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第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (2)
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お風呂場も花でいっぱいだった。
壁に設置された棚の上に花瓶が並んでいる。
湯船の上にはバラの花が浮かんでいる。
天井からも花がぶらさがっている。
ここまでするんだ、と、わたしは驚いたけど、その驚きよりも別の感情のほうが強かった。
お姫様になったような感覚で湯船に浸かる。
はぁ~。気持ちいい……。
お花の匂いが充満しているおかげですごく落ち着く……。
だけど、こういう何もしない時というのは余計な考えが浮かんでしまうもの。
わたしはまた船で起こったことを思い出そうとした。
けど、
「いっ……った!」
今度は嗚咽感では無く、頭痛によってその思考は強制的に止められてしまった。
痛みによって思考が船から離れる。
だけど、その痛みが別のイヤな記憶を呼び起こした。
そういえば、あのとき感じたアレはなんだったんだろう、と。
シャワーを浴びていた時に感じた、足首を掴まれたようなあの感覚。
排水口に黒い何かが流れていったようにも見えた。
アレは何か関係があるのではないか、なぜだかそう思える。いいや、そう感じる。わたしの心の中にある何かが同じ感覚だったと訴えている。
その感覚は再び船の記憶を引っ張り出そうとしたが、
「!」
突如、後ろから響いた音にわたしは振り返った。
見ると、すりガラスのドアには服を脱ぐ人影が映っていた。
間も無くドアが開き、タオルだけを持ったブルーンヒルデさんが入ってくる。
ブルーンヒルデさんは入ると同時にわたしに向かって口を開いた。
「一人だと余計なことを考えてしまうでしょう? だから私が背中を流してあげる」
断る理由は無かった。だからわたしはその親切に甘えることにした。
やさしい感触が背中を往復し始める。
絹と思われるその感触に、わたしは思った。
そういえばこの人はどんな人なんだろう、と。
一人暮らしのように見える。そして間違いなくお金持ちだ。
この風呂場に来るまでの間に、高級そうな家具をいくつも見た。
あちこちに金色の装飾が光っている。メッキでは無い本物の金のように見える。
森の中で一人で暮らすお金持ちの美人、ミステリー小説か何かでありそうな設定だ。
だからわたしはブルーンヒルデさんに質問をしてみようと思った。
だけど、ブルーンヒルデさんも似たようなことを考えていた。
そしてブルーンヒルデさんのほうが口を開くのが早かった。
「アイちゃんはおいくつ?」
わたし名乗ったっけ? あ、もしかしたら思い出せない記憶の中で名乗ったのかな? まあいいか。
わたしは12歳であることを正直に答えると、ブルーンヒルデさんは続けて尋ねてきた。
「じゃあまだ小等部なのね。学校はどんな感じ?」
わたしが答えるとすぐに次の質問が、そんなやりとりが続いた。
わたしはすべての質問の正直に答えた。勉強はあまり得意では無いこと、大好きな友達のこと、全部答えた。
嘘をつく必要は感じなかったし、なによりブルーンヒルデさんと話すのは楽しかった。声が安心する。ブルーンヒルデさんは容姿だけじゃなくて声までスゴイ。完璧すぎる。
完璧なのに不思議さも持ってる。こんな場所に一人で住んでいること。お金持ちであること。家から出た貴族の令嬢なのだろうか? そんな想像がかきたてられるほどに非現実的な人だ。
だけどそれを質問することは結局できないまま、わたしはお風呂から出ることになったのであった。
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