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【零和 四章・空転する暫定神話について】
[零4-6・食事]
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部屋を出るとレベッカが待っていた。
レベッカに案内されて居住層の部屋に向かった。
扉の前のセンサーに私の手の平を読み込ませる。
静脈と指紋によって部屋のキーになるらしい。
登録を終えて部屋の中に入るとビジネスホテルの一室の様な、ベッドと簡易なテーブルスペースのある一人用の部屋だった。
食事やシャワーは共同生活層でサービスを受けれるとレベッカは言う。
高層ビル内には社会的インフラを完備しているという。
居住層と共同生活部層が存在しており、レベッカの言葉を借りれば「健康的で文化的な生活」が保証されているらしい。
水や食料、電気等の問題について私は気になってレベッカに聞いた。
「ハイパーオーツ政策による都市部への一極集中を前提として、社会インフラが再構築されました。都市部を除く一帯が大規模な農地になったのに併せて、都市部の生活維持の為に電気、空気、水道、下水、ゴミといったシステムの全てがそれに最適化する形を取られました」
レベッカの説明は、確かに理想的なインフラが完全に構築された世界だった。
都市部外の広大な農地で大規模生産された食料は、加工工場に運ばれ全ての住民に公平に供給されるだけの量が生産される。
それを支えるのは機械による完全自動化だ。
工場生産された食料はドローンや専用のインフラによって都市部に運ばれる。
その他の社会インフラも例外ではなく、そこに人間の手は殆どが必要ない。
スタンドアローンに近い独自のネットワークによって、それらは自動化されている。
人の営みを支えるのに人が必要なくなった社会だった。
俄かには信じがたいが、その幾つかの恩恵を私は目の当たりにしてきている。
私は部屋のベッドに、レベッカはテーブルの前の椅子に腰かけた。
レベッカは私が先程受けた血液検査の結果を聞いてきたらしく私に結果を教えてくる。
「血液検査の結果が出ました。感染の痕跡は見られませんし健康そのものです」
「……栄養失調とかではなかった?」
「はい、問題ありません」
U34にいた理由は不明とは言え、私が仮に入院中の患者だったとすれば健康だったというのも少々不可解だ。
身体的な病気でないとしても栄養失調にならない程度にはあの建物で食事等を出来ていたということになる。
「それとダイサン区画内の住民データベースと照合をかけましたけど、あなたのデータは見つかりませんでした。他の区画の住民だった可能性がありますから、そこに行けば詳しい情報が分かるかもしれません」
ダイサン区画内の全ての住民はデータベース上に記録があるらしい。
私の年齢からしても登録されているのは間違いないと言う。
他の区画や関東地方以外の住民で、U34に入院か何かをしていた可能性があるらしい。
私の素性云々よりも、その話で気にかかる事があった。
「明瀬紅愛という私と同い年の少女を探す事は出来る?」
「アキセクレアさん……、ですか? どなたなのでしょうか」
「……少なくとも私の記憶に確かに残っている人物で、重要な人」
私は言葉を濁した。
データベース検索の申請を出しておく、とレベッカは応える。
明瀬ちゃんがこのダイサン区画にいる可能性に期待せざるを得なかった。
「夕食にしましょうか」
レベッカに連れていかれたのは食堂らしき場所だった。
沢山の人が楽し気に会話と食事をしている。生存者、と呼ぶのが似つかわしくないくらいに、明るい表情と雰囲気だった。
レベッカが言っていた様に、工場生産された食事は丁重にパッキングされており、イメージとしては既製品の弁当に近い。
保存食なんかではない、普通の食事だった。
主食のパンも、白身魚のフライも、新鮮なサラダも、そこには何の貧しさがない。
それが毎食、全員に行き渡るだけの量があると言う。
それを前にして、私は手を付けるのを戸惑った。
人々の喧騒の中で、私は思ったままを口にだす。
「だからと言って、足元の世界は滅びているわけなのに。呑気に生きていけるものなのか」
「完璧なインフラはそれを覆い隠してしまえるんです」
レベッカに案内されて居住層の部屋に向かった。
扉の前のセンサーに私の手の平を読み込ませる。
静脈と指紋によって部屋のキーになるらしい。
登録を終えて部屋の中に入るとビジネスホテルの一室の様な、ベッドと簡易なテーブルスペースのある一人用の部屋だった。
食事やシャワーは共同生活層でサービスを受けれるとレベッカは言う。
高層ビル内には社会的インフラを完備しているという。
居住層と共同生活部層が存在しており、レベッカの言葉を借りれば「健康的で文化的な生活」が保証されているらしい。
水や食料、電気等の問題について私は気になってレベッカに聞いた。
「ハイパーオーツ政策による都市部への一極集中を前提として、社会インフラが再構築されました。都市部を除く一帯が大規模な農地になったのに併せて、都市部の生活維持の為に電気、空気、水道、下水、ゴミといったシステムの全てがそれに最適化する形を取られました」
レベッカの説明は、確かに理想的なインフラが完全に構築された世界だった。
都市部外の広大な農地で大規模生産された食料は、加工工場に運ばれ全ての住民に公平に供給されるだけの量が生産される。
それを支えるのは機械による完全自動化だ。
工場生産された食料はドローンや専用のインフラによって都市部に運ばれる。
その他の社会インフラも例外ではなく、そこに人間の手は殆どが必要ない。
スタンドアローンに近い独自のネットワークによって、それらは自動化されている。
人の営みを支えるのに人が必要なくなった社会だった。
俄かには信じがたいが、その幾つかの恩恵を私は目の当たりにしてきている。
私は部屋のベッドに、レベッカはテーブルの前の椅子に腰かけた。
レベッカは私が先程受けた血液検査の結果を聞いてきたらしく私に結果を教えてくる。
「血液検査の結果が出ました。感染の痕跡は見られませんし健康そのものです」
「……栄養失調とかではなかった?」
「はい、問題ありません」
U34にいた理由は不明とは言え、私が仮に入院中の患者だったとすれば健康だったというのも少々不可解だ。
身体的な病気でないとしても栄養失調にならない程度にはあの建物で食事等を出来ていたということになる。
「それとダイサン区画内の住民データベースと照合をかけましたけど、あなたのデータは見つかりませんでした。他の区画の住民だった可能性がありますから、そこに行けば詳しい情報が分かるかもしれません」
ダイサン区画内の全ての住民はデータベース上に記録があるらしい。
私の年齢からしても登録されているのは間違いないと言う。
他の区画や関東地方以外の住民で、U34に入院か何かをしていた可能性があるらしい。
私の素性云々よりも、その話で気にかかる事があった。
「明瀬紅愛という私と同い年の少女を探す事は出来る?」
「アキセクレアさん……、ですか? どなたなのでしょうか」
「……少なくとも私の記憶に確かに残っている人物で、重要な人」
私は言葉を濁した。
データベース検索の申請を出しておく、とレベッカは応える。
明瀬ちゃんがこのダイサン区画にいる可能性に期待せざるを得なかった。
「夕食にしましょうか」
レベッカに連れていかれたのは食堂らしき場所だった。
沢山の人が楽し気に会話と食事をしている。生存者、と呼ぶのが似つかわしくないくらいに、明るい表情と雰囲気だった。
レベッカが言っていた様に、工場生産された食事は丁重にパッキングされており、イメージとしては既製品の弁当に近い。
保存食なんかではない、普通の食事だった。
主食のパンも、白身魚のフライも、新鮮なサラダも、そこには何の貧しさがない。
それが毎食、全員に行き渡るだけの量があると言う。
それを前にして、私は手を付けるのを戸惑った。
人々の喧騒の中で、私は思ったままを口にだす。
「だからと言って、足元の世界は滅びているわけなのに。呑気に生きていけるものなのか」
「完璧なインフラはそれを覆い隠してしまえるんです」
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