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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十一話 森の中の舞踏会(6)
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アルフレッドはその思いに応えることにした。
顔面を防御するかのように、顔前で両腕を×字に組む。
しかしそれは防御のための動作では無かった。
「こぉぉぉ……」
腕を組んだままの姿勢で息をゆっくりと深く吸い込む。
直後、アルフレッドの両手は輝き始めた。
それは光魔法の輝きだけでは無かった。
脳内から湧き出した虫の群れによる輝き。感知能力者にはそう見えていた。
(……!)
そしてアリスは再び驚いていた。
また、だからだ。
また活発化したのだ。
脳内にある虫を生み出す器官が活発化した。
不思議なのは電気信号がその器官に向かって走った気配が無いこと。
一体これはどういう技術なの? アリスはそう尋ねたが、やはり答えは返ってこなかった。
アリスに対して沈黙を維持したまま、アルフレッドは動き始めた。
交差を解き、両腕を左右に大きく広げる。
そして股間を守るように右手を下に、左手は頭上に。
両手は止まらず、右手は左に、左手は右に。
円を描いてる、その場にいる全員がすぐに察した。
自分の目の前に大きな円を描くように、アルフレッドは両腕を回し始めた。
発光する両手が残す光の尾が繋がって白い輪となる。
光魔法によるものでは無い。光魔法はそこまで尾を引かない。
それはやはり虫。
両手から垂れ流される虫の群れが繋がって輪となっていた。
その輪の中で虫は次々と合体し、大きな固体の群れとなっていった。
それがなんなのか、バークとクラリスはよく知っていた。
((精霊……!))
やはりそうだったのか。バークは声に出しそうになった。
やはりアルフレッドは精霊使いだったのだ。その力は失われては無かったのだ。無能になったフリをしていただけなのだ。
バークは興奮を隠せなかった。
そしてバークが見ている中で、その精霊達は動き始めた。
輪から離れ、自力で飛び立つ。
しかしアルフレッドからは離れない。
まるで夜空を回る月のように、アルフレッドの周囲を旋回する。
同時に精霊達はその形を変え始めた。
その形はよく知っているものであった。
蝶だ。
大量の光る蝶がアルフレッドの周囲を舞うその様は美しく、バークは素直に感動した。
だが同時に疑問もあった。
精霊はどんな形にでもなれる。
わざわざ蝶の形に変えたということは、それに何かの意味があるということ。
その意味は直後に明らかになった。
蛾がりんぷんをまき散らすように、はばたく蝶から小さな虫が飛び散り始めたのだ。
精霊が虫を使役している。情報収集の道具として使っている。
ゆえにその虫は精霊と異なり、アルフレッドから大きく離れて移動を開始した。
「……」
バークはその虫の動向も含めて注意深く観察を始めた。
バークはまだ興奮していた。
まさかこんな形でアルフレッドの全力を拝めることになるとは。
いや、彼は素手だ。ならば『全力の手加減』といったところか。
すなわち、これから始まるのは――
「!」
バークがそれを心の声にしようとした瞬間、それは始まった。
「破ッ!」
先手はやはりクラリス。
しかしその初手は意外なものであった。
鎌を振らずに前に突き出しただけ。
これでは刃が活かせない。峰打ち(みねうち)になるだけ。
伸びるように迫ってきたその一撃を手甲で受け止めるアルフレッド。
衝突点から金属音と共に火花が飛び散る。
やはり見た目通りに重い。
「……!」
瞬間、アルフレッドは感じ取った。
そのイメージが心の中で画像化すると同時に、クラリスが再び鎌を突き出す。
危なげなく手甲で受けるアルフレッド。
そして再び生じた火花の中で、アルフレッドはそのイメージを言葉にした。
(本当は両刃なのか)
クラリスは狩りと対人戦で、異なる鎌を使い分けているのだ。
いま使っているのは狩りに用いるもの。
重量のある刃で一撃必殺を狙うものだ。
しかし今のような対人戦では隙のある大振りは狙いにくい。豪快な一撃を素早く放つための、アーティットのような筋力はクラリスには無い。
ゆえに突きなどの小さな動作を基本に立ち回る必要がある。
しかし通常の鎌ではそれは峰打ち、打撃攻撃にしかならない。
だから対人用の鎌は両刃。
しかもそれだけでは無い。棒の先端部分には槍までつけられている。
突きの動作で刺突と斬撃が両立する武器になっているのだ。
しかしその攻撃性能は先端部に集中している。
ふところに潜り込めば攻撃手段が限られる、
そう考えたアルフレッドは
「疾ッ!」
再び突き出された鎌を左手甲で受け流すと同時に踏み込んだ。
が、瞬間、
「!」
ある危険を感じ取ったアルフレッドは即座に真右に地を蹴った。
直後、直前までアルフレッドがいた位置を、後方から鎌の刃が通りぬけていった。
クラリスはアルフレッドが踏み込んだのと同時に、それ以上の速度で後方に地を蹴ったのだ。
これが鎌の長所。
刃が内側に向いているため、後退しながら刃を引くだけで攻撃が成立する。
避けていなければ背中から後頭部までをなで斬りにされていただろう。
顔面を防御するかのように、顔前で両腕を×字に組む。
しかしそれは防御のための動作では無かった。
「こぉぉぉ……」
腕を組んだままの姿勢で息をゆっくりと深く吸い込む。
直後、アルフレッドの両手は輝き始めた。
それは光魔法の輝きだけでは無かった。
脳内から湧き出した虫の群れによる輝き。感知能力者にはそう見えていた。
(……!)
そしてアリスは再び驚いていた。
また、だからだ。
また活発化したのだ。
脳内にある虫を生み出す器官が活発化した。
不思議なのは電気信号がその器官に向かって走った気配が無いこと。
一体これはどういう技術なの? アリスはそう尋ねたが、やはり答えは返ってこなかった。
アリスに対して沈黙を維持したまま、アルフレッドは動き始めた。
交差を解き、両腕を左右に大きく広げる。
そして股間を守るように右手を下に、左手は頭上に。
両手は止まらず、右手は左に、左手は右に。
円を描いてる、その場にいる全員がすぐに察した。
自分の目の前に大きな円を描くように、アルフレッドは両腕を回し始めた。
発光する両手が残す光の尾が繋がって白い輪となる。
光魔法によるものでは無い。光魔法はそこまで尾を引かない。
それはやはり虫。
両手から垂れ流される虫の群れが繋がって輪となっていた。
その輪の中で虫は次々と合体し、大きな固体の群れとなっていった。
それがなんなのか、バークとクラリスはよく知っていた。
((精霊……!))
やはりそうだったのか。バークは声に出しそうになった。
やはりアルフレッドは精霊使いだったのだ。その力は失われては無かったのだ。無能になったフリをしていただけなのだ。
バークは興奮を隠せなかった。
そしてバークが見ている中で、その精霊達は動き始めた。
輪から離れ、自力で飛び立つ。
しかしアルフレッドからは離れない。
まるで夜空を回る月のように、アルフレッドの周囲を旋回する。
同時に精霊達はその形を変え始めた。
その形はよく知っているものであった。
蝶だ。
大量の光る蝶がアルフレッドの周囲を舞うその様は美しく、バークは素直に感動した。
だが同時に疑問もあった。
精霊はどんな形にでもなれる。
わざわざ蝶の形に変えたということは、それに何かの意味があるということ。
その意味は直後に明らかになった。
蛾がりんぷんをまき散らすように、はばたく蝶から小さな虫が飛び散り始めたのだ。
精霊が虫を使役している。情報収集の道具として使っている。
ゆえにその虫は精霊と異なり、アルフレッドから大きく離れて移動を開始した。
「……」
バークはその虫の動向も含めて注意深く観察を始めた。
バークはまだ興奮していた。
まさかこんな形でアルフレッドの全力を拝めることになるとは。
いや、彼は素手だ。ならば『全力の手加減』といったところか。
すなわち、これから始まるのは――
「!」
バークがそれを心の声にしようとした瞬間、それは始まった。
「破ッ!」
先手はやはりクラリス。
しかしその初手は意外なものであった。
鎌を振らずに前に突き出しただけ。
これでは刃が活かせない。峰打ち(みねうち)になるだけ。
伸びるように迫ってきたその一撃を手甲で受け止めるアルフレッド。
衝突点から金属音と共に火花が飛び散る。
やはり見た目通りに重い。
「……!」
瞬間、アルフレッドは感じ取った。
そのイメージが心の中で画像化すると同時に、クラリスが再び鎌を突き出す。
危なげなく手甲で受けるアルフレッド。
そして再び生じた火花の中で、アルフレッドはそのイメージを言葉にした。
(本当は両刃なのか)
クラリスは狩りと対人戦で、異なる鎌を使い分けているのだ。
いま使っているのは狩りに用いるもの。
重量のある刃で一撃必殺を狙うものだ。
しかし今のような対人戦では隙のある大振りは狙いにくい。豪快な一撃を素早く放つための、アーティットのような筋力はクラリスには無い。
ゆえに突きなどの小さな動作を基本に立ち回る必要がある。
しかし通常の鎌ではそれは峰打ち、打撃攻撃にしかならない。
だから対人用の鎌は両刃。
しかもそれだけでは無い。棒の先端部分には槍までつけられている。
突きの動作で刺突と斬撃が両立する武器になっているのだ。
しかしその攻撃性能は先端部に集中している。
ふところに潜り込めば攻撃手段が限られる、
そう考えたアルフレッドは
「疾ッ!」
再び突き出された鎌を左手甲で受け流すと同時に踏み込んだ。
が、瞬間、
「!」
ある危険を感じ取ったアルフレッドは即座に真右に地を蹴った。
直後、直前までアルフレッドがいた位置を、後方から鎌の刃が通りぬけていった。
クラリスはアルフレッドが踏み込んだのと同時に、それ以上の速度で後方に地を蹴ったのだ。
これが鎌の長所。
刃が内側に向いているため、後退しながら刃を引くだけで攻撃が成立する。
避けていなければ背中から後頭部までをなで斬りにされていただろう。
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