107 / 141
【24章・魔女と、亡者と/祷SIDE】
『24-8・奇跡』
しおりを挟む
飛んできたナイフを呑み込み、全てを焼き尽くしながら炎の塊は進む。
轟、と振動を響かせて、その焔が弾丸の様に飛ぶ。火の粉が散り空気を焦がす。
焔が進んだ跡には衝撃波となった熱風が吹き荒ぶ。灼熱が触れてもいない床を焦がし燃やす。
紅蓮が三奈瀬優子の身を包むその寸前、私の目には全てがスロウ・モーションで映る。
まるで巨大な壁のように、焔は前面の全てを薙ぎ、その焔に触れずとも纏った熱が三奈瀬優子の皮膚を溶かし表面を黒く炭化させる。
熱にうなされたタンパク質は崩壊を始めて、彼女の人間らしい部分は原型を失っていく。目尻が裂けて唇が燃えるその一瞬、彼女の表情に笑みのような物が見えた。
紅蓮の塊がその身を穿ちながら巻き込み吹き飛ばす。空中を舞ったその身体を焼いた焔は、物質にぶつかったことで激しく周囲に飛び散って、焔は割れて無数の火の粉に変わっていく。
三奈瀬優子の身体は焔に呑まれて、その四肢が踊るようにし空中を舞って。そして床に勢いよく落下した。肉を焼いた強烈な臭いが一瞬で充満する。一瞬間を開け遅れて返ってきた衝撃波は火の粉を孕んでいて、私の髪を焦がした。微かに混じる黒煙が嫌悪感を逆撫でる。
その場に倒れ込んで三奈瀬優子は動かなくなった。視線はやらず、その横を通り過ぎる。
彼女の傍らに置いてあったジェラルミンケ-スを私は拾い上げた。蓋を開くと、その中には、ペンの形をした注射器があった。数は一つのみで、型抜かれたスポンジによって固定されている。
「血清はそれだけだ」
私は振り返り三奈瀬優子の方を見た。掠れた声で彼女は楽しそうに言った。黒く焦げた全身は床に臥せたままで、それでも顔だけはこちらに向けていた。皮膚や焼け焦げ、その洋服は溶けて皮膚と一部が一体化し、髪は異臭を立てて縮れていて、その目は白く濁っている。その目を背けたくなりそうな姿であっても、彼女の言葉はハッキリとしたもので。
私は杖を彼女へ向けて言う。もはや、意味を持たない脅しではあった。
「この施設には、まだあるんじゃないですか」
「製造は出来る。だが精製してあるのはその一本だけだ。救う人間と、その手段は限られている方が価値があるだろう?」
その言葉に、私は多少嫌悪した。
「あなたは、神にでもなったつもりですか」
「神か……。そもそもこの事態を巻き起こしたのは神かもしれないな」
「何を急に馬鹿な事を」
三奈瀬優子の口から似合わない単語が出てきた。
私の言葉を前に、三奈瀬優子は掠れた声で尚語り出す。
「ゾンビの内臓機能の一部は変異していて、その体内でブドウ糖以外のエネルギー源を生成し利用している節がある。だが、そのエネルギー生成と効率において、彼等は既存の物理法則を凌駕している。仕組みが分からない」
「単に研究しようがないからなのでは」
「違うな。理屈は分かるのだ、理論が分からない。発生方法も不明、発生したモノの原理も不明。それはまるで神の悪戯じゃあないか。先程の君の現象も、まるで奇跡だ」
その言葉を最後に、臥せた三奈瀬優子は何も喋らなくなった。先程まで、何ともないように振る舞っていた彼女は、突然息絶えていた。その死の間際に、彼女は不釣り合いな言葉ばかりを吐いた。苦痛も悲鳴も、嘆きも懺悔も、彼女の言葉には欠片も無かった。ただ、彼女が至った境地を、そこで語ろうとしていた言葉を、誰かに聞いてほしかっただけなのかもしれない。
私は彼女の亡骸に踵を返す。ほんの一瞬も、彼女に手向ける時間はなく、優先すべきは明瀬ちゃんだった。
館内のサイレンは、いつの間にか火災警報に変わっていた。
轟、と振動を響かせて、その焔が弾丸の様に飛ぶ。火の粉が散り空気を焦がす。
焔が進んだ跡には衝撃波となった熱風が吹き荒ぶ。灼熱が触れてもいない床を焦がし燃やす。
紅蓮が三奈瀬優子の身を包むその寸前、私の目には全てがスロウ・モーションで映る。
まるで巨大な壁のように、焔は前面の全てを薙ぎ、その焔に触れずとも纏った熱が三奈瀬優子の皮膚を溶かし表面を黒く炭化させる。
熱にうなされたタンパク質は崩壊を始めて、彼女の人間らしい部分は原型を失っていく。目尻が裂けて唇が燃えるその一瞬、彼女の表情に笑みのような物が見えた。
紅蓮の塊がその身を穿ちながら巻き込み吹き飛ばす。空中を舞ったその身体を焼いた焔は、物質にぶつかったことで激しく周囲に飛び散って、焔は割れて無数の火の粉に変わっていく。
三奈瀬優子の身体は焔に呑まれて、その四肢が踊るようにし空中を舞って。そして床に勢いよく落下した。肉を焼いた強烈な臭いが一瞬で充満する。一瞬間を開け遅れて返ってきた衝撃波は火の粉を孕んでいて、私の髪を焦がした。微かに混じる黒煙が嫌悪感を逆撫でる。
その場に倒れ込んで三奈瀬優子は動かなくなった。視線はやらず、その横を通り過ぎる。
彼女の傍らに置いてあったジェラルミンケ-スを私は拾い上げた。蓋を開くと、その中には、ペンの形をした注射器があった。数は一つのみで、型抜かれたスポンジによって固定されている。
「血清はそれだけだ」
私は振り返り三奈瀬優子の方を見た。掠れた声で彼女は楽しそうに言った。黒く焦げた全身は床に臥せたままで、それでも顔だけはこちらに向けていた。皮膚や焼け焦げ、その洋服は溶けて皮膚と一部が一体化し、髪は異臭を立てて縮れていて、その目は白く濁っている。その目を背けたくなりそうな姿であっても、彼女の言葉はハッキリとしたもので。
私は杖を彼女へ向けて言う。もはや、意味を持たない脅しではあった。
「この施設には、まだあるんじゃないですか」
「製造は出来る。だが精製してあるのはその一本だけだ。救う人間と、その手段は限られている方が価値があるだろう?」
その言葉に、私は多少嫌悪した。
「あなたは、神にでもなったつもりですか」
「神か……。そもそもこの事態を巻き起こしたのは神かもしれないな」
「何を急に馬鹿な事を」
三奈瀬優子の口から似合わない単語が出てきた。
私の言葉を前に、三奈瀬優子は掠れた声で尚語り出す。
「ゾンビの内臓機能の一部は変異していて、その体内でブドウ糖以外のエネルギー源を生成し利用している節がある。だが、そのエネルギー生成と効率において、彼等は既存の物理法則を凌駕している。仕組みが分からない」
「単に研究しようがないからなのでは」
「違うな。理屈は分かるのだ、理論が分からない。発生方法も不明、発生したモノの原理も不明。それはまるで神の悪戯じゃあないか。先程の君の現象も、まるで奇跡だ」
その言葉を最後に、臥せた三奈瀬優子は何も喋らなくなった。先程まで、何ともないように振る舞っていた彼女は、突然息絶えていた。その死の間際に、彼女は不釣り合いな言葉ばかりを吐いた。苦痛も悲鳴も、嘆きも懺悔も、彼女の言葉には欠片も無かった。ただ、彼女が至った境地を、そこで語ろうとしていた言葉を、誰かに聞いてほしかっただけなのかもしれない。
私は彼女の亡骸に踵を返す。ほんの一瞬も、彼女に手向ける時間はなく、優先すべきは明瀬ちゃんだった。
館内のサイレンは、いつの間にか火災警報に変わっていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる