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【零和 一章・目覚めには、ショットガンの口付けを】
[零1-5・地獄]
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レベッカのその言葉と共にマントが大きくはためいた。
その背の辺りで翡翠色の鮮やかな光が溢れ出す。
細やかな粒子が散って、その発光と煌めきがまるで霞みを描く。
その光の粒子が風を巻き起こしているようで、それにマントがたなびいている。
突然、レベッカの空いてる手で思い切り抱き寄せられて、そして彼女は走り出す。
「力まないで、動かないで!」
「ちょっと!?」
レベッカがそのまま床を蹴って、窓ガラスの外へと飛び出した。
飛び出した先は空中で、今私たちがいた建物のグレーの壁が足元に臨む。
何にも触れていない足の裏を、吹き抜けていく風が撫でた。
眼下に広がったのは、何も遮るもののない遠く小さく見える地表であった。
退路を絶たれて自棄になったか、これでは自殺ではないかと私が叫ぶより先に。
レベッカが手にした銃の引き金を引いた。
ショットガンとは全く違う軽い炸裂音と共に、何かが擦合う鈍い音が断続的に響く。
銃身の先端部が打ち出されて、その軌跡に黒い影が重なった。
ワイヤーだ、と私は気がついた。
その変わった形状のハンドガンから打ち出されたのは、ワイヤーとそれを牽引する金属性のパーツであった。
しなりながら飛んでいくそのワイヤーは、その表面は光沢のない黒色でゴムの様な見た目をしている。
その先が、向かい側にあったビルの表面に固定される。
距離にしておおよそ20メートルほど先の地点。
向かいのビルは一面がガラス窓になっていたものの、何の問題もなさそうにそれはしっかりと固定されていた。
レベッカがワイヤーを射出したハンドガンの引き金を引いた。
鈍く擦れあう音と共に、ワイヤーが巻き取られ始める。
力強く、勢いよく、ワイヤーを巻き取ると共にその勢いで前方のビルへ向かって私とレベッカは飛んだ。
彼女のマントが向かい風で暴れる様にはためいて、その下から翡翠の色をした光の粒子が空中にばらまかれる。
ワイヤーによって空中を移動するその術を私は初めて見たが、人一人を抱えた状態で行うにはあまりにも不安定であるように思えた。
しかし、その実、以外にも空中での軌道は安定していた。
レベッカが手元のハンドガンを手首のスナップを利かせて動かすと、引きずられるようにして私と彼女の身体は急上昇する。
しかし、突風に煽られて軌道が大きくずれた。
ワイヤーを打ち込んでいる箇所へ向けて飛んでいる筈であったが、私たちの位置はかなり下になっていて。
まるで振り子の様に勢いよくビルの壁面へ向かっていた。
「これ、落ちるんじゃ!」
「目と口を閉じてください!」
盛大にガラスが割れる音がして、激しい衝撃が全身を襲った。
空中に放り出されたような浮遊感が襲い、その数秒後に床に叩きつけられたのが分かった。
目を閉じた暗闇の中で、上下も左右も分からなくなる。
「痛っ!」
目を開けると、薄暗い室内の様子が確認できた。
光が射し込んできているのは壁一面の窓ガラスであり、そこには大きな亀裂と穴が空いていた。
私たちは窓ガラスを突き破ってきたらしい。
床には大小のガラスの破片が散らばっていて、私はそれに触れぬように手を退けた。
室内に明かりはなく外からの採光だけで、その光に照らされて空中で踊る塵が視界の至るところに見える。
埃臭さに私は数回咳き込む。
オフィスビルの一室の様に見えたが、室内は何も置かれておらず、私達の他には誰もいない。
床に臥せていたレベッカがゆっくりと身体を起こしていた。
「助かった、のか」
思いきりぶつけた肘をさすりながら、私は身を起こす。
今私は何処にいるのか、そしてあの施設は何であったのか。
それが気になって、飛び込んできた窓ガラスの方へ近付いていった。
床のガラスの破片を避けながら、窓の側へ寄る。
その割れた窓ガラスからすきま風が吹き込んでくる。
覗き込んだ外の景色に私は息を呑んだ。
立ち並ぶ高層ビル群がまず見えた。
それは不規則に並び、ビルとビルの隙間からはビルの壁面しか見えず視界が遮られる。
しかし周囲全ての光景はその高層ビルで包囲されていた。
私達が移動してきたビルも正面に見える。
全面がガラス張りになっていて、太陽光が射し込み微かな青色を含んだ光で周囲は満ちていた。
私の地元にはない見知らぬ光景であった。
そして、何よりも。
私の眼下に広がる、地上の景色。
今私達がいるのは、高層ビルの10階くらいの位置の様で、見下ろせば地上の光景が鮮明にとは言わずとも状況の把握は出来た。
目を凝らせば、地上にいる人々の顔までは分からずとも何をしているかくらいは分かった。
いや、そうではない。
その光景はあまりにも異様すぎて、嫌というほど私は認識してしまう。
地表が波打っているように最初は見えた。
だが違った。
正確には地面が見えなかったのだ。
道路全てを埋め尽くす灰色と肌色の混じった何か、それらはひしめき合い蠢き合い、まるで巨大な絨毯であるかのように一纏まりの個体にしか見えなかった。
それらに埋め尽くされて、もはや何かが地上を覆い動いているようにしか見えなかったのだ。
地上はゾンビの姿で溢れ返っていた。
その背の辺りで翡翠色の鮮やかな光が溢れ出す。
細やかな粒子が散って、その発光と煌めきがまるで霞みを描く。
その光の粒子が風を巻き起こしているようで、それにマントがたなびいている。
突然、レベッカの空いてる手で思い切り抱き寄せられて、そして彼女は走り出す。
「力まないで、動かないで!」
「ちょっと!?」
レベッカがそのまま床を蹴って、窓ガラスの外へと飛び出した。
飛び出した先は空中で、今私たちがいた建物のグレーの壁が足元に臨む。
何にも触れていない足の裏を、吹き抜けていく風が撫でた。
眼下に広がったのは、何も遮るもののない遠く小さく見える地表であった。
退路を絶たれて自棄になったか、これでは自殺ではないかと私が叫ぶより先に。
レベッカが手にした銃の引き金を引いた。
ショットガンとは全く違う軽い炸裂音と共に、何かが擦合う鈍い音が断続的に響く。
銃身の先端部が打ち出されて、その軌跡に黒い影が重なった。
ワイヤーだ、と私は気がついた。
その変わった形状のハンドガンから打ち出されたのは、ワイヤーとそれを牽引する金属性のパーツであった。
しなりながら飛んでいくそのワイヤーは、その表面は光沢のない黒色でゴムの様な見た目をしている。
その先が、向かい側にあったビルの表面に固定される。
距離にしておおよそ20メートルほど先の地点。
向かいのビルは一面がガラス窓になっていたものの、何の問題もなさそうにそれはしっかりと固定されていた。
レベッカがワイヤーを射出したハンドガンの引き金を引いた。
鈍く擦れあう音と共に、ワイヤーが巻き取られ始める。
力強く、勢いよく、ワイヤーを巻き取ると共にその勢いで前方のビルへ向かって私とレベッカは飛んだ。
彼女のマントが向かい風で暴れる様にはためいて、その下から翡翠の色をした光の粒子が空中にばらまかれる。
ワイヤーによって空中を移動するその術を私は初めて見たが、人一人を抱えた状態で行うにはあまりにも不安定であるように思えた。
しかし、その実、以外にも空中での軌道は安定していた。
レベッカが手元のハンドガンを手首のスナップを利かせて動かすと、引きずられるようにして私と彼女の身体は急上昇する。
しかし、突風に煽られて軌道が大きくずれた。
ワイヤーを打ち込んでいる箇所へ向けて飛んでいる筈であったが、私たちの位置はかなり下になっていて。
まるで振り子の様に勢いよくビルの壁面へ向かっていた。
「これ、落ちるんじゃ!」
「目と口を閉じてください!」
盛大にガラスが割れる音がして、激しい衝撃が全身を襲った。
空中に放り出されたような浮遊感が襲い、その数秒後に床に叩きつけられたのが分かった。
目を閉じた暗闇の中で、上下も左右も分からなくなる。
「痛っ!」
目を開けると、薄暗い室内の様子が確認できた。
光が射し込んできているのは壁一面の窓ガラスであり、そこには大きな亀裂と穴が空いていた。
私たちは窓ガラスを突き破ってきたらしい。
床には大小のガラスの破片が散らばっていて、私はそれに触れぬように手を退けた。
室内に明かりはなく外からの採光だけで、その光に照らされて空中で踊る塵が視界の至るところに見える。
埃臭さに私は数回咳き込む。
オフィスビルの一室の様に見えたが、室内は何も置かれておらず、私達の他には誰もいない。
床に臥せていたレベッカがゆっくりと身体を起こしていた。
「助かった、のか」
思いきりぶつけた肘をさすりながら、私は身を起こす。
今私は何処にいるのか、そしてあの施設は何であったのか。
それが気になって、飛び込んできた窓ガラスの方へ近付いていった。
床のガラスの破片を避けながら、窓の側へ寄る。
その割れた窓ガラスからすきま風が吹き込んでくる。
覗き込んだ外の景色に私は息を呑んだ。
立ち並ぶ高層ビル群がまず見えた。
それは不規則に並び、ビルとビルの隙間からはビルの壁面しか見えず視界が遮られる。
しかし周囲全ての光景はその高層ビルで包囲されていた。
私達が移動してきたビルも正面に見える。
全面がガラス張りになっていて、太陽光が射し込み微かな青色を含んだ光で周囲は満ちていた。
私の地元にはない見知らぬ光景であった。
そして、何よりも。
私の眼下に広がる、地上の景色。
今私達がいるのは、高層ビルの10階くらいの位置の様で、見下ろせば地上の光景が鮮明にとは言わずとも状況の把握は出来た。
目を凝らせば、地上にいる人々の顔までは分からずとも何をしているかくらいは分かった。
いや、そうではない。
その光景はあまりにも異様すぎて、嫌というほど私は認識してしまう。
地表が波打っているように最初は見えた。
だが違った。
正確には地面が見えなかったのだ。
道路全てを埋め尽くす灰色と肌色の混じった何か、それらはひしめき合い蠢き合い、まるで巨大な絨毯であるかのように一纏まりの個体にしか見えなかった。
それらに埋め尽くされて、もはや何かが地上を覆い動いているようにしか見えなかったのだ。
地上はゾンビの姿で溢れ返っていた。
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