クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

文字の大きさ
31 / 141
【7章・兆しを宿す者/弘人SIDE】

『7-5・Sorceress』

しおりを挟む
「な!?」
 弘人の目に映ったのは、激しく眩い光であった。青白い閃光が、周囲を真っ白に照らし出しながら明滅する。パルスが走り回り天井の蛍光灯が割れ、破裂音と共に白煙が散った。ガラスの破片が閃光を刻んで。蛇の如くうねる電流が大気を焦がした。
 桜の手から放たれた電撃が大型ゾンビを刺し貫いた。ゆっくりと、背中から大型ゾンビが床に倒れる。振動が店内に伝わって、重量感のある音が響き渡る。
 今の目を疑う様な光景を弘人は理解が出来なかった。あの電撃は何だったのか。
「……倒せたのか」
「いや、死んでねぇ」
 鷹橋がそう言い切った。床に倒れた大型ゾンビの腕が微かに動いている。ゾンビの血を頭から被って全身を汚した桜が、その手のチェーンソーのスイッチを切って言う。
「急いで」
「何だよ、今のは」
「早く」
 弘人の質問には答えず、桜は苛立ちを隠さずに言う。弘人が鷹橋に肩を貸して、ゆっくりと立たせる。苦い声を振り絞りながらも、鷹橋は起き上がった。苦しそうに息を荒げているが、その眼はぎらついていて、痛覚よりも別の何かが彼を一杯にしている様に見えた。苦痛に歪んでいた表情の合間には、何処か興奮の色が見え隠れする。
 大型ゾンビを迂回してコンビニの外に出た。手を振って、香苗に車を近付けさせる。たどたどしく後退してくる車に、鷹橋は少々苛立っている様だった。後部座席を開けて鷹橋を座らせた。頭から血を被っている桜を見て梨絵が泣き出した。赤黒い血が少し乾いて、桜の肌に張り付いていた。車の前で立ち止まった桜を、弘人は後部座席に押し込んだ。
「ちょっとなにすんのよ!」
「ぼさっとしてんなよ!」
 ドアを叩き付けるように閉めて、弘人は助手席に回った。ハンドルを握った横の香苗に言う。
「香苗、出してくれ!」
「一体、何があったの」
「いいから、早く!」
「急に言われても、私免許取ったばかりなのよ」
 香苗がゆっくりとアクセルを踏み込んだ瞬間、桜が窓の外を見て言った。
「追いかけてきてるわ!」
 サイドミラーには、コンビニの店内からゆっくりと出てきた巨躯の姿が映っていた。桜がチェーンソーの刃を突き立てたゾンビの心臓は、切り込んだ箇所は既に塞がっており大きな傷跡に変わっていた。零れた血が全身を汚していたものの、血は何処からも溢れ出していない。驚異的な治癒能力だった。
 その姿に、香苗が悲鳴を呑み込んだ。そんな香苗に鷹橋が言う。
「足は速くない筈だ、そのまま思い切りアクセル踏め。どうせゾンビにぶつけまくった車だ」
 香苗が悲鳴を上げながら思い切り加速した。ミラーに映る大型ゾンビの姿が小さくなっていって、安心して弘人は溜め息を吐いた。車道に戻って速度を落とした香苗が、ハンドルを固く握りしめていた手を少し緩める。バックミラー越しに、後部座席の桜に話しかけた。
「桜ちゃん、平気なの?」
「そうよね……心配よね、ここで降りるわ」
「どういうこと?」
 桜の言葉に、香苗が不思議そうに言った。桜の言葉に、隠しきれていない苛立ちの色が混ざる。
「噛まれては無いけど、これだけ血を被った。不安に思うのは、あたしも分かるから」
「よく分からないのだけれど、私の鞄の中にタオルが入ってるから使って言おうと思って」
「いつまでお人好し『ごっこ』してんの、それとも単に馬鹿なわけ?」
「どういうことなの……?」
「ゾンビが他の人間に噛みつくと、その人はゾンビに変わる。血液や体液からの感染の可能性があるのは馬鹿でも分かるじゃない。ゾンビの血を大量に被ったあたしが感染する可能性が高いわけ。だから」
 桜がそこまで言って、香苗はようやく言葉の意図を察したようであった。確かに、ゾンビ感染の切っ掛けには血液が関わっている可能性が高い。「スプリンクラー」と呼称した駅前で目撃した破裂する人間。周囲に彼の血が飛び散ったことで感染は広まった様に見えた。桜もその可能性は否定しきれない。しかし、弘人が今まで見てきたゾンビ感染の光景では、切っ掛けからゾンビ化までのタイムラグは非常に短かった。桜に大きな変化は見られない。
 切り捨てろ、と桜は言った。切り捨てる、と鷹橋は言っていた。けれども、弘人はそれを選べなかった。
「桜は俺たちを助けてくれた」
「馬鹿じゃないの」
「俺たちは助け合うべきだろ」
 二人のやり取りを聞いていた鷹橋が笑った。桜の頭を小突いて、鷹橋は言う。
「止めとけ、桜。馬鹿には勝てねぇ。それと弘人、さっきは助かった」
「いえ」
「確かにそうだ、協力し合うべきだ、俺達は。桜、お前も含めてな」
 鷹橋が、考えを変えてくれた事を弘人は嬉しく思った。そういえば、と弘人は思い出す。鷹橋が桜を見て何か聞きなれない言葉を言っていた。桜が見せたあの雷撃と何か関係があるのだろうか。弘人は桜に問いかける。
「なぁ、桜。さっきのは何だったんだ」
 香苗のタオルで顔を拭いていた桜は、弘人の問いを前にして、タオルを手に持ち見つめたまま暫し悩んでいた。
「あたしは電気を起こす力があるのよ。所謂、魔女って事」
「魔女!?」
 弘人が急に大声を出したので、香苗が驚いてブレーキを踏んだ。急停止した車体が大きく揺れる。雑音を垂れ流していたラジオを切ろうとした香苗の指が滑って、ラジオの受信周波数が変わった。雑音が一瞬途切れて、スピーカーから人の声がした。
『私達は内浦市のホ-ムセンタ-に居ます。生き残っている人は――』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...