54 / 55
Ep5 コモリガミ様の章(9)
しおりを挟む
まるで中から押し破ろうとしているかのように。
それは正解だった。
生えている腕は四本に増え、その二対の両腕は互いに裂け目をつかみ合い、引き裂き始めた。
まるで双子の胎児が母親の腹を破って外に出ようとしているかのように。
あなたが抱いたそのイメージは正解だった。間も無く、中から二人の真っ赤な女が生まれ出た。
片方はあの写真に写っていた老婆であった。
そして二人の赤い女はゆっくりとあなたとオーナーに向かって一歩を踏み出した。
直後、
「許してくれ!」
オーナーが叫んだ。
「俺が悪かった!」
それは極限の恐怖から生じた謝罪と降伏宣言であった。
「本当にすまないと思ってる!」
が、二人の赤い女の足は止まる気配を見せなかった。
とにかく離れないと、そう思ったあなたは窓からの脱出をあきらめ、赤い女から出来るだけ距離を取るように部屋の角に移動した。
オーナーはその移動についてこなかった。
オーナーはまだ窓に固執していた。
両手で窓枠を掴み、必死に開けようとしていた。
だが、びくともしない。本当に揺れもしない。
そしてオーナーは何も出来ないまま距離を詰められ、
「ひっ!」
赤い腕に体を掴まれた。
「ぐ、ぎゃああぁっ!」
そしてオーナーは悲鳴を上げ始めた。
よく聞くと、ボキボキという、骨を握り砕く音が混じっていた。
見かけの細さからはありえない腕力。
オーナーはその赤い二匹の怪物の腕に、抱きしめられた。
「いた、やめ、おねが、ああぁっ!」
悲鳴は懇願に変わり、倒れたオーナーはそのままゴミ袋のほうに引きずられ始めた。
「たすけ、いたい、ああぁ! 助けて!」
だからオーナーはあなたのほうに向かって必死に手を伸ばした。
だが、あなたにはその手を掴むことは出来なかった。
「ああああぁっ!」
そしてオーナーはあなたの見ている目の前で、ゴミ袋の中に引きずり込まれていった。
まるでプレス機に巻き込まれているかのような、体がメチャクチャにされる音と共に、オーナーの体が飲み込まれていく。
あなたはそれを見ていることしか出来なかった。
「――ッ!」
そして最後には聞き取れない声を残して、オーナーは二匹の怪物と共にゴミ袋の中に消えた。
……。
そして後には静寂だけが残った。
……。
ゴミ袋は動かない。
終わった? あなたはそう思った。
が、直後、
「!」
がさがさと、ゴミ袋は再び蠢き始めた。
そして間も無く、またしても四本の腕が生えた。
しかしその腕はこれまでとは別人のものに見えた。
すぐにあなたは気付いた。誰のものか見覚えがあった。
それは正解だった。
直後に、中から先の二人と同じように真っ赤に染まった友人とオーナーが這い出てきた。
あなたは思った。
そんな、まさか、と。
自分は何も悪いことはしていない。襲われる理由は無いはずだ。
だが、そのまさかは正解にしか思えなかった。
二人はゆっくりと近づいてきた。
だから、そのまさかは言葉になって心の中で響いた。
まさか、これは見境の無い、ただただ理不尽で無差別な、そんな純粋な悪意の塊なのではないか、と。
それは正解だった。
生えている腕は四本に増え、その二対の両腕は互いに裂け目をつかみ合い、引き裂き始めた。
まるで双子の胎児が母親の腹を破って外に出ようとしているかのように。
あなたが抱いたそのイメージは正解だった。間も無く、中から二人の真っ赤な女が生まれ出た。
片方はあの写真に写っていた老婆であった。
そして二人の赤い女はゆっくりとあなたとオーナーに向かって一歩を踏み出した。
直後、
「許してくれ!」
オーナーが叫んだ。
「俺が悪かった!」
それは極限の恐怖から生じた謝罪と降伏宣言であった。
「本当にすまないと思ってる!」
が、二人の赤い女の足は止まる気配を見せなかった。
とにかく離れないと、そう思ったあなたは窓からの脱出をあきらめ、赤い女から出来るだけ距離を取るように部屋の角に移動した。
オーナーはその移動についてこなかった。
オーナーはまだ窓に固執していた。
両手で窓枠を掴み、必死に開けようとしていた。
だが、びくともしない。本当に揺れもしない。
そしてオーナーは何も出来ないまま距離を詰められ、
「ひっ!」
赤い腕に体を掴まれた。
「ぐ、ぎゃああぁっ!」
そしてオーナーは悲鳴を上げ始めた。
よく聞くと、ボキボキという、骨を握り砕く音が混じっていた。
見かけの細さからはありえない腕力。
オーナーはその赤い二匹の怪物の腕に、抱きしめられた。
「いた、やめ、おねが、ああぁっ!」
悲鳴は懇願に変わり、倒れたオーナーはそのままゴミ袋のほうに引きずられ始めた。
「たすけ、いたい、ああぁ! 助けて!」
だからオーナーはあなたのほうに向かって必死に手を伸ばした。
だが、あなたにはその手を掴むことは出来なかった。
「ああああぁっ!」
そしてオーナーはあなたの見ている目の前で、ゴミ袋の中に引きずり込まれていった。
まるでプレス機に巻き込まれているかのような、体がメチャクチャにされる音と共に、オーナーの体が飲み込まれていく。
あなたはそれを見ていることしか出来なかった。
「――ッ!」
そして最後には聞き取れない声を残して、オーナーは二匹の怪物と共にゴミ袋の中に消えた。
……。
そして後には静寂だけが残った。
……。
ゴミ袋は動かない。
終わった? あなたはそう思った。
が、直後、
「!」
がさがさと、ゴミ袋は再び蠢き始めた。
そして間も無く、またしても四本の腕が生えた。
しかしその腕はこれまでとは別人のものに見えた。
すぐにあなたは気付いた。誰のものか見覚えがあった。
それは正解だった。
直後に、中から先の二人と同じように真っ赤に染まった友人とオーナーが這い出てきた。
あなたは思った。
そんな、まさか、と。
自分は何も悪いことはしていない。襲われる理由は無いはずだ。
だが、そのまさかは正解にしか思えなかった。
二人はゆっくりと近づいてきた。
だから、そのまさかは言葉になって心の中で響いた。
まさか、これは見境の無い、ただただ理不尽で無差別な、そんな純粋な悪意の塊なのではないか、と。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる