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第四部 誰が為にあるのか
治癒団(リント)の人々
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金色の十字を蛇のような竜のようなモチーフが円く縁取っている印。
十字蛇竜治癒団(リントヴルム)の証が描かれた提げ看板を潜ると、急に空気が冷たくなり鼻腔を消毒液の香りがくすぐった。
病院独特のあの雰囲気。
この世界に来てから初めて訪れた診療所はそんな臭いや風景を俺に思い出させていた。
噂の医師'セファ・カロンディーク'がいるという診療所は街のほとんど真ん中にあった。
誰にきいてもすぐに道順を教えてもらえるような、そうでなくても歩いていれば見付けられるような。そこまで大きな施設では無かったが、誰でもここが診療所だと解る。
それほど有名で、それ故に。
「……うわ。ものすごく混んでる……」
提げ看板の奥には細い路が続き、そこには診察の順番を待つ患者がみっちりと並んでいた。
俺は予想外の状態に頭を抱えることとなった。
いや、少し考えれば予想できていたかもしれないが。
「こりゃ気軽に相談できる相手じゃあなさそうだな。どうしたもんか……」
俺をこんな状態にしている、全ての元凶であるマグがもしかしたら待っているかもしれない機械都市。
そこへ行くための方法を聞きに騎士団を尋ねればジンガ達とは行き違い。
ミレイから聞いた話では、機械都市へ赴くためには有権者の紹介がいるとのことで、治癒団(リント)であれば機械都市を往来する権利もあり掛け合ってもらえるのではないかということ。
さっきは考え事のあまり前方不注意となり果物の山を運ぶ郵便屋と追突してしまい、だが、それを好機だとして咄嗟に治癒団の医師の名前を聞き出した。
ここへはその'セファ先生'の名前を頼りに街人らに聞き込みをしてやってきたところだ。
しかしまた、この状態では。
有権者に接触するにも簡単にはいかなそうだ。
情報収集もできたし、振り出しにまでは戻っていないのがせめてもの幸いか。
今は一先ず患者らと一緒にこの長蛇の列に並んで順番を待つしかなさそうだ。
「おやー? おやおやおやーぁ?」
考えをまとめながら次の手が出ず行き詰まり、一旦は順番待ちに加わろうと決めたとき。
大きな茶色い鳥の翼を持った人物が一人。俺の前に立ちはだかった。
猫背気味で白衣姿。金色の印が白衣の裾に描かれているところを見ると、その人物もまた治癒団(リント)の一員であることがわかる。
「キミ、初診じゃない? ここに並ぶのは再診の予約分の患者サンだよ?」
「あの、すみません。セファ先生にお会いしたくて……」
白髪だが顔を見れば思っていたよりも若い。後ろに撫で付けたヘアスタイルにタレ目気味。医者というよりも研究員のような出で立ちで、白衣は薬品の臭いが染み着いてよれていた。
首から提げた名札には'コランバイン・アクィル'と記されている。
ちょっと怪しいがどうやらこの人も医師らしい。
もしかしたらセファに会うための糸口になるだろうか。
下から顔を覗き見てくるコランバインに尋ねようとすると、「ははあ」と何かわかったように彼は頷いて聞き返した。
「もしかしてキミ、患者サンではないね? 雑誌の記者サン? 研究職の学生サン? それともうちの求人見て来てくれたお手伝いサン?」
「その、どれでもないんですけど、機械都市のことでお尋ねしたいことがありまして……」
「はて。機械都市……うーんと……そう、'機械都市'って言った? あー。なるほど。それは確かにボクじゃなくてセファ先生じゃなきゃだめな案件だねェ」
一気に俺へ顔を近付けたかと思えば一人で納得してサッと退き、振り返って顎で順番待ちの列の奥を指す。
「よかったねェ。セファ先生ならいまちょうど昼休憩でボクと交替だよォ。すぐ来ると思うから声掛けてみたら?」
何故か機嫌が良さそうな声で言って笑った。
コランバインはヒラヒラと片手を振り、列の横を歩いて交替と言っていた持ち場……セファが交替待ちをしているであろう診察室へと向かっていく。
と、彼と擦れ違いに三人の医者が診察室から出て来た。
(いた……!)
三人いるうち連れの若い二人に指示を促している年配者がセファで間違いなさそうだ。
道すがら聞いていた通り、頭のてっぺんで右側を白、左側を水色と真っ二つにわけた奇抜な髪色で、天使のような真っ白な翼が背中に生えている壮年男性だ。特徴が一致する。
「あの! セファ先生」
連れの二人が離れて一人になった瞬間。すかさず彼を呼び止める。
「……どちら様だろうか。私は君と何か約束をしていたかね?」
セファは全く似合わない、女性が掛けるような可愛らしいピンク色縁のメガネの奥の物厳しい目で俺を見た。
「セファ先生。貴方にお話ししたいことと頼みたいことがあるんです」
「……取材ならば受付を通してくれ給(たま)え」
提げ看板は通過出来たが、セファの二言目はまるで門前払いな言い様だった。
先程入れ違いに去った気さくそうな医師、コランバインも同じように俺のことを部外者扱いしていたが治癒団(リント)にはそれだけしょっちゅう取材が来るということなのだろうか。
常人には習得できない治癒(リペア)魔法を扱う者が複数人所属し、この世界での病院の役割と病理研究の大半を請け負っている大きな組織ともなれば需要はあきらか……と、考えてもいい。
港街の診療所が今のように押しくらまんじゅうになっているのもわかるし、見ず知らずの俺がポンとやってきたところで当然の扱いをされているのだろう。
「私は今から回診なのでな」
言い放ってセファが去ろうとする。
「俺別にインタビュアーとかじゃないんです。機械都市へ行くためにお聞きしたいことがあって……」
ポップなヘアカラーと天使のような外見(みてくれ)×(かける)辛辣な眼差しがちぐはぐな彼の、毅然とした佇まいにも引き下がるわけにはいかない。
患者でも記者でもない俺の図々しい申し出を、不愉快だと言わんばかりに怪しんでセファが眉間に皺を寄せた。
「機械都市だと? 君に構っている時間はない。すまないが患者を待たせている」
俺を見るセファの目は予想していたよりも遥かに冷たく、最初からこの人が相手にしてくれないことを俺は悟っていた。
それだけの威圧があり、医院の代表責任者たる威風もある。
患者のことしか頭にない。と、はっきり言い、態度にも表す。
真面目で厳格で融通のきかない、竹を割る以前にがちがちに硬くて割れない竹そのもののような性格なのだろう。
診る事と看る事がこの人の本質で行動原理で全てなのだろう。
取りつく島もないとは今の俺を表現するための言葉だった。
けれども俺は機械都市へ向かう為の手がかりを、この人物が持つ切符を諦めてのこのこ帰るわけにはいかないのだ。
「行き方を教えて欲しいんです。機械都市へ行くには往来できる人の推薦がいるとうかがいました」
「だとしても初対面の君を私が推薦する理由はない。帰りなさい」
「でも」
「……警備! 彼を送り出して差し上げろ」
セファの苛立った語気を聞き付け、金髪ロン毛の大柄な男が俺の前に現れた。
鎧に金色の鷹のメダルが嵌められている。おそらくジンガ達と同じ王国騎士団の別の部隊の人間なのだろう。
思い返してみれば診療所の看板脇にも同じ鷹の部隊証をつけた人物が何人か立っていた。
金の鷹マークはカナンに連れられて騎士団の支部に到着した時にも見ている。
ファリーに傷付けられた人々に治癒団(リント)と共に寄り添っていた人々も、スーを路地裏に連れ込んだ卑しい男も確か同じ物をつけていたはずだ。
王国騎士団(バテンカイトス)にも様々な立場の騎士がいるとは聞いていたし実際に見ても来た。警備と呼ばれた通り、この大男はこの診療所やセファら医師の護衛についているのだろう。
「君ねぇー。邪魔したら駄目じゃあないかあ。セファ先生はお忙しいんだよぅ?」
間延びした喋り方の騎士は肉厚な手で俺の肩をぐいと引っ張り、俺とセファとの距離を離す。
だが、それで怯むぐらいならばここには来ていない。
考え無しの俺は意地を張ってその手をどけ、背を向けたセファを強気に追い掛ける。
「セファ先生! 事情を説明させてください!」
「しつこい奴だ。話がしたいのなら相応に段取りをしなさい」
だが、やはりセファは俺の話を聞こうとしない。それどころか、機械都市という単語を口にしてからというもの、どこか焦っているようにすら感じられる。
もう一息だ。無理を押し通すのはジンガ達にだってやってのけたんだ。脳みそを掻き回され、苦痛の連続だった嘘発見器にも耐えた強靭な俺の鼻や精神を見くびるなよ。
「い、っで……っ!」
「あのねお兄さん、聞き分けて貰わないと。先生が困ってんだぁ」
鼻っ柱と精神力に自信はあっても物理では俺(マグ)はてんで駄目だった。
とてもではないが、巨体に覆い被さられ潰される前にギブアップせざるを得ない。先ほどよりも強い力で肩を掴まれ、骨が軋む感覚に俺も押し黙ってしまった。
もう少しで手が届いたはずの大きな手掛かりが目の前から去ってしまう。真実へ向かう道のりと俺の体が暴力に引き裂かれそうになった時、
「お静かに。ここは病院ですよ。ガルラさん、もう結構です。セファ先生、すみません。こちらの方は私がお呼びしたんです」
「何だと? 確かか、テーオバルト」
「ええ、受付で待っているように伝えたのですが私がお待たせし過ぎてしまったのです。失礼致しました。セファ先生は回診がございますでしょう」
黒縁眼鏡に白い蝙蝠羽根。顔の横にはスーと同じ角。
助け舟として登場した白衣の竜人、テーオバルト・H・リントヴルムが俺に話を合わせるよう合図をくれ、危うく大男に捻られて迎える最悪のエンディングは回避できた。
金色の十字を蛇のような竜のようなモチーフが円く縁取っている印。
十字蛇竜治癒団(リントヴルム)の証が描かれた提げ看板を潜ると、急に空気が冷たくなり鼻腔を消毒液の香りがくすぐった。
病院独特のあの雰囲気。
この世界に来てから初めて訪れた診療所はそんな臭いや風景を俺に思い出させていた。
噂の医師'セファ・カロンディーク'がいるという診療所は街のほとんど真ん中にあった。
誰にきいてもすぐに道順を教えてもらえるような、そうでなくても歩いていれば見付けられるような。そこまで大きな施設では無かったが、誰でもここが診療所だと解る。
それほど有名で、それ故に。
「……うわ。ものすごく混んでる……」
提げ看板の奥には細い路が続き、そこには診察の順番を待つ患者がみっちりと並んでいた。
俺は予想外の状態に頭を抱えることとなった。
いや、少し考えれば予想できていたかもしれないが。
「こりゃ気軽に相談できる相手じゃあなさそうだな。どうしたもんか……」
俺をこんな状態にしている、全ての元凶であるマグがもしかしたら待っているかもしれない機械都市。
そこへ行くための方法を聞きに騎士団を尋ねればジンガ達とは行き違い。
ミレイから聞いた話では、機械都市へ赴くためには有権者の紹介がいるとのことで、治癒団(リント)であれば機械都市を往来する権利もあり掛け合ってもらえるのではないかということ。
さっきは考え事のあまり前方不注意となり果物の山を運ぶ郵便屋と追突してしまい、だが、それを好機だとして咄嗟に治癒団の医師の名前を聞き出した。
ここへはその'セファ先生'の名前を頼りに街人らに聞き込みをしてやってきたところだ。
しかしまた、この状態では。
有権者に接触するにも簡単にはいかなそうだ。
情報収集もできたし、振り出しにまでは戻っていないのがせめてもの幸いか。
今は一先ず患者らと一緒にこの長蛇の列に並んで順番を待つしかなさそうだ。
「おやー? おやおやおやーぁ?」
考えをまとめながら次の手が出ず行き詰まり、一旦は順番待ちに加わろうと決めたとき。
大きな茶色い鳥の翼を持った人物が一人。俺の前に立ちはだかった。
猫背気味で白衣姿。金色の印が白衣の裾に描かれているところを見ると、その人物もまた治癒団(リント)の一員であることがわかる。
「キミ、初診じゃない? ここに並ぶのは再診の予約分の患者サンだよ?」
「あの、すみません。セファ先生にお会いしたくて……」
白髪だが顔を見れば思っていたよりも若い。後ろに撫で付けたヘアスタイルにタレ目気味。医者というよりも研究員のような出で立ちで、白衣は薬品の臭いが染み着いてよれていた。
首から提げた名札には'コランバイン・アクィル'と記されている。
ちょっと怪しいがどうやらこの人も医師らしい。
もしかしたらセファに会うための糸口になるだろうか。
下から顔を覗き見てくるコランバインに尋ねようとすると、「ははあ」と何かわかったように彼は頷いて聞き返した。
「もしかしてキミ、患者サンではないね? 雑誌の記者サン? 研究職の学生サン? それともうちの求人見て来てくれたお手伝いサン?」
「その、どれでもないんですけど、機械都市のことでお尋ねしたいことがありまして……」
「はて。機械都市……うーんと……そう、'機械都市'って言った? あー。なるほど。それは確かにボクじゃなくてセファ先生じゃなきゃだめな案件だねェ」
一気に俺へ顔を近付けたかと思えば一人で納得してサッと退き、振り返って顎で順番待ちの列の奥を指す。
「よかったねェ。セファ先生ならいまちょうど昼休憩でボクと交替だよォ。すぐ来ると思うから声掛けてみたら?」
何故か機嫌が良さそうな声で言って笑った。
コランバインはヒラヒラと片手を振り、列の横を歩いて交替と言っていた持ち場……セファが交替待ちをしているであろう診察室へと向かっていく。
と、彼と擦れ違いに三人の医者が診察室から出て来た。
(いた……!)
三人いるうち連れの若い二人に指示を促している年配者がセファで間違いなさそうだ。
道すがら聞いていた通り、頭のてっぺんで右側を白、左側を水色と真っ二つにわけた奇抜な髪色で、天使のような真っ白な翼が背中に生えている壮年男性だ。特徴が一致する。
「あの! セファ先生」
連れの二人が離れて一人になった瞬間。すかさず彼を呼び止める。
「……どちら様だろうか。私は君と何か約束をしていたかね?」
セファは全く似合わない、女性が掛けるような可愛らしいピンク色縁のメガネの奥の物厳しい目で俺を見た。
「セファ先生。貴方にお話ししたいことと頼みたいことがあるんです」
「……取材ならば受付を通してくれ給(たま)え」
提げ看板は通過出来たが、セファの二言目はまるで門前払いな言い様だった。
先程入れ違いに去った気さくそうな医師、コランバインも同じように俺のことを部外者扱いしていたが治癒団(リント)にはそれだけしょっちゅう取材が来るということなのだろうか。
常人には習得できない治癒(リペア)魔法を扱う者が複数人所属し、この世界での病院の役割と病理研究の大半を請け負っている大きな組織ともなれば需要はあきらか……と、考えてもいい。
港街の診療所が今のように押しくらまんじゅうになっているのもわかるし、見ず知らずの俺がポンとやってきたところで当然の扱いをされているのだろう。
「私は今から回診なのでな」
言い放ってセファが去ろうとする。
「俺別にインタビュアーとかじゃないんです。機械都市へ行くためにお聞きしたいことがあって……」
ポップなヘアカラーと天使のような外見(みてくれ)×(かける)辛辣な眼差しがちぐはぐな彼の、毅然とした佇まいにも引き下がるわけにはいかない。
患者でも記者でもない俺の図々しい申し出を、不愉快だと言わんばかりに怪しんでセファが眉間に皺を寄せた。
「機械都市だと? 君に構っている時間はない。すまないが患者を待たせている」
俺を見るセファの目は予想していたよりも遥かに冷たく、最初からこの人が相手にしてくれないことを俺は悟っていた。
それだけの威圧があり、医院の代表責任者たる威風もある。
患者のことしか頭にない。と、はっきり言い、態度にも表す。
真面目で厳格で融通のきかない、竹を割る以前にがちがちに硬くて割れない竹そのもののような性格なのだろう。
診る事と看る事がこの人の本質で行動原理で全てなのだろう。
取りつく島もないとは今の俺を表現するための言葉だった。
けれども俺は機械都市へ向かう為の手がかりを、この人物が持つ切符を諦めてのこのこ帰るわけにはいかないのだ。
「行き方を教えて欲しいんです。機械都市へ行くには往来できる人の推薦がいるとうかがいました」
「だとしても初対面の君を私が推薦する理由はない。帰りなさい」
「でも」
「……警備! 彼を送り出して差し上げろ」
セファの苛立った語気を聞き付け、金髪ロン毛の大柄な男が俺の前に現れた。
鎧に金色の鷹のメダルが嵌められている。おそらくジンガ達と同じ王国騎士団の別の部隊の人間なのだろう。
思い返してみれば診療所の看板脇にも同じ鷹の部隊証をつけた人物が何人か立っていた。
金の鷹マークはカナンに連れられて騎士団の支部に到着した時にも見ている。
ファリーに傷付けられた人々に治癒団(リント)と共に寄り添っていた人々も、スーを路地裏に連れ込んだ卑しい男も確か同じ物をつけていたはずだ。
王国騎士団(バテンカイトス)にも様々な立場の騎士がいるとは聞いていたし実際に見ても来た。警備と呼ばれた通り、この大男はこの診療所やセファら医師の護衛についているのだろう。
「君ねぇー。邪魔したら駄目じゃあないかあ。セファ先生はお忙しいんだよぅ?」
間延びした喋り方の騎士は肉厚な手で俺の肩をぐいと引っ張り、俺とセファとの距離を離す。
だが、それで怯むぐらいならばここには来ていない。
考え無しの俺は意地を張ってその手をどけ、背を向けたセファを強気に追い掛ける。
「セファ先生! 事情を説明させてください!」
「しつこい奴だ。話がしたいのなら相応に段取りをしなさい」
だが、やはりセファは俺の話を聞こうとしない。それどころか、機械都市という単語を口にしてからというもの、どこか焦っているようにすら感じられる。
もう一息だ。無理を押し通すのはジンガ達にだってやってのけたんだ。脳みそを掻き回され、苦痛の連続だった嘘発見器にも耐えた強靭な俺の鼻や精神を見くびるなよ。
「い、っで……っ!」
「あのねお兄さん、聞き分けて貰わないと。先生が困ってんだぁ」
鼻っ柱と精神力に自信はあっても物理では俺(マグ)はてんで駄目だった。
とてもではないが、巨体に覆い被さられ潰される前にギブアップせざるを得ない。先ほどよりも強い力で肩を掴まれ、骨が軋む感覚に俺も押し黙ってしまった。
もう少しで手が届いたはずの大きな手掛かりが目の前から去ってしまう。真実へ向かう道のりと俺の体が暴力に引き裂かれそうになった時、
「お静かに。ここは病院ですよ。ガルラさん、もう結構です。セファ先生、すみません。こちらの方は私がお呼びしたんです」
「何だと? 確かか、テーオバルト」
「ええ、受付で待っているように伝えたのですが私がお待たせし過ぎてしまったのです。失礼致しました。セファ先生は回診がございますでしょう」
黒縁眼鏡に白い蝙蝠羽根。顔の横にはスーと同じ角。
助け舟として登場した白衣の竜人、テーオバルト・H・リントヴルムが俺に話を合わせるよう合図をくれ、危うく大男に捻られて迎える最悪のエンディングは回避できた。
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