クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【6章・荒天、または豪雨の魔女/祷SIDE】

『6-3・好機』

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 小野間君の言葉に葉山君が表情を歪める。
「ここから脱出すると?」
「ちげぇ。食料を探しに行くんだよ。ゾンビ共は目が悪いみたいだし、今行くしかねぇだろ」
「食料と言ってもな」
「家庭科室に冷蔵庫あっただろ」
「調理実習が無い時は、基本的に空だろう。家庭科室にあるのは調味料くらいの筈だ」
 食料調達という提案は、正直な所支持したかった。
 水さえあれば人間は数週間平気だとは言うが、それとはまた別問題だ。この状況下で食糧もないのでは、早々に精神的な限界を迎える確信がある。しかも、救助を待つ身ではあるがそれがいつになるか期待も出来ない。
 それに、ゾンビと遭遇した時に逃げることを考えても余力を残しておく必要がある。まだ余裕がある今の内に、食料を確保しに動く方が最善かもしれない。
 ゾンビが密集して活動を停止しているのが本当ならば、校内で偶発的に遭遇する可能性も低く、逃げ切る事も十分可能だと思った。ゾンビが群れを作るのならば、何処かに集まっているのならば、遭遇すること自体を避ける事も出来るかもしれない。
 そう判断して、私は口を開く。
「災害用の非常食が体育館の倉庫にあるよ。部室にお菓子貯め込んでるところも多いと思う」
 学校は地震などの災害時、近隣住民の避難場所に指定されている。具体的な量は分からないが、かなりの備蓄がある筈だった。倉庫まで少なくとも、此処にいる5人だけなら持て余す量はあるだろう。しかし。
 敷地内の体育館までの距離は遠い。現在の3階から1階まで下り、A棟校舎から出て体育館まで向かう。考えただけでも、非現実的な気がした。1階と校舎の外には多くのゾンビがいる。ゾンビの休眠状態という推測が、何処まで信用に値するか分からない。
 体育館までの距離はやはり懸念材料になった様で、私の提案に全員腕を組んだ。明瀬ちゃんが暫く悩んでいたが、何か思い付いて手を叩く。
「職員室はどう? 御茶菓子とかあるよね」
 職員室は、私達が今居るA棟校舎の2階西側に位置している。位置としては、この教室のほぼ真下に近い。
 A棟校舎には校舎内の東西に2か所の階段、そして廊下の東西突き当りの非常口から通じている屋外非常階段が2か所ある。
 屋外非常階段は各階層の東西非常口に通じており、2階の西側非常口に関しては廊下ではなく職員室内にある。2階の西側だけ他の階と構造が違い、西側の廊下突き当りに職員室が位置しているような形になる。
 私達が今居る3階の非常口から屋外非常階段に出て2階まで下り、2階の非常口から職員室の中に入る事を小野間君が提案した。しかし、明瀬ちゃんはそれを却下する。
「職員室の非常口は、多分中から鍵がかかってる気がすんだよね」
 職員室の非常口は鍵がかかっている可能性が高いという理由だった。屋外非常階段は出入り自由になっている為、悪戯等の防止が目的で職員室は通常非常口には鍵がかけられているらしい。
 学校にゾンビが現れた時の混乱時に開けたかもしれないが、閉まっている可能性が否定できないという事だった。
「やっぱり校舎の階段を使うしかないよ」
「防火シャッタ-の側に通用口があるから、そこから出入りは出来る。ただ、僕は反対だ。このポイントが絶対安全な筈だ」
 葉山君としてはバリケードを出入り口に築いたこの教室から出ていく事自体、反対する考えの様だった。小野間君と私は捜索に出る気で満ちていた。
 3階の階段から2階まで降りて直ぐの位置に職員室は位置している。距離としては大したことはない。
 問題としては2階の状況が分からないことだった。私達が2階に到達した時、ゾンビの数は散発的だった。教室から湧き出てきた群れと、階段を上ってきた大量のゾンビがその後どうなったかが問題になる。
 仮に、教室内で群れていた先程のゾンビがそういった習性の下で動いているならば、2階にいたゾンビ達が夜になって行動を休止したならば、2階での遭遇は避けられるのではないだろうか。
「俺は行くぜ。此処に居てもしょうがねぇからな。俺に指図するんじゃねぇぞ。俺は行くぜ」
 小野間君と葉山君が口論を始めた。そのやり取りに明瀬ちゃんが顔をしかめる。苦し気な表情を崩さないのが不安で、私はそっと話しかける。
「明瀬ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫」
「本当に?」
「あのさ、祷。私、もう泣かないから」
 その声は張りつめていて、その表情は強張ったままで。それが明瀬ちゃんの精一杯の強がりに見えて、私の胸を締め付ける。
「矢野の分まで生きなきゃ。パパとママにも会わなきゃ。そしたら、私に泣いてる暇なんてないみたいだからさ」
 その言葉はまるで。その決意の言葉はまるで。私の言葉を聞いていたかの様で。それでも、それを聞くことが出来なくて。私の言葉の意味を感づいてしまっている事が怖くて。私は明瀬ちゃんから顔を背けて、口論を続ける二人に割って入った。
「小野間君、私も付いていくよ。一人より二人の方が安全だと思うから」
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