クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

文字の大きさ
52 / 141
【14章・光を求めて/弘人SIDE】

『14-2・Instinct』

しおりを挟む
 暫く黙り込んで悩んでいた明瀬が、ようやく口を開いて祷の言葉を継いだ。
「ゾンビについて思ってた事があるんだけど。一般的なゾンビのイメージってさ死者が蘇るとか、死んでも動くとかじゃん? でも、私達が今直面しているゾンビってそうじゃないんだよ。彼等は、生物的には死んでないと私は思う」
 映画やゲームにおいてのゾンビのイメージの根底には、死んだ肉体が動くというものが確かにあった。それは不死という特徴と結び付く。一般的なゾンビは、頭が無事な限りどんな状態でも動く事が多い。肉体の欠損や、腐敗が起きていても身体は動き、心臓を潰しても意味がなく頭部を狙う事が多い。
 だが、今直面しているゾンビはそうではないと明瀬は否定する。
「皮膚から浮き出た血管が脈を刻んでた。それと、肩が上下してたのは、乱れた呼吸のせいなんだよ。それってつまり、酸素を取り入れて、血液を循環させるってことをしてるわけ。身体の一部が欠損したり腐ったりしてるのは免疫能力の低下であって、彼等が死体だからじゃない」
 その言葉に弘人は頷いて同意した。今まで見てきた光景が脳裏を過った。
「それは分かる。死体が蘇ったわけではなく、噛まれたり血液を浴びた事で、突然人を襲いだすようになったのが俺達の見てきたゾンビだ。彼等がその一瞬で死体に変わって、生き返ったわけじゃない」
「そう。人を襲いだす理由はともかく、肉体は生きてる。ってことは、私達と同じ仕組みで動いてるわけ。呼吸をして、物を食べることでエネルギーを生み出してる」
 人間は、食べることで体内に取り込んだ食物を、分子レベルで分解する。分解されたことで、炭素[C]、酸素[H]、水素[O]の状態になり、そこからグルコース[C6H12O6]を合成するのだ。合成したグルコースは一度保存しやすい物質に置換され肝臓にストックされる。身体がエネルギーを必要とする際に、細胞内のミトコンドリアが酸素を利用してそれを分解しエネルギーを取り出す。
 高校生レベルの教養だよ、君。と明瀬が演技がかった口ぶりで言った。
 ゾンビの身体で循環器管が生きている以上、食物の摂取によりエネルギーを得ているのは間違いないと彼女は言う。
「ゾンビが不思議なチカラで動いていないって事はさ、動くのにはエネルギーを必要とするわけ。そう考えると、ゾンビの特徴には意味がある気がしてこない?」
「どういう事だ?」
「何も食べなくても長期間生きていけるゾンビは、単純に考えると生存に必要なエネルギーのコストが低いってこと、それか使えるエネルギーがすごく少ないってことじゃん。
使えるエネルギーが少ないから運動能力は勿論、聴覚や嗅覚に比べて高度な感覚器官の視力も大幅に低下するわけ。それと、ゾンビって夜には密集して動かなくなるじゃん? これも、体温の低下を避ける為なんだと思う」
 それでも、限界はある筈だけど、と明瀬は付け加える。ゾンビが低エネルギーで活動していたとしても、何も摂食せずに生きている事の説明としては説得力に欠けた。少なくとも1ケ月、可能性としてはパンデミック発生から2カ月、それだけの期間を何も摂食せずに生きている事が、果たして可能なのだろうか。動物の冬眠とは違い、ゾンビは連日動き続けているのだ。
 弘人の疑問とは別のものを、祷は口にする。
「明瀬ちゃんの意見が正しいとしたら、走れるゾンビの説明が付かない」
 祷は走れるゾンビの例を挙げて明瀬に問いかけた。彼女は走れるゾンビをスプリンターと呼んだ。スプリンターという呼称は、非常に合点のいく命名であると弘人は感じる。何度かホームセンター周辺でその姿は確認されている。成人男性と比較しても引けを取らないその圧倒的な走力は、通常のゾンビと比べ危険度が格段に違った。
 確かに、スプリンターは明瀬の仮説では説明しきれない。走るという動作はかなりのエネルギーを必要とする。
 そもそも、走れるゾンビとそうでないゾンビの2種類には、どのような差異があって能力に差が出るのだろうか。
「エネルギーの変換効率か、貯蔵量が普通のゾンビより良いのかも。もしかしたら、ミトコンドリアが突然変異してるとか、体温を必要としない構造になっているのかもしれないけど……、ウイルスが感染した宿主にそこまでさせることが出来るとも思えないし」
 明瀬の言葉に、弘人はそもそもの疑問をぶつけた。
「そもそもウイルスなのかゾンビの原因は。ウイルスに感染して人を襲いだすなんて事がありえるのか」
「血液感染がきっかけになってるからウイルスの可能性は高いよ。例えば、ウイルスによって脳機能が活性化しすぎて理性を失うとかさー。感染経路拡大の為に、食欲を刺激して、人を食した時に快楽物質の分泌が行われるようにするとかさー。ホルモンの分泌と神経の刺激で説明が付く気もすんだよね」
 弘人の疑問に、明瀬が淀みなく長々と言った。明瀬は何処か興奮している様子で、早口気味である。弘人は明瀬のその頭の回転の速さに驚嘆するばかりだった。
「人間も結局は動物ってことだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...