クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【零和 四章・空転する暫定神話について】

[零4-5・葬式]

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 どうやってもなにも、あの場にいた理由など私には分からない。
「U34、この施設が何の施設なのかデータが無いのだ。完全にオフラインかつその所有者及びその詳細について住基データベースに登録がない。パンデミックの混乱で全て喪われてしまっている。そしてハウンドがこの施設の調査の為に向かい、君と接触したわけだ」
 レベッカが何かデータを取っていたようだが、それが目的だったらしい。
 ウンジョウさんが口を挟んだ。
「可能性として考えられるのは、あの施設が医療施設であり、長期入院をしていた昏睡患者だという線だ。パンデミック発生によって施設は放棄され、患者はそのまま施設内に取り残された。そして目覚めた時に、記憶の混濁を起こしている。と言う線だ」
「あの日、みんな死んでいった事が、明瀬ちゃんが泣いた事が。全部嘘だったって、そう言いたいんですか。そんな風に言い切れるんですか」
「では60年の時間を超えてきたとでも」
 私とウンジョウさんのやり取りをラセガワラ氏は制する。
「問題はU34が少々気になる建物であるということなのだ」
「詳細不明な建物だからですか」
「いや、U34がリーベラと通信を行っているログがあったからだよ。それを調べるために彼等は危険を冒したのだ」
 リーベラ、という知らない単語が出てきた。
 もっとも私があの施設にいた理由など知る由もなく、その点については平行線のままで。
 実際、私が何かを隠しているわけでも無いので、少し諦めのムードが漂う。
「まぁ、分からぬという事を問い詰めても仕方がない。ウンジョウ、亡くなった者達の葬儀を行う」
「はい」
「あなたの目の前で亡くなった者達に、少しの時間をくれても良いな?」
「それは構いませんけど」
 ほんの少しだけ、言葉を交わしただけの人であったが、だがそれでも、その死を悼む事に不満は無かった。
 そして、それは私が何度も忘れていたことでもある。
 ラセガワラ氏が手元の端末を操作する。
 部屋の壁一面に設置されていた画面に、三人分の名前らしきものが表示された。
 カイセさんの物があって、先程の三人の名前だと理解する。
 それと同時に、その名前の表示は消えていった。
 その一瞬、その場の全員が黙って。そうして画面の点灯は消える。
「これで亡くなった者達の魂は救われるだろう」
 意味が一瞬、呑み込めなかった。今ので、「彼らの葬儀」が終わったのだと気が付けなかったからだ。
「……今ので終わりなんですか」
 私の問い掛けに、ウンジョウさんとレベッカが怪訝な表情を見せる。
「今のじゃ何も」
「ウンジョウ、彼女と二人にしてくれ」
 ラセガワラ氏がそう言った。
 ウンジョウさんが何か言い返そうとしたようだったが、有無を言わさぬ様子でラセガワラ氏は首を横に振るのみだった。
 不思議がるレベッカもそのまま部屋を出ていく。
 部屋に二人残されて、ラセガワラ氏が私を手招きした。
「着いてきなさい」
 隣の部屋に移動する。手狭なその一室には、仏壇があった。とは言っても本当に質素なもので。
「君の目には形ばかりの、と映るかな」
「……はい」
 今まで観てきた未来の景色とは、ひどく不釣り合いな座布団を差し出されて私は床に座る。
 ただの床に座布団を敷いて座って、簡易な仏壇を前にすると違和感を覚えた。
 ロウソクの火が灯る。
 とは言っても、それを模した電気式のランプであったが。
 仏壇の前に置かれた四角い白い箱から煙が上がる。
 線香の香りに似ているが何処かアロマっぽさがある。
 アロマディフューザーにしか見えなかった。
 似せてはいるが、どこか程遠い。
 お経が何処からか流れ出した。
 これも恐らくスピーカーがあるのだろう。
 そんな奇妙な中で、私に背を向けたままラセガワラ氏は言う。
「2019年、私は大学生の頃だ」
 お経に混じって掠れた声がする。仏壇から目を背けず、ラセガワラ氏は私の前で背中で語る。
「君は未来人の如く私達を見るかもしれないが、その61年間の間は決して不連続なものではない。変化し変容すること、進化とも呼べるそれは、必ず一繋ぎの何かが残る。亡くなった者の弔い方もそうだ。時代と共に、社会と共に、人の生活は大きく変わってきた。君の目には奇妙に見えるかもしれない葬儀のやり方も、その進化の過程は必ず連続性がある。最期に残ったものだけを突然目にしたから奇妙に映っただけで、今ここに置いてあるものは、少なくとも先程のものよりは受け入れやすいのではないかな」
「道具の簡易化、手順の簡略化。そうしていった結果が先程の葬儀ということですか」
「左様。この道具も最早、時代遅れの物を引っ張り出してきて保存しているに過ぎぬもの。勿論これですら本来の形とは大きくかけ離れているのは知っておる。私とて、君と同じ時代を見ていた頃もあったのだから」
 60年。確かに長い時間ではあるが、それは決して断絶が生じる程の時間ではない。彼のようにその時間を生きてきた人がいるように。その過程を私は知らないだけで、彼にとってはそこには確かに連続性が存在するのだ。
「残された者が心の整理をつける為の、ある種の儀式。その本質自体は変わっていない」
「本質ですか」
「死んだ者にとっては、私達が何をしようと同じなのだから」
 そう、本質だ。
 死んだものは、最早只の有機物でしかない。
 命が途絶えた瞬間に、その身が埋葬されようが火にくべられようが、ゾンビの血肉になろうが、その者にとっては関係がないのだ。
 もし本当に、この世界に天国と地獄があって、神様でもいるのなら別だろうけれど。
「だが、それでもこうやってお香を上げお経を読むという行為をしなくては納得できない自分もいるのだよ。このやり方自体も本当は間違っていると知っていても、だ。その間の差異も、基準も、言語化出来ないが、だがそれに従ってしまうのは人間の不思議な所だよ」
 形式という面で見れば、目の前で行われている「儀式」だって間違っている。
 けれども、それは確かな意味を持っている。
 少なくともラセガワラ氏にとっては。
 そこに、何の違いがあるのだろうか。私には、私の目にはその差が分からない。
 お経の再生が止まって、ラセガワラ氏は私の方に振り返る。
「君だって大切な人を亡くした事もあるだろう」
 私は曖昧に頷く。
 それは肯定でもあり、けれども否定出きることでもあった。
 一番大切な人は、まだ死んでなんかいない。
 私の見てきた世界とこの世界の間に連続性があろうと無かろうとも、私は探す必要がある。
 それはもしかしたら、この「儀式」と本質は同じなのかもしれない。
 それでも、いや、だからこそ。
「私は大切な人の行方を探す必要があります」
 ラセガワラ氏が静かに言った。
「部屋を用意させよう、今日はもう休みなさい」
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