クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【21章・それは世界の境界線】

『21-4・Does it evolve?』

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「嘘……だろ」
「これが真実だ。勿論これは何らかの手品ではない。ワイヤーだとか磁力だとか小細工ではなく、私の力だ。念動力、テレキネシス、まぁ呼び方は何でも良いがSF作品等で描かれている様な類の力だと思っていい」

 驚く弘人を前に、優子が手を振り下ろした。空中に浮遊していた座椅子が勢いよく床に叩き付けられ、金属の甲高い音を鳴らす。跳ねて転がった座椅子は、今の衝撃で傷が付いた以外に何の変哲も無い。状況からしても、何かの冗談を言っているようには思えなかった。
 魔法の才能、と優子は言った。確かに間違いなく、祷や桜の持っていた力と同じ様に、彼女は魔法を使っていた。

「男子である以上、君は知らないだろうが三奈瀬家は魔女の家系だった」
「んな馬鹿な」
「私もすっかり使い方も忘れかけていたが。幼い頃に母に教わったきりだったからね」

 自分が魔女の家系であると、弘人は知らされていなかった。女性にしか伝えられない秘密だったということだろうか。その事実に動揺する弘人を無視して、優子の口は更に回り出す。

「抗体は男女問わず持っている事があるが、抗体を持つ女性は魔法の才能を持っていた。そこで私は一つの仮説を立てた。抗体を持っている人間がJMウイルスに感染する事で魔法を使えるようになるのではないかと。魔法を使える人間が抗体を持つのではなく、抗体を持っている人間が魔法を使えるようになっているのではないのか、と」
「姉さんが……何を……言っているのか分からない」
「魔法はJMウイルスの力という事だ」

 ゾンビ化を引き起こすウイルスが、魔法の力を持っている。意味が理解出来なかった。頭を抱える弘人に、優子は小さく笑う。床に転がった座椅子へ向かって手を翳すと、それは触れてもいないのに床の上で動き出した。椅子の足が音を立て床を引っ掻きながら、それはゆっくりと起き上がり、椅子として正しい姿勢に戻る。優子は一瞬も其処に手を触れていなかった。椅子に座り直して優子は言う。

「JMウイルスは感染した人間の中枢神経を破壊する。だが抗体を持っている人間の中でその活動は抑制させ効力が弱まる。結果としてJMウイルスに感染した感染者の脳内は常時刺激され続けた状態になる」
「それが何を」
「人間の脳は常時20パーセント程度しか使われていない。私達の機能を維持するのにそれが最も効率が良く、そして並行して全てを動かす必要が無いからだ。PCのCPUを100%で使えば悪影響が出るだろう、人間の脳も無意識の内に効率良く動いているわけだ。絶えず余力を残しながら、上手く立ち回っている。
 しかしJMウイルスによって脳機能の一部が破壊され自律神経の機能に支障をきたし、他の人間よりも意図的に所謂『馬鹿力』が出せるとしたら」

 人間の火事場の馬鹿力というものは科学的に説明がされている。人間の自律神経は体中を無意識下でコントロールしており、汗を止めようとしても勝手に発汗し、心臓の動きをコントロールすることも出来ない。筋肉の動きについても同様で、自分の身体を傷付けない程度にコントロールされている。
 その無意識下のリミッター、暗示の様なそれを解除するのも自律神経の働きである。恐怖や不安など自身を脅威にさらす状況に陥った時に活性化し、そのリミッターを解除する事で、普段無意識の内に制限されているよりも遥かに大きな力が出せるというものである。
 つまり、それを脳内で意図的に行う。JMウイルスによって中枢神経が変異しているから、意図的にリミッターを解除して脳全体の機能を最大限に発揮出来る。
 そうすれば、脳の異常な興奮状態によって、人類が未だ解明していない力を引き出す事が出来るのではないか。優子はそう語る。その言葉に弘人は別の人の言葉を思い出していた。

「JMウイルスと共存出来た者、それが魔女なのだよ。ウイルスに抗体を持ちそれと共存し、そして他の人間とは違う力を獲得している。そしてそれを遺伝という形で受け継いでいる。魔女の娘は魔女となるように」

 世代間を超えての継承。種において他の個体と明確に違う特徴。ウイルスという外的要因に適合した結果。それらが示しているものに弘人は行きつく。
 明瀬の言葉が蘇る。

「魔女は人類の進化の形だよ」
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