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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第十三話 女王再臨(8)

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   ◆◆◆

 コソコソしているのはアリスだけでは無かった。

「……」

 ヘルハルトは隠れ家でずっと考えていた。
 最近は一人でそうすることが多くなっていた。
 以前のように徹夜で作業することは無くなっていた。
 部下を増やしたからだ。
 ゆえにヘルハルトは考え事をする時間が多く取れるようになっていた。
 考えることはいつも同じだった。
 どうやったら商売を爆発的に広げられるかだ。
 時期的にチャンスであることは間違い無かった。
 手薄になっているからだ。
 優秀な感知能力者がいなくなっているのだ。全部前線に送られた。
 恐らく、前線では激しい情報合戦が行われているのだろう。
 しかし少しずつ人員を増やしていく今のやり方では、商売が大きくなる前に戦争が終わってしまう。
 同じ思いを抱いているやつは多いのでは無いだろうか?
 その言葉が浮かんだ瞬間、

(! 同じ思いを抱いているやつがいる可能性がある?!)

 瞬間、ひらめいたヘルハルトは復唱した。
 同じ思いを抱いてくすぶっているやつがいる可能性がある、それはつまり、

(そいつと手を組める可能性があるということ!)

 その言葉と共に、ヘルハルトの脳裏に理想的な未来の図面が描かれた。
 生産は今のまま安全な森の中で行い、遠地にいる協力者に送って売ってもらう。
 北部の生産者の多くは以前行われた取り締まりで処刑されている。安定した供給源を求めているやつはいるはずだ。
 そう思うと、ヘルハルトはじっとしていられなくなった。
 時刻は既に深夜。
 であったが、

「おい、誰か!」

 ヘルハルトは新たなろうそくに火をともしながら、大声で人を呼んだ。
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