Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十話 神と精霊使い(2)

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   ◆◆◆

 南の民たちは森を大切にしていた。
 切り開かれている場所は港の周辺と畑、そして道路の部分だけであった。
 住居に関しては違った。
 もとからある木を出来るだけ切り倒さない工夫がされていた。
 柱の一部として利用したりしていた。いわゆるツリーハウスもここでは珍しいものでは無かった。
 しかし常にそのように都合良く利用できるわけではない。
 回りこむために廊下が曲がりくねったり、やたらと階段が多くなったりと、明らかに不便なものになっている家屋がほとんどであった。
 まるでおとぎ話から出てきたような町並み。
 外部の者が見ればその幻想的な町並みに心奪われるだろうが、長く住んでいる住人にとっては不便なだけであった。
 だが住人は誰も文句を言わない。
 いや、誰もというのは間違いであった。例外はいた。
 その者は町のはずれに住んでいた。
 森の中と言って間違いでは無い場所。
 背の高い木々が乱立しており、昼間であっても薄暗い。
 ゆえに、

「痛っ!」

 その家の唯一の住人である青年は、廊下の曲がり角に足の小指をぶつけた。

「ああ、もう、なんでこんなにグネグネしてるんだよ、この廊下は」

 それはこの家が密集している木を切り開かずに建てられたからだ。
 よくわかっているその答えを自問自答しながら、青年は足を再び前に出した。
 が、次の瞬間、

「っ!?」

 床がぬけ、少年の足は廊下に埋まった。
 床板が腐っていたのだ。

「……このボロ屋め」

 文句をたれながら足を抜く。
 そして青年はこの問題を無視して廊下を渡ってしまおうかと思ったが、なんとか踏みとどまった。
 これは無視できない。この廊下は暗いから放っておけば大きな怪我につながる可能性が高い。
 だからなんとかしないと、そう思った青年は何をすべきかを確認するように呟いた。

「木の板か、床板のかわりになるものを手にいれないと」

 青年は突如できた外出の理由に少し憂鬱になりつつも、しょうがないと気を取り直し、足を前に出した。

   ◆◆◆

 青年は町にある店を訪ねた。
 家具や木材などを扱っているお店だ。
 だが、

「すまないな。渡せる木材は無いよ」

 店主の返事はよくないものであった。
 さらに、

「しばらくは木材は手に入らないと思う。神官達がきつい規制をかけててね」

 よくない返事はさらに悪い情報に変わった。
 店主はその理由を述べた。

「少し前の話だが、木が大量に切られたんだ。たぶん新しい船を作るんだと思う。その時にうちの木材も全部買われてしまってね。それでしばらくは木を切るのをひかえるようにと、神官が規制をかけたんだ」

 この場合の「ひかえるように」は、「やったら罰を与える」という意味だ。だから規制をかけている。神官は強い言葉をあまり使わないため、行動から考えを読まなければならない。
 しかし青年はまだあきらめる気は無かった。
 だから青年は尋ねた。

「どこかに備蓄を残してそうな店は無い?」
「うーん……そうだなあ」

 店主は少し考えてから答えた。

「港のそばの店を当たってみたらいいかもしれない」
「港のそばっていうことは、つまり……」
「ああ、そうだ。アルフレッド、お前の実家だ」
「……」
「イヤなら俺がかわりに――」

 アルフレッドと呼ばれた青年は店主の言葉をさえぎるように口を開いた。

「いや、大丈夫だよ。行ってみる。ありがとう」

   ◆◆◆

 港のそばには様々な交易品を扱う店があった。
 巨大な倉庫を有する巨大な店。
 外国の船から買い取って売るだけで無く、船を出して買い付けもやっている。
 あの店主が言っていたことは正解であった。そのための新たな船が建造されていた。
 そして巨大な店内は今日もそれなりに繁盛していた。
 扱っているものが安いものから高級品まで様々であるため、客層の幅は広い。
 しかしそこに店主の姿は無かった。
 店主はあまり店に顔を出さない。いつも別の仕事をしている。
 その店主は今日は珍しく店の奥にいた。
 店の奥には民家に繋がる通路があった。
 店主の家だ。
 店と同じく大きく豪華な家。
 財力の高さが一目でわかる。
 店主は店の奥に運び込ませておいた麻袋を一つ抱え上げ、通路から家の中へと入った。
 通路の先にあるドアは居間に繋がっており、そこでは妻がくつろいでいた。
 夫は玄関からでは無く、この通路から家に帰ってくることのほうが多い。
 ゆえに普段ならば妻は「おかえりなさい」と言うところだが、今日は違う言葉を響かせた。

「あら、それは何?」

 その麻袋はなんだと妻が尋ねると、夫は答えた。

「トウモロコシという野菜の種だ。はるか東の大陸のものでな。こっちでも栽培できるかどうか試してみようと思って取り寄せてみたんだ」

 そして夫は表情を渋いものに変えながら言葉を続けた。

「そのための農地を作るために、森を切り開く許可をもらいに行ったんだが……だめだったよ」

 夫は明らかにイラついた様子で言った。

「まったく神官達め、自分達が何かをするときは遠慮無く木を切るくせに。どこまでも身内に甘い連中だ」

 その言葉に反応した妻は口を開いた。

「アルフレッドが儀式を拒絶していなければこんなことには――」

 だが、妻のその言葉は夫には許せるものでは無かった。
 だから、

「あいつの話はするな」

 夫は妻の言葉を重い口調で遮った。
 しかし夫は妻の言葉で思い出したことがあった。
 だから夫はそれを尋ねた。

「そういえばダミアンはどうだった? 神官になるための試験を受けたはずだろう? 受肉の儀式はたしか今日だったのでは?」

 妻は答えた。

「だめでしたよ。怒らせたくないからあなたには直接言えなかったんでしょう。『今回も選ばれたのは赤ん坊だけ』でした」

 これに夫は怒ることは無かったが、不満は漏らした。

「まあ、あいつは感知能力者としてはぜんぜん駄目だからな……しかし、また神官が増えるのか。もうこの町の住人の三割は神官なんじゃないのか?」

 その通りであったが、妻は言葉を付け加えた。

「儀式を受けただけで神官としての仕事はしていない、名ばかりの人達ばかりですけれど……このまま神官が増えれば、身内にいない私たちの肩身は狭くなっていくでしょうね」

 その未来は簡単に想像できた。今でも狭いからだ。
 だから夫は提案した。

「じゃあ、優秀な能力者の養子でも取るか?」

 それは妻には悪くない提案に思えた。
 手っ取り早く神官になってもらって、今の息子のように離れたところで生活してもらえば、わずらわしくも無く、肩身の狭さも消える。もしかしたら神官が握っている利権の甘い汁も吸えるかもしれない。
 だから妻は、

「それは悪くない手かもしれないですね。ですが、神官になれるほどの感知能力者を手放す親がいるのでしょうか……?」

 同意を返すと同時に、疑問も返した。
 夫はすぐに思いついた答えを返した。

「奴隷商人に聞いてみることにしよう。なあに、金欲しさに優秀な子を手放すやつなんてめずらしくない。一人くらいすぐに手に入るかもしれないぞ」

 そうと決まれば早速、そう思った夫が立ち上がろうとした瞬間、召使いの声が居間に響いた。

「旦那様、よろしいでしょうか?」

 なんだ、と、夫が用件を聞くと召使いは答えた。

「御子息様がいらっしゃいました」
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