思えない。
そして彼女が家を出て行った先で起こり得る事態が、私の嫌な予感通りになるのではないかという、危惧があった。
『確証はないですが、駅前のデパートの三階に行ってみてください』
鈴乃にそう言われて、私は困惑しながらも家を出た。
何の根拠が、と私が聞いても鈴乃は答えようとしなかった。
野乃花が本当に居れば、と鈴乃は渋る。
駅前のデパートの三階。
イベントや展示用の場所を兼ねた休憩スペースが三階部分の中心にはあり、待ち合わせにも適している。
そして、実際そこには野乃花の姿があった。
鈴乃の指示が正しかった事に私は驚き咄嗟に身を隠す。
野乃花は休憩スペースのベンチに腰掛けて携帯を見ていた。
彼女の制服は、この近所で見かけないものであるし、この辺りに住んでいるとは思えない。
行き場を無くして此処に居るのではないだろうか、と私は思う。
物陰から野乃花の様子を伺いながら、鈴乃に連絡する。
本当に野乃花が居た。
鈴乃がそれを知り得たトリックを知りたかった。
「本当にいました。どうして分かったんですか」
『援助交際募集の掲示板に書き込みがありましたので』
鈴乃が躊躇いがちに言った。
彼女が言葉を濁していたのはその為か、と理解する。
しかし本当に野乃花がまたも援助交際をしようとしている事に、私は少なからず動揺していた。
野乃花は、本当にまた援助交際をしようとしていたのだ。
ネット上に援助交際相手を求める書き込みをして、待ち合わせ場所として此処を指定した。
そうして相手が現れるのを待っているという事であった。
「よく見つけましたね」
『たまたまです。私が彼女の書き込みに返信して、足止めしときます。誰かが、その、彼女に返信してしまうとマズいので』
今はまだ、誰も野乃花の書き込みに返信していないらしい。
鈴乃がネット上から、その書き込みを見つけた事も驚きであるし、そういった場所を知っているのも意外であった。
適当に探し回って見つかるものではないだろう。
鈴乃がそういった事に詳しいという事に、私は動揺しながらも、彼女が見ている掲示板を教えて欲しいと請う。
鈴乃は少し渋った様子で、専門用語が多く見ても分からないだろう、と言い訳をしたが私は食い下がった。
鈴乃は声の調子を落とした。
『アオトさん』
「なんでしょうか」
『私はアオトさんを信用しています。短い付き合いでは無いですし、色んな話をしてきましたし。アオトさんは冷めた性格をしてても、決して冷たい人間じゃないと思って、教えます』
鈴乃はそう前置きをした。
彼女からメッセージでURLが送られてくる。
アクセスすると、シンプルなデザインのWEBサイトが表示された。
今時珍しい掲示板というスタイルに、私は懐かしいものを感じた。
白地の背景に焦げ茶のフレーム、その中に文字と写真が並ぶ。
サイトのタイトルは「girl'sーD」とあった。
呪文の様な文字ばかりが並んでいて、鈴乃の言っていた意味を理解する。
これが援助交際募集の掲示板なのか、と初めて踏み入れた世界に困惑していた。
野乃花の書き込みを探そうとして、私はとある事に気が付いた。
この掲示板の特異な点に。
「girl'sーD」は、レズビアン向けの援助交際募集掲示板だった。
野乃花は何処に行ったのだろうか。
彼女の鞄も見つからず、それで良い筈なのに、野乃花が居ないという事実に私は動揺していた。
家中を一回りして野乃花がいないのを改めて確認した私は、テーブルの上に書き置きらしきものを見つけた。
ルーズリーフの紙一枚に、野乃花らしい几帳面な字がしたためてある。
「アオトさんへ」という書き出しから始まり、感謝の言葉が綴られていた。
迷惑になっているのは分かっている、これ以上は迷惑をかけないと、そう書き残してあったのを読み終えた私はその場に座り込む。
家出した中学生を二晩泊めてあげた。
彼女はそれに感謝し、そして私の迷惑になると家を出ていった。
何の問題もない。
何かトラブルに発展する前に、無事に終わったのだ。
これで良かった筈なのに、それを望んでいた筈なのに、釈然としない気持ちが私の何処かにあって。
そして、野乃花は本当に家に帰ったのだろうか。
そんな疑問が浮かぶ。
彼女が何か問題を抱えていたのは明らかで、それを切っ掛けに似合わぬ家出という手段まで選び、それが綺麗に解決したとも確証はない。
考えが纏まらず、私は迷った末に鈴乃に電話をかけた。
野乃花が消えた。
その旨を鈴乃に伝えると、彼女は暫し悩んでいる様だった。
『アオトさんの最寄り駅って何処ですか』
鈴乃が突然、そんな事を聞いてきて私は訳も分からず答える。
私の返事を聞いた鈴乃は少し待って欲しい、と言う。
電話の向こうでキーボードを叩く音が聞こえた。
『アオトさんは、件の彼女がそのまま家に帰ったとは思ってないってことですよね』
「何となく」
野乃花と初めて会った時の事を思い出す。
彼女がやろうとしていたのは、見知らぬ相手との援助交際だった。
おそらくそんな経験も無いのに、だ。
他に手段が無かったのかもしれない。
けれども、野乃花の性格を鑑みればその結論に至るのは少々飛躍し過ぎであると思える。
何か、別の理由。
何か自棄になっていたのではないかと私はその時、思った。
彼女にそうまでさせた何らかのトラブルが、そう簡単に解決するとは思えない。
そして彼女が家を出て行った先で起こり得る事態が、私の嫌な予感通りになるのではないかという、危惧があった。
『確証はないですが、駅前のデパートの三階に行ってみてください』
鈴乃にそう言われて、私は困惑しながらも家を出た。
何の根拠が、と私が聞いても鈴乃は答えようとしなかった。
野乃花が本当に居れば、と鈴乃は渋る。
駅前のデパートの三階。
イベントや展示用の場所を兼ねた休憩スペースが三階部分の中心にはあり、待ち合わせにも適している。
そして、実際そこには野乃花の姿があった。
鈴乃の指示が正しかった事に私は驚き咄嗟に身を隠す。
野乃花は休憩スペースのベンチに腰掛けて携帯を見ていた。
彼女の制服は、この近所で見かけないものであるし、この辺りに住んでいるとは思えない。
行き場を無くして此処に居るのではないだろうか、と私は思う。
物陰から野乃花の様子を伺いながら、鈴乃に連絡する。
本当に野乃花が居た。
鈴乃がそれを知り得たトリックを知りたかった。
「本当にいました。どうして分かったんですか」
『援助交際募集の掲示板に書き込みがありましたので』
鈴乃が躊躇いがちに言った。
彼女が言葉を濁していたのはその為か、と理解する。
しかし本当に野乃花がまたも援助交際をしようとしている事に、私は少なからず動揺していた。
野乃花は、本当にまた援助交際をしようとしていたのだ。
ネット上に援助交際相手を求める書き込みをして、待ち合わせ場所として此処を指定した。
そうして相手が現れるのを待っているという事であった。
「よく見つけましたね」
『たまたまです。私が彼女の書き込みに返信して、足止めしときます。誰かが、その、彼女に返信してしまうとマズいので』
今はまだ、誰も野乃花の書き込みに返信していないらしい。
鈴乃がネット上から、その書き込みを見つけた事も驚きであるし、そういった場所を知っているのも意外であった。
適当に探し回って見つかるものではないだろう。
鈴乃がそういった事に詳しいという事に、私は動揺しながらも、彼女が見ている掲示板を教えて欲しいと請う。
鈴乃は少し渋った様子で、専門用語が多く見ても分からないだろう、と言い訳をしたが私は食い下がった。
鈴乃は声の調子を落とした。
『アオトさん』
「なんでしょうか」
『私はアオトさんを信用しています。短い付き合いでは無いですし、色んな話をしてきましたし。アオトさんは冷めた性格をしてても、決して冷たい人間じゃないと思って、教えます』
鈴乃はそう前置きをした。
彼女からメッセージでURLが送られてくる。
アクセスすると、シンプルなデザインのWEBサイトが表示された。
今時珍しい掲示板というスタイルに、私は懐かしいものを感じた。
白地の背景に焦げ茶のフレーム、その中に文字と写真が並ぶ。
サイトのタイトルは「girl'sーD」とあった。
呪文の様な文字ばかりが並んでいて、鈴乃の言っていた意味を理解する。
これが援助交際募集の掲示板なのか、と初めて踏み入れた世界に困惑していた。
野乃花の書き込みを探そうとして、私はとある事に気が付いた。
この掲示板の特異な点に。
「girl'sーD」は、レズビアン向けの援助交際募集掲示板だった。
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