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【14章・光を求めて/弘人SIDE】
『14-4・Mediocre』
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祷と明瀬を加えた新たなメンバーでの食事は終始和やかな雰囲気で終わった。特に明瀬のお喋りな性分と明るい性格は、籠城生活を余儀なくされてきた弘人達の、淀んだ空気を払うに十分な程であった。
夕食を終えた二人に、桜が夜間のルールを説明する。
夜中には、見張り番を立てていた。二人組を基本として、数時間ごとに交代で行う形である。桜がそれを説明して、弘人と祷の事を呼んだ。弘人と祷を同時に呼んだことに、桜は見張り番以上の事を考えている様に思えた。
窓の側に置いたレジャ-用のパイプ椅子を三つ並べて三人は腰掛ける。窓の外は灯り一つもなく、墨を零したように何処までも真っ黒が続いている。そんな窓に背を預け、桜は祷に言う。
「悪いわね、疲れてるとこ」
「ううん……、魔女の事だよね?」
桜は頷いた。やはり、彼女は何か重要な話をしようとしていたようである。弘人がこの場に呼ばれたことは、魔女同士の情報交換で終わらないことを示していた。桜の方から口を開いた、祷に対して手振りを交えて話し出す。
「さっきも言った通りあたしは魔女なの。代々続いている魔女の家系の生まれなのよ」
「他の魔女の家系の人と初めて会ったよ」
「あたしも暫く会っていないわ。もう殆どの魔女が居ないんじゃないかしら。加賀野家は中世フランスから代々続く魔女の家系なの。当時の魔女狩りを逃れた分家が日本に辿り着いたのが始まり、って聞いてる」
加賀野家は長らく続いてきた伝統的な魔女の家系だと、桜は言う。祷はその事に驚き、感嘆している様子であった。祷の家系は魔女家系であるものの、加賀野の家系と違い本格的な魔女とは程遠いと言う。
そもそもの問題として、魔女の家系とは何か弘人には理解しがたかった。
「あたし達が魔女の家系だと言っても、その力を使って何かをしてきたわけでも無いのよ。昔はともかく、今の日本で魔法が求められることなんてないでしょ」
桜の言葉を受けて、祷が説明を引き継いだ。
産業革命を切っ掛けとして世界は近代化の道を進んだものの、それ以前には魔法や呪術などというものは普通に信じられていた。それらは、当時の科学では説明できなかっただけであり、本当は魔法なんてものはなかった、というのが通説であるが、祷はそうではない筈と言う。
つまり、魔法や呪術の類は実在するが、科学の発展によりその存在意義を失くし形骸化し、言葉と概念だけが残ったのだと。
「例えば、神社の御札や神通力という考え方。悪霊の類にお経を唱えるという事。そういうものは、本来は超常的な力を持っていたのだと思います、それが近代化の波に呑まれて、徐々に消えて形だけが残った。魔法と私達は読んでいますが、多分それらも同じことだったのではないかと。
それに、例えば超能力者なんかがたまに話題になりますよね。あれも魔法の筈です」
魔女の家系でなくても魔法の力が発現する事はあるのだという。魔法というものを知らないことで、その力を超能力という単語と結び付けている筈だと。
魔法という言葉は御伽噺の中の物になってしまったが、超能力という言葉は魔法と比較すれば、この世界に実在するものとして捉えられている。
「根っこは同じだけど、呼び方や考え方が違うだけだと思います。それで魔女は、自身の特殊な力が遺伝することを知っていて、その知識と技術を体系的に保存してきた一族ということになります。ただ、結局は使わない力ですから徐々に廃れてきているのは確かです」
「あたしの家の方は、由緒正しい魔女の一派であるとして、その伝統を重んじてきたの」
魔法という技術と力は、近代社会において必要とされるものでは無かった。加賀野家も祷家も、何に魔法を使う訳でも無くただ伝承してきただけという。加賀野家と祷家の差異について、各家庭の神事や仏事、伝統行事の様なイメージに近い、と祷は例えた。祷家は略式を繰り返してきており、加賀野家はそれを良しとしなかった。
「例えば節分の日に柊鰯―ひいらぎいわし―を飾る家が最近はないですよね。正月の鏡餅でも良いです。そういう風に、伝統を継承してきた家系と、略式を行ってきた家系があるわけです」
祷のその例え方に、桜は少し微妙な表情をしていた。
三角帽子にマントと杖という祷の奇妙な格好も、厳格に伝承してこなかった魔女の家系であるが故のものであるらしい。祷の魔法は仏教の呪術の流れを汲んでいるが、祷の杖や帽子は西洋風であった。祷が言うには何処かで文化が混ざった為であるらしい。
祷の説明を聞いていた桜が口を挟む。
「ただ、マントに帽子っていうのは、流石にあたしの家でも古風すぎるわ。杖を見せて?」
「どうぞ。本当にただの杖ですが」
「確かに只の杖だわ」
夕食を終えた二人に、桜が夜間のルールを説明する。
夜中には、見張り番を立てていた。二人組を基本として、数時間ごとに交代で行う形である。桜がそれを説明して、弘人と祷の事を呼んだ。弘人と祷を同時に呼んだことに、桜は見張り番以上の事を考えている様に思えた。
窓の側に置いたレジャ-用のパイプ椅子を三つ並べて三人は腰掛ける。窓の外は灯り一つもなく、墨を零したように何処までも真っ黒が続いている。そんな窓に背を預け、桜は祷に言う。
「悪いわね、疲れてるとこ」
「ううん……、魔女の事だよね?」
桜は頷いた。やはり、彼女は何か重要な話をしようとしていたようである。弘人がこの場に呼ばれたことは、魔女同士の情報交換で終わらないことを示していた。桜の方から口を開いた、祷に対して手振りを交えて話し出す。
「さっきも言った通りあたしは魔女なの。代々続いている魔女の家系の生まれなのよ」
「他の魔女の家系の人と初めて会ったよ」
「あたしも暫く会っていないわ。もう殆どの魔女が居ないんじゃないかしら。加賀野家は中世フランスから代々続く魔女の家系なの。当時の魔女狩りを逃れた分家が日本に辿り着いたのが始まり、って聞いてる」
加賀野家は長らく続いてきた伝統的な魔女の家系だと、桜は言う。祷はその事に驚き、感嘆している様子であった。祷の家系は魔女家系であるものの、加賀野の家系と違い本格的な魔女とは程遠いと言う。
そもそもの問題として、魔女の家系とは何か弘人には理解しがたかった。
「あたし達が魔女の家系だと言っても、その力を使って何かをしてきたわけでも無いのよ。昔はともかく、今の日本で魔法が求められることなんてないでしょ」
桜の言葉を受けて、祷が説明を引き継いだ。
産業革命を切っ掛けとして世界は近代化の道を進んだものの、それ以前には魔法や呪術などというものは普通に信じられていた。それらは、当時の科学では説明できなかっただけであり、本当は魔法なんてものはなかった、というのが通説であるが、祷はそうではない筈と言う。
つまり、魔法や呪術の類は実在するが、科学の発展によりその存在意義を失くし形骸化し、言葉と概念だけが残ったのだと。
「例えば、神社の御札や神通力という考え方。悪霊の類にお経を唱えるという事。そういうものは、本来は超常的な力を持っていたのだと思います、それが近代化の波に呑まれて、徐々に消えて形だけが残った。魔法と私達は読んでいますが、多分それらも同じことだったのではないかと。
それに、例えば超能力者なんかがたまに話題になりますよね。あれも魔法の筈です」
魔女の家系でなくても魔法の力が発現する事はあるのだという。魔法というものを知らないことで、その力を超能力という単語と結び付けている筈だと。
魔法という言葉は御伽噺の中の物になってしまったが、超能力という言葉は魔法と比較すれば、この世界に実在するものとして捉えられている。
「根っこは同じだけど、呼び方や考え方が違うだけだと思います。それで魔女は、自身の特殊な力が遺伝することを知っていて、その知識と技術を体系的に保存してきた一族ということになります。ただ、結局は使わない力ですから徐々に廃れてきているのは確かです」
「あたしの家の方は、由緒正しい魔女の一派であるとして、その伝統を重んじてきたの」
魔法という技術と力は、近代社会において必要とされるものでは無かった。加賀野家も祷家も、何に魔法を使う訳でも無くただ伝承してきただけという。加賀野家と祷家の差異について、各家庭の神事や仏事、伝統行事の様なイメージに近い、と祷は例えた。祷家は略式を繰り返してきており、加賀野家はそれを良しとしなかった。
「例えば節分の日に柊鰯―ひいらぎいわし―を飾る家が最近はないですよね。正月の鏡餅でも良いです。そういう風に、伝統を継承してきた家系と、略式を行ってきた家系があるわけです」
祷のその例え方に、桜は少し微妙な表情をしていた。
三角帽子にマントと杖という祷の奇妙な格好も、厳格に伝承してこなかった魔女の家系であるが故のものであるらしい。祷の魔法は仏教の呪術の流れを汲んでいるが、祷の杖や帽子は西洋風であった。祷が言うには何処かで文化が混ざった為であるらしい。
祷の説明を聞いていた桜が口を挟む。
「ただ、マントに帽子っていうのは、流石にあたしの家でも古風すぎるわ。杖を見せて?」
「どうぞ。本当にただの杖ですが」
「確かに只の杖だわ」
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