クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
115 / 120
中等部編

第十二話 エッジ(3)

しおりを挟む

   ◆◆◆

 古巣に戻ったエッジは休むことなく体を動かしていた。
 慣れ親しんだジムで汗を流す。
 縄跳びから始まり、道具を使った筋トレ、そして魔力のコントロール練習をかねたシャドーボクシングがお気に入りのメニューであり、今日もそのようにこなしていた。
 そのお気に入りを二周したところで、エッジに声がかかった。

「よおエッジ。遠征はどうだった?」

 エッジは声の主のほうに振り返りながら答えた。
 そこには男がいた。
 顔は青年と呼べる年頃に見える。エッジより5歳は上の顔つき。
 中肉中背だが、筋肉は締まっており、よく鍛えられていることが一目でわかる。
 その男に、エッジは言葉を返した。

「ここに俺が帰ってきてるってことはそういうことだよ」 
「やっぱりダメだったか。試合を組んでくれるやつはいなかったか」
「いや、一人いたんだが……」
「なんだ? 詳しく聞かせろよ」

 エッジはアイリスとの試合のことを話した。

「そうか。なんだかよくわからないままにヒートアップした結果、ここに戻ってくることになってしまったワケか」

 エッジはその試合を思い出しながら答えた。

「ああ。なんか変な感じだった。自分と戦っているような感じがした」

 エッジはアイリスのことが気になっていたが、話相手の男はそれほど興味が湧かなかったらしく、

「ふうん。まあ、世の中にはいろんなやつがいるんだ。そういうこともあるんじゃないか」

 雑な言葉をエッジに返した。
 その言葉にエッジはますますモヤモヤしたが、男は「関係ないね」とばかりにエッジから離れようとした。
 それをエッジは呼び止めた。

「待ってくれアンドレ。気晴らしにスパーに付き合ってくれないか?」

 これに、アンドレと呼ばれた男は笑顔で答えた。

「いいぜ。俺もちょうど退屈していたところだ」

   ◆◆◆

 スパーリングが終わるころには夕方になっており、ゆえにその後もいつもの流れとなった。
 馴染みの食堂でいつもの定食を二人で食べる。
 常連になった理由はメシがうまいからではない。近くて安いからだ。
 しかしそれでも愛着があり、ゆえに二人は既に飽きている食事を満足げな顔でほおばった。
 そして一口先に完食したアンドレは口を開いた。

「なあ、エッジ。言ってなかったことがあるんだが」
「なんだ?」
「俺はあそこをやめることにした」

 それは驚きだった。ゆえにエッジは最後の一口の味がよくわからなかった。
 エッジは最後の一口を早急に飲みこみ、尋ねた。

「なんでだ?」
「……この仕事はハードだ。いつまでやれるかわからないし、もし大怪我でもしようものなら、その後の一生が悲惨なものになる。やめるタイミングがあるなら早いほうがいい。そう思ったんだ」
「タイミング? なにかあったのか?」
「実は、兄貴から仕事を手伝わないかって誘われたんだ」
「そうなのか。よかったな」

 エッジらしい淡白な返事であったが、淡白なままで会話を終わらせたくなかったアンドレは再び口を開いた。

「……お前も一緒に来ないか? 人手を探してるって言っていたから、たぶんいけるぞ」

 それは悪い申し出では無かった。
 しかし一つ気になることがあった。
 アンドレに兄がいることは知っているが、何の仕事をしているのかは知らない。アンドレの兄は心を隠すのが上手かった。精霊の気配もあった。
 しかしわずかに漏れ出した感情から、イヤなものを感じた。アンドレの兄はまっとうな仕事をしていない可能性が高い。
 だからエッジは尋ねた。

「仕事の内容は?」
「荷物運びだ」

 荷物運び……普通の仕事に思えるが、何を運ぶかが重要だ。
 アンドレは兄と一緒に暮らしているわけでは無い。アンドレは兄が何の仕事をしているのかしらないはず。アンドレの心は何度か読んだことがある。
 ゆえにここでいくら考えても答えは出ない。
 ならば、どちらに賭けるか。
 エッジはすぐにそれを決めて答えた。

「俺はもう少し今の仕事を続けてみるよ」

 その答えにアンドレは残念そうな顔をしたが、

「……そうか」

 それ以上食い下がることはしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...