120 / 141
【零和 二章・認識齟齬の水面下】
[零2-5・落下]
しおりを挟む
「民間組織ってこと? 私の知っている日本では法律で銃は持てないんだけど」
『その指摘に関して言えばですけど、もう政府という組織は機能はしていませんから』
あっさりとそう返されて、私は動揺せざるを得なかった。
『各区画にいるゾンビ対策チームを、ハウンドと呼んでいます。インフラ整備やゾンビの侵入阻止なんかが主な任務です』
「さいしょにダイサン東京区画って言ってたけど」
『そうです。ダイイチからダイサンまである区画の一つです』
「それぞれがゾンビ対策用の自警団を持っているってこと? 政府が機能してないってことは、自治体がそれを主導してるの?」
『区画はそれぞれが自治権を持った巨大なコミュニティです。ですから防衛機能なんかも、それぞれの区画によって構成されています』
頭が痛くなってきた。
一度、始めからこの世界についての情報を整理する必要があったし状況を確認したかった。
あまりにも情報量が多すぎて、それを断片的にしかインプット出来ていない。
とにかく、今の話で分かったのは、現状日本の政府組織や都道府県の公的組織は崩壊しており、この東京においては三つのコミュニティが成立している事になる。
政府組織が瓦解している為に、それぞれのコミュニティが自治権を持ち、対ゾンビ用に武装した部隊を有しているという事らしい。
先を行っていた四人に追い付く。
素早く移動していくその姿に遅れないように、ワイヤーを再度撃ち込む。
コツを掴んできた気がした。
慣れてきてみれば、確かに有用な装備であるのは理解した。
地上はゾンビに溢れ行き来出来ない以上、安全な通路ではある。
けれども、これ以外に方法はありそうなものだった。
この世界の全容を早く確かめてみたくあった。
それに。私は明瀬ちゃんを捜さなければいけない。
『このペースで付いてこれる?』
私のヘッドセッドにカイセさんからの通信が入った。
ルート上、超高層ビルの壁面を登る必要があるようで、カイセさん達は斜め上へ向かってワイヤーを撃ち出し、数十メートル、上に移動していく。
先程までと比べて、かなり距離が空いてしまっていた。
「大丈夫です、なんとか」
ビル壁面にワイヤーを撃ち込み、AMADEUSの出力を上げる為に引き金を引き絞る。
その加減で出力の強弱が上がる事にも慣れてきた。
ワイヤーの巻き上げに引き上げられて、その勢いでビル壁面に衝突しそうになる直前に、ワイヤーの設置を解除する。
身を捻って、WIIGの銃口を斜め上へと向けて反対側のビルへとワイヤーを撃ちこむ。
斜めに移動する負荷でワイヤーがたわみ、巻き上げる際に鈍い摩擦音が混ざる。
風の勢いが増してきて、身体が流される。
動きとしては慣れてきたが、何が違うのか私よりも移動速度が全く違った。
「私より全然早い」
私の言葉に追い付いてきたレベッカが言葉を返す。
彼女はAMADEUSの操作が下手だと評されていたが、素人目には彼女達の差が分からない。
『カイセさんは、一番飛ぶのが上手いですから』
「参考にするよ」
その短い会話で呼吸を整えて、私は再度移動を開始する。
ワイヤーに引かれて飛んでいる際には、その風圧で呼吸が乱れる為、息苦しさがあった。
次の地点にワイヤーを撃ちこみながら私はカイセさんに聞く。
カイセさん達より数メートル下ではあるが、何とか足元まで追い付けそうだった。
「ペースを上げてますけど、何か理由が?」
『それは』
その言葉は、雑音と共に途絶えた。
ヘッドセッド越しに聞こえた大きな何かの音が、頭上で響いた音と被る。
目の前を過ったのは、黒い影で。
それが私を掠めて、私のワイヤーが揺れる。
頬に何かの感触を覚えた。
空いている右手でつと触れる。
生暖かく、そして粘性のある液体。
その感覚は覚えがあった。
『カイセさん!』
落下していた黒い影を見て、レベッカがそう叫ぶのが聞こえた。
『その指摘に関して言えばですけど、もう政府という組織は機能はしていませんから』
あっさりとそう返されて、私は動揺せざるを得なかった。
『各区画にいるゾンビ対策チームを、ハウンドと呼んでいます。インフラ整備やゾンビの侵入阻止なんかが主な任務です』
「さいしょにダイサン東京区画って言ってたけど」
『そうです。ダイイチからダイサンまである区画の一つです』
「それぞれがゾンビ対策用の自警団を持っているってこと? 政府が機能してないってことは、自治体がそれを主導してるの?」
『区画はそれぞれが自治権を持った巨大なコミュニティです。ですから防衛機能なんかも、それぞれの区画によって構成されています』
頭が痛くなってきた。
一度、始めからこの世界についての情報を整理する必要があったし状況を確認したかった。
あまりにも情報量が多すぎて、それを断片的にしかインプット出来ていない。
とにかく、今の話で分かったのは、現状日本の政府組織や都道府県の公的組織は崩壊しており、この東京においては三つのコミュニティが成立している事になる。
政府組織が瓦解している為に、それぞれのコミュニティが自治権を持ち、対ゾンビ用に武装した部隊を有しているという事らしい。
先を行っていた四人に追い付く。
素早く移動していくその姿に遅れないように、ワイヤーを再度撃ち込む。
コツを掴んできた気がした。
慣れてきてみれば、確かに有用な装備であるのは理解した。
地上はゾンビに溢れ行き来出来ない以上、安全な通路ではある。
けれども、これ以外に方法はありそうなものだった。
この世界の全容を早く確かめてみたくあった。
それに。私は明瀬ちゃんを捜さなければいけない。
『このペースで付いてこれる?』
私のヘッドセッドにカイセさんからの通信が入った。
ルート上、超高層ビルの壁面を登る必要があるようで、カイセさん達は斜め上へ向かってワイヤーを撃ち出し、数十メートル、上に移動していく。
先程までと比べて、かなり距離が空いてしまっていた。
「大丈夫です、なんとか」
ビル壁面にワイヤーを撃ち込み、AMADEUSの出力を上げる為に引き金を引き絞る。
その加減で出力の強弱が上がる事にも慣れてきた。
ワイヤーの巻き上げに引き上げられて、その勢いでビル壁面に衝突しそうになる直前に、ワイヤーの設置を解除する。
身を捻って、WIIGの銃口を斜め上へと向けて反対側のビルへとワイヤーを撃ちこむ。
斜めに移動する負荷でワイヤーがたわみ、巻き上げる際に鈍い摩擦音が混ざる。
風の勢いが増してきて、身体が流される。
動きとしては慣れてきたが、何が違うのか私よりも移動速度が全く違った。
「私より全然早い」
私の言葉に追い付いてきたレベッカが言葉を返す。
彼女はAMADEUSの操作が下手だと評されていたが、素人目には彼女達の差が分からない。
『カイセさんは、一番飛ぶのが上手いですから』
「参考にするよ」
その短い会話で呼吸を整えて、私は再度移動を開始する。
ワイヤーに引かれて飛んでいる際には、その風圧で呼吸が乱れる為、息苦しさがあった。
次の地点にワイヤーを撃ちこみながら私はカイセさんに聞く。
カイセさん達より数メートル下ではあるが、何とか足元まで追い付けそうだった。
「ペースを上げてますけど、何か理由が?」
『それは』
その言葉は、雑音と共に途絶えた。
ヘッドセッド越しに聞こえた大きな何かの音が、頭上で響いた音と被る。
目の前を過ったのは、黒い影で。
それが私を掠めて、私のワイヤーが揺れる。
頬に何かの感触を覚えた。
空いている右手でつと触れる。
生暖かく、そして粘性のある液体。
その感覚は覚えがあった。
『カイセさん!』
落下していた黒い影を見て、レベッカがそう叫ぶのが聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる