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【5章・雷鳴と鋼が嘶く場所/弘人SIDE】
『5-3・Find』
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「!?」
エレベーターのドアにもたれかかっていたのか、ドアが開くと同時に、倒れ込んでくるようにして一体のゾンビが現れた。
返り血を全身に浴び、白いシャツを赤黒く変色させたスーツ姿の男。弘人の視界一杯に迫ってくる彼の指先は、乾いた血糊がひび割れて肌色が見えない。
その指が触れる寸前、弘人は横から突き飛ばされる。揺れる視界の中で、鷹橋が目にも止まらぬ速さで動くのが見えた。身を低くして、ゾンビの腕をかい潜り懐に飛び込んでいく。空気を切る鈍い音がして、鷹橋が勢い良くゾンビの顎を拳でぶち抜いた。よろめいたゾンビの身体を、鷹橋が蹴り倒す。
軽く吹き飛んだゾンビは商品棚に背中からぶつかって、床に叩き付けられた。鷹橋がエレベーターに乗り込んで、弘人達を呼ぶ。
「エレベーターに乗れ!」
「今のは」
「早く!」
弘人と香苗がエレベーターに乗り込むと、鷹橋が地下駐車場の階数ボタンを荒々しく押した。閉ボタンを連打する。扉が動き出して音を立てると、呻き声が重なった。先程、鷹橋が蹴り倒したゾンビがゆっくりと起き上がってきていた。
鷹橋の舌打ちと同時にエレベーターのドアは閉まり切り、弘人はいつの間にか止めてしまっていた息を吐き出した。
香苗が短く悲鳴を上げた。弘人は驚き振り返る。エレベーターの床と壁に、ペンキを盛大に零した様に、赤黒い血の跡が広がっていた。香苗が後退りして、床を汚す赤黒い染みから離れようとする。
地下へと動き出したエレベーターの音に、弘人は階数表示のモニターを見上げる。一定の速度で切り替わっていく数字が、まるでカウントダウンにしか思えず弘人は顔をしかめた。鷹橋が自分の拳を見つめて、何度も握り直していた。そんな彼の様子に、弘人は先程抱いた疑問を問いかける。
「さっきのは、ボクシングですか?」
「昔、ちょっとだけな」
鷹橋の動きは俊敏で躊躇いが無かった。素人目では判別が出来ないが、少なくとも彼が格闘技に慣れている風に弘人には思えた。先程の蹴りも、何か別の格闘技によるものだと思えた。弘人の賞賛に、鷹橋は静かに首を振る。
「だが、さっきのはたまたま上手く行っただけだ。ゾンビには近寄らねぇのが一番だ」
噛まれたら終わり、鷹橋のその言葉は、彼の語調に反して非常に重たく聞こえた。弘人は言葉を返せずただ頷く。目の前にまで迫っていたゾンビの指が、その残像が、今も尚弘人の眼前を過っている。大量の冷や汗が、今更ながら背中を伝っていく。
エレベーターの階数表示のランプが点いては消えてを繰り返すたびに、それがまるで、地獄へと足を踏み入れようとしいるかの如く気分になる。
壁に指を付いて車の大まかな位置を鷹橋が説明した。鷹橋が言ったように、複数のゾンビは相手取る事は出来ない。弘人達にとって最善なのは、出来る限り全速力でエレベーターから車まで走る事だけである。それを再度確認して、互いに頷く。
エレベーターが地下駐車場に到着して、静かな振動が底の方から響いてきた。間の抜けたチャイムの音を鳴らして扉が開く。合図をすると同時に鷹橋が駆け出して、遅れぬよう弘人と香苗も続いた。
駐車場の天井一帯には、薄暗い照明が点いている。その灯りによって周囲一帯が見渡せた。乗用車が、至る所で衝突しあっていていた。車体に乗り上げて動かなくなっている車や、大きくボンネットをへこませて、他の車の側面にぶつかっている車が、無数の瓦礫になっていた。瓦礫の合間から、人影が動くのが見えた。
呻き声が、コンクリートの壁にぶつかって反響を繰り返す。這い回るような低い声が、至る所から聞こえてきてくる。
「弘人君!」
香苗の言葉に弘人が振り返ると、瓦礫の群れからゾンビの群れが這い出てきていた。獲物を見つけた歓喜の声か、ゾンビの呻き声が一斉に向かってくる。ゾンビの大量の群れに、香苗の足がすくんで立ち止まる。弘人はその腕を乱暴に引っ張った。
「止まるな、香苗!」
鷹橋が駆け寄った、白の乗用車のハザードランプが点いた。運転席に潜り込むと、鷹橋が怒鳴る。
「ゾンビ共に気付かれてる! 急いで乗れ!」
弘人が周囲に目をやると、ゾンビ達は明確に狙いを定めている様子であった。車のエンジン音に反応したのか、真っ直ぐに弘人達へと向かってくる。急げと急かす鷹橋の声に背を押されて、弘人は香苗を先に車に乗せようとする。そんな弘人の腕を、香苗が突然掴んだ。
「待って、こっちの車の中に子供がいるの!」
エレベーターのドアにもたれかかっていたのか、ドアが開くと同時に、倒れ込んでくるようにして一体のゾンビが現れた。
返り血を全身に浴び、白いシャツを赤黒く変色させたスーツ姿の男。弘人の視界一杯に迫ってくる彼の指先は、乾いた血糊がひび割れて肌色が見えない。
その指が触れる寸前、弘人は横から突き飛ばされる。揺れる視界の中で、鷹橋が目にも止まらぬ速さで動くのが見えた。身を低くして、ゾンビの腕をかい潜り懐に飛び込んでいく。空気を切る鈍い音がして、鷹橋が勢い良くゾンビの顎を拳でぶち抜いた。よろめいたゾンビの身体を、鷹橋が蹴り倒す。
軽く吹き飛んだゾンビは商品棚に背中からぶつかって、床に叩き付けられた。鷹橋がエレベーターに乗り込んで、弘人達を呼ぶ。
「エレベーターに乗れ!」
「今のは」
「早く!」
弘人と香苗がエレベーターに乗り込むと、鷹橋が地下駐車場の階数ボタンを荒々しく押した。閉ボタンを連打する。扉が動き出して音を立てると、呻き声が重なった。先程、鷹橋が蹴り倒したゾンビがゆっくりと起き上がってきていた。
鷹橋の舌打ちと同時にエレベーターのドアは閉まり切り、弘人はいつの間にか止めてしまっていた息を吐き出した。
香苗が短く悲鳴を上げた。弘人は驚き振り返る。エレベーターの床と壁に、ペンキを盛大に零した様に、赤黒い血の跡が広がっていた。香苗が後退りして、床を汚す赤黒い染みから離れようとする。
地下へと動き出したエレベーターの音に、弘人は階数表示のモニターを見上げる。一定の速度で切り替わっていく数字が、まるでカウントダウンにしか思えず弘人は顔をしかめた。鷹橋が自分の拳を見つめて、何度も握り直していた。そんな彼の様子に、弘人は先程抱いた疑問を問いかける。
「さっきのは、ボクシングですか?」
「昔、ちょっとだけな」
鷹橋の動きは俊敏で躊躇いが無かった。素人目では判別が出来ないが、少なくとも彼が格闘技に慣れている風に弘人には思えた。先程の蹴りも、何か別の格闘技によるものだと思えた。弘人の賞賛に、鷹橋は静かに首を振る。
「だが、さっきのはたまたま上手く行っただけだ。ゾンビには近寄らねぇのが一番だ」
噛まれたら終わり、鷹橋のその言葉は、彼の語調に反して非常に重たく聞こえた。弘人は言葉を返せずただ頷く。目の前にまで迫っていたゾンビの指が、その残像が、今も尚弘人の眼前を過っている。大量の冷や汗が、今更ながら背中を伝っていく。
エレベーターの階数表示のランプが点いては消えてを繰り返すたびに、それがまるで、地獄へと足を踏み入れようとしいるかの如く気分になる。
壁に指を付いて車の大まかな位置を鷹橋が説明した。鷹橋が言ったように、複数のゾンビは相手取る事は出来ない。弘人達にとって最善なのは、出来る限り全速力でエレベーターから車まで走る事だけである。それを再度確認して、互いに頷く。
エレベーターが地下駐車場に到着して、静かな振動が底の方から響いてきた。間の抜けたチャイムの音を鳴らして扉が開く。合図をすると同時に鷹橋が駆け出して、遅れぬよう弘人と香苗も続いた。
駐車場の天井一帯には、薄暗い照明が点いている。その灯りによって周囲一帯が見渡せた。乗用車が、至る所で衝突しあっていていた。車体に乗り上げて動かなくなっている車や、大きくボンネットをへこませて、他の車の側面にぶつかっている車が、無数の瓦礫になっていた。瓦礫の合間から、人影が動くのが見えた。
呻き声が、コンクリートの壁にぶつかって反響を繰り返す。這い回るような低い声が、至る所から聞こえてきてくる。
「弘人君!」
香苗の言葉に弘人が振り返ると、瓦礫の群れからゾンビの群れが這い出てきていた。獲物を見つけた歓喜の声か、ゾンビの呻き声が一斉に向かってくる。ゾンビの大量の群れに、香苗の足がすくんで立ち止まる。弘人はその腕を乱暴に引っ張った。
「止まるな、香苗!」
鷹橋が駆け寄った、白の乗用車のハザードランプが点いた。運転席に潜り込むと、鷹橋が怒鳴る。
「ゾンビ共に気付かれてる! 急いで乗れ!」
弘人が周囲に目をやると、ゾンビ達は明確に狙いを定めている様子であった。車のエンジン音に反応したのか、真っ直ぐに弘人達へと向かってくる。急げと急かす鷹橋の声に背を押されて、弘人は香苗を先に車に乗せようとする。そんな弘人の腕を、香苗が突然掴んだ。
「待って、こっちの車の中に子供がいるの!」
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