60 / 545
第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第七話 美女と最強の獣(8)
しおりを挟む
そして同時にシャロンは感じ取っていた。
普段は感知能力や魂に関する部分しか動いていないオレグの脳が活発に活動しているのを。
言語機能を司る部分と、理性が働いている。
そして最後の「砕かせてもらう!」の部分では『一際強く輝いていた』。
だが、その輝きは普通の人間の会話時とは違っていた。
やはりこいつは得体が知れない。
シャロンがそこまで考えた直後、オレグの声が再び響いた。
「だからお前をここから逃がすつもりは無い」
オレグは「そして」と言葉を繋げた。
「隠れてこちらを狙っているようだが、お前は既に『ミス』を犯しているぞ、シャロン」
「!」
『ミス』、それはなんのことなのか、シャロンはすぐに気付いた。
それは「砕かせてもらう」の部分。
オレグはわざと強く脳内を光らせたのだ。そのために不要な雑談を始めたのだ。
感知能力者が相手の心を読めるのは、相手が発する脳波に対して脳内にある『共感回路』が『共振』しているからだ。
この回路は全人類が持っている。つまり、全人類が感知能力者としての素質を有しているということであり、感知能力者はその回路を訓練によって発達させ、使いこなしているだけに過ぎないのだ。
そして共振しているということは、感知能力者の脳も同じ周波数で震えているということである。
つまり、誰に心を読まれているのかもわかるのだ。
だが、これは隠す技術がある。回路の感度を下げておけばいいのだ。受信した脳波に対して小さな波で反応するようにすればいいのだ。自分の頭蓋骨から外に漏れない大きさで、かつ情報として解析出来る大きさであればいいのだから。
当然、シャロンはその技を使ってバレないようにしていた。
だが、オレグはその技の欠点を突いたのだ。
感度調整は瞬時には出来ない。その調整速度には個人差があり、シャロンは速いほうだがそれでも一瞬では無い。
オレグは急に大きな波を発することで、その欠点を突いたのだ。
オレグの心は読めないため、受信する側はどうしても後手になる。オレグならではの技であった。
しかしそれでも、シャロンは常人にはバレない程度には、回路から発せられる波をおさえられていた。
オレグが感知能力者としても怪物であれば気付けるかもしれない、その程度の波。
だから直後にもう一つ気付いた。
最後の言葉の真の意味を。
相手がミスしたことをわざわざ相手に教える必要は無いからだ。
それは正解だった。
それは確認だったのだ。
「砕かせてもらう」の時点でオレグはシャロンが発する波を検知したが、おおまかな方向が絞れただけで、正確な位置まではさっぱりだったのだ。
だからオレグは感知機能の範囲を狭め、怪しい場所に狙いを定めて最後の一言を放ったのだ。感知機能は索敵範囲を狭めれば精度を向上させることが出来るからだ。
そして確信を得たオレグは、
「そこか!」
気勢と共に突進を開始した。
完全にバレた、そう判断したシャロンがその場から離れた直後、
「っ!」
背にしていた壁を突き破って、その轟音と共にオレグは屋内へと踏み込んできた。
シャロンはそのオレグを一瞥もせず、背を向けたままドアへ駆けた。
そのまま体当たりして外に飛び出す。
間も無く、オレグがドア枠ごとぶち破って同じ路地に姿を現す。
障害物が意味をなしていない、なんという筋肉の化け物だ、シャロンはそんなセリフを心の中で叫びながら走った。
シャロンは知らない。
オレグの筋肉は文字通り人間を超越したものであることを。
ただ単純に鍛え続ければ辿り着ける境地では無いことを。
ある猿人類は同じ体重で成人男性の五倍の握力を発揮する。
体重が同じであれば筋肉量に大差は無い。
つまり、筋肉の質が違うのだ。
オレグはそれと同じものを目指し、そして大型獣を素手で倒せる域に至ったのだ。
しかしどうやって?
シャロンは知らない。知りえない。
その答えはこの世界の人類のルーツに繋がるものであることを。
オレグがその人外の脚力でシャロンの背を追う。
シャロンの背にオレグの足音が迫り響く。
されどシャロンは振り返らない。振り返るつもりも無い。
接近戦で勝てるイメージがまったく湧かないからだ。
だからシャロンは振り向かず、左手だけを後方にかざした。
輝くその手から糸が生まれ、網となってオレグに襲い掛かる。
これをオレグはその大盾を振り回して防御するだろうと、シャロンは予想していたのだが、
「……っ」
シャロンの目論見は外れた。
オレグは盾を振らず、単純な減速と進路変更で網をよけたのだ。
だからシャロンは気付いた。
やはり、こいつはこちらの思考を正確に読んでいる、と。
盾を振らせれば胴体に射線が出来る。シャロンはそれを狙っていた。
だが、オレグはそんなこちらの単純な思考などお見通しなのだ。
一方的に心を読まれている状況。ひかえめに言っても不利すぎる。
身体能力の差も圧倒的。
この条件でどう戦う? どうすれば勝利を引き寄せられる?
普段は感知能力や魂に関する部分しか動いていないオレグの脳が活発に活動しているのを。
言語機能を司る部分と、理性が働いている。
そして最後の「砕かせてもらう!」の部分では『一際強く輝いていた』。
だが、その輝きは普通の人間の会話時とは違っていた。
やはりこいつは得体が知れない。
シャロンがそこまで考えた直後、オレグの声が再び響いた。
「だからお前をここから逃がすつもりは無い」
オレグは「そして」と言葉を繋げた。
「隠れてこちらを狙っているようだが、お前は既に『ミス』を犯しているぞ、シャロン」
「!」
『ミス』、それはなんのことなのか、シャロンはすぐに気付いた。
それは「砕かせてもらう」の部分。
オレグはわざと強く脳内を光らせたのだ。そのために不要な雑談を始めたのだ。
感知能力者が相手の心を読めるのは、相手が発する脳波に対して脳内にある『共感回路』が『共振』しているからだ。
この回路は全人類が持っている。つまり、全人類が感知能力者としての素質を有しているということであり、感知能力者はその回路を訓練によって発達させ、使いこなしているだけに過ぎないのだ。
そして共振しているということは、感知能力者の脳も同じ周波数で震えているということである。
つまり、誰に心を読まれているのかもわかるのだ。
だが、これは隠す技術がある。回路の感度を下げておけばいいのだ。受信した脳波に対して小さな波で反応するようにすればいいのだ。自分の頭蓋骨から外に漏れない大きさで、かつ情報として解析出来る大きさであればいいのだから。
当然、シャロンはその技を使ってバレないようにしていた。
だが、オレグはその技の欠点を突いたのだ。
感度調整は瞬時には出来ない。その調整速度には個人差があり、シャロンは速いほうだがそれでも一瞬では無い。
オレグは急に大きな波を発することで、その欠点を突いたのだ。
オレグの心は読めないため、受信する側はどうしても後手になる。オレグならではの技であった。
しかしそれでも、シャロンは常人にはバレない程度には、回路から発せられる波をおさえられていた。
オレグが感知能力者としても怪物であれば気付けるかもしれない、その程度の波。
だから直後にもう一つ気付いた。
最後の言葉の真の意味を。
相手がミスしたことをわざわざ相手に教える必要は無いからだ。
それは正解だった。
それは確認だったのだ。
「砕かせてもらう」の時点でオレグはシャロンが発する波を検知したが、おおまかな方向が絞れただけで、正確な位置まではさっぱりだったのだ。
だからオレグは感知機能の範囲を狭め、怪しい場所に狙いを定めて最後の一言を放ったのだ。感知機能は索敵範囲を狭めれば精度を向上させることが出来るからだ。
そして確信を得たオレグは、
「そこか!」
気勢と共に突進を開始した。
完全にバレた、そう判断したシャロンがその場から離れた直後、
「っ!」
背にしていた壁を突き破って、その轟音と共にオレグは屋内へと踏み込んできた。
シャロンはそのオレグを一瞥もせず、背を向けたままドアへ駆けた。
そのまま体当たりして外に飛び出す。
間も無く、オレグがドア枠ごとぶち破って同じ路地に姿を現す。
障害物が意味をなしていない、なんという筋肉の化け物だ、シャロンはそんなセリフを心の中で叫びながら走った。
シャロンは知らない。
オレグの筋肉は文字通り人間を超越したものであることを。
ただ単純に鍛え続ければ辿り着ける境地では無いことを。
ある猿人類は同じ体重で成人男性の五倍の握力を発揮する。
体重が同じであれば筋肉量に大差は無い。
つまり、筋肉の質が違うのだ。
オレグはそれと同じものを目指し、そして大型獣を素手で倒せる域に至ったのだ。
しかしどうやって?
シャロンは知らない。知りえない。
その答えはこの世界の人類のルーツに繋がるものであることを。
オレグがその人外の脚力でシャロンの背を追う。
シャロンの背にオレグの足音が迫り響く。
されどシャロンは振り返らない。振り返るつもりも無い。
接近戦で勝てるイメージがまったく湧かないからだ。
だからシャロンは振り向かず、左手だけを後方にかざした。
輝くその手から糸が生まれ、網となってオレグに襲い掛かる。
これをオレグはその大盾を振り回して防御するだろうと、シャロンは予想していたのだが、
「……っ」
シャロンの目論見は外れた。
オレグは盾を振らず、単純な減速と進路変更で網をよけたのだ。
だからシャロンは気付いた。
やはり、こいつはこちらの思考を正確に読んでいる、と。
盾を振らせれば胴体に射線が出来る。シャロンはそれを狙っていた。
だが、オレグはそんなこちらの単純な思考などお見通しなのだ。
一方的に心を読まれている状況。ひかえめに言っても不利すぎる。
身体能力の差も圧倒的。
この条件でどう戦う? どうすれば勝利を引き寄せられる?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる