上 下
109 / 120
中等部編

第十一話 お金ってステキですよね? あ、違いますよ? そういう意味じゃないです。お金って生活に必要じゃないですか。それ以外のry(9)

しおりを挟む
 その声と共に、エッジくんの両手は言葉通りの色に染まった。そう見えた。いや、感じられた。
 目では白色だ。
 でも心では灰色だと感じる。
 両手から重く暗い感情が伝わってくる。恐怖が背中を登ってくる。

(これは……!?)

 そしてそれだけじゃ無かった。
 既知の感覚。わたしはこの灰色を知っている!
 そのデジャブのような感覚が芽生えた直後、エッジくんの両手から灰色の触手が何本も伸び生えた。
 あれは! 船で襲ってきたアレと同じもの!
 エッジくんから感じられた期待感の正体はこれ?! なぜエッジくんはそんなおぞましいものを体内に飼ってるの!?
 わたしの疑問のいずれにもエッジくんは答えず、

「行くぞ!」

 これで終わらせる、という思いを響かせながらエッジくんは踏み込んできた。
 灰色の両手を振るい、触手がムチとなって襲い掛かってくる。
 だからわたしは思わず叫んだ。

(隊長さん! 守って!)
 
 隊長さんは即座に応えてくれた。
 わずかな頭痛と魔力が吸い取られる感覚と共に、二本の剣がわたしの左右に顕現する。
 出現と同時に宙を舞い、迫る触手を叩き払う。
 でも触手の方が数が多い。いくら叩き払っても触手の攻勢が止まらない。
 振り切るためにリングの上を走り回っても、エッジくんはぴったりとついてくる。
 あ、ヤバ――よけられない――

「っ!」

 触手が肩に触れ、痛みが走る。
 その痛みが、わたしの記憶を目覚めさせた。
 客船の上で襲われた時の記憶。
 あの時と同じ痛みだ。
 たすけて――記憶の中のわたしはそう叫んだ。
 でもここはリングの上。完全な決着まで誰も助けにはこない。
 そのはずだった。

「!?」

 瞬間、何かに驚いたエッジくんはわたしから距離を取った。
 なぜ? エッジくんはわたしを追い詰めていた。引く理由がわからない。
 あれ? 体が動かない。
 あ! お姉ちゃんだ! お姉ちゃんが前に出てきてる!
 だからかあ。突然別人に変わったからエッジくんは驚いたんだね。
 でも、なんでお姉ちゃんは出てきたんだろう? 呼んでないのに。呼んでないよね?
 お姉ちゃんはわたしの声が聞こえていないかのように、淡々とわたしの体を動かした。
 精霊の剣をさらに二本展開。それぞれを両手に持つ。
 おお、頭いいなあ。さすがお姉ちゃんだ。これなら、武器を持ってるのとあまり変わらない。でもルール違反じゃない。違反じゃないよね?
 審判の声は響かない。どうやら大丈夫っぽい。
 そしてお姉ちゃんはさらに精霊の剣を増やした。
 一本、二本、三本、四本……いやいや、増やしすぎでは? あれ? お姉ちゃん怒ってる?
 わたしの問いにはやはり答えず、淡々と精霊の剣を増やしていく。
 そしてわたしが作ったぶんと、両手に握られているぶんを合わせて合計十本となった直後、お姉ちゃんはエッジくんに向かって踏み込んだ。
しおりを挟む

処理中です...