クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

文字の大きさ
53 / 141
【14章・光を求めて/弘人SIDE】

『14-3・One's first 』

しおりを挟む
 結局、ゾンビの生態についての答えは出ず、会話はそこで途切れた。弘人は姉の事を思い出していた。姉ならば分かるのだろうか。姉も、同じような事を考え研究に勤しんでいるのだろうか。
 弘人の想像は、そんな姉の姿をハッキリと描き出していた。其処には、姉の死の可能性など微塵も混じらなかった。強く生きている筈だという強い確信が、弘人にはあった。
「そうだ、私達ヘリを見たんです」
 三人の沈黙を破って、祷が思い出したようにそう言った。北から西へと飛んでいくヘリの機影を見たらしい。弘人にも、思い当たる節があった。
「こっちでも何度か見かけてる。ただ、発煙筒に反応しないんだ」
「そうですか」
 祷が明らかに落胆する様子を見せた。しかし、何度かヘリの機影は確認していることを弘人が補足すると、祷は少し表情を明るくした。
 食料が尽きつつあった二人は、ヘリを目撃したことで救助の可能性を見出し移動をしてきたのだと言う。ヘリはともかく、食料に関しては今のところは不安はないと弘人は断言した。人数が二人増えたとしても二ヶ月分の貯蓄はあった。
 そんな会話をしていた弘人達を、香苗が呼びに来た。フロア中央のテーブルに戻ると、食事が並べてあった。
「こんなに、ありがとうございます」
 明瀬が食事を見て驚いた声を出した。弘人の目から見ても普段と比べて、非常食が中心とは言え豪華な物になっている。二人への歓迎の気持ち、という香苗の言葉に祷が頭を下げて応えた。
 缶詰のソースを和えたパスタと、生地を練って作った簡易なピザ、屋上に作った家庭菜園の野菜を利用したサラダと並んでいた。目を輝かす明瀬に、梨絵が鼻高々に言う。
「これはねー、梨絵が作ったんだよ」
「え、ホント? どれどれ?」
 梨絵の言葉に、明瀬が明るく返した。明瀬の反応に気を良くして、梨絵がピザとサラダを指差しながら楽し気な会話を始める。明瀬の少しオーバーな喋り方と、顔いっぱいの笑顔を梨絵は随分気に入った様で、香苗と明瀬に挟まれて梨絵は普段よりお喋りになっていた。
 祷が食事を前に、素直に驚いていたようだった。
「凄いですね」
「電気が使えるからな」
 食事の場に遅れてやってきた鷹橋が、席に着きながらそう言った。鷹橋の言葉を受けて、桜が口を開く。彼女が手の平の上で広げると、青白いパルスが走った。
「さっき少し喋ったけど、改めて言うわ。祷は魔女について知っているようだったし。あたしは電気を操る事が出来るの」
「電気?」
「祷とはまた違うタイプなんだね」
 明瀬の言葉に弘人は愕然とした。明瀬にそう言われた祷が、桜と同じ様に手を広げる。何も持っていないその手の平の上で、微かな炎が空中で灯った。着火出来る物も、燃料になりそうな物も何もなく、しかし祷の手の平の上では火が燃え続けていた。
「私は炎が」
「君も魔女だっていうのか」
「一応は」
 魔女という存在が同じ場所に揃う確立に弘人は少し動揺していた。正直な話、桜の話を聞いても何処か信じきれない部分がある。それ程までに、この世界には魔法というものが介入できる余地はないのである。そんな稀有な存在が、この場所に二人も揃ったのはすごい確率なのではないだろうか。
 弘人がそんな事を思いながら、ふと鷹橋を見ると彼の表情も驚きのものに変わっていた。それだけでなく、気分が高揚している様にも見える。鷹橋もああ見えて、意外と魔法という非科学的な存在に憧れていたのかもしれないと弘人は思った。
 香苗がコップにジュースを注ぐ。
「魔女でも何でも、此処で出会えた縁に感謝しましょ」
 香苗がそう言うと、明瀬が何か思い出したようで鞄を持ってくる。瓶に入った酒を取り出す。赤ワインと焼酎だった。道中のコンビニから拝借してきた、と彼女は言った。ホームセンターにはアルコール飲料の類は無く、貴重なものではあった。
「それ、本物の酒か?」
「はい。私達は未成年なので、良ければ鷹橋さんに」
 明瀬の差し出したワインの瓶を、鷹橋はゆっくりとぎこちなく受け取った。何も言わずそのラベルを何度も読み返している。手が微かに震えているようで、それほどまでに嬉しかったのかと弘人は思った。だが、鷹橋は口を開ける素振りを見せない。
「鷹橋さん?」
「いや」
「お酒お嫌いでした?」
「そうじゃなくてな、その、今まで呑んだことがなかったもんでな」
 鷹橋からは意外な言葉が返事として出た。正直な所、意外であった。彼の人柄して酒を?んだことがないというのは、あまりにも「似合わない」気がしたのだ。30代の男にしては奇妙ではなかろうか。宗教的な戒律かと思って、弘人が助け舟を出そうかとすると鷹橋は、声を震わせる。
「そうか、そういうのもあるのか」
 問い返すよりも前に、鷹橋が意を決したように瓶の中身をグラスに勢いよく注いだ。それを見て梨絵が頬を膨らませて声を上げる。
「梨絵もほしーいー!」
「あれはお酒だから、梨絵ちゃんはジュースね」
 香苗がそう宥めて、明瀬が笑っていた。そして、全員で乾杯をする。新しい仲間の為に、そんな乾杯の言葉に、祷の表情が少し曇った様に見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...