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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十四話 奇妙な再戦(9)
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そしてニコライは赤い水溜りに身をゆだねながら感じ取った。
頭の中から何かが抜け出していくのを。
この体はもうダメだ、放棄する、そんな声が響いたのを。
その声を聞きながらニコライは思った。
どうしてこうなった? と。
記憶が混乱している。欠落している。
だからはっきりと思い出せない。
それでもニコライはぼろぼろになった自身の記憶を漁った。
そして一つ思い出した。見つけた。
そうだ、こいつだ。
ニコライは遠ざかるサイラスの背を見つめながら言った。
こいつが戦場を恐怖で染め始めてから、魔王軍は変わってしまったのだ。
無事に戻ってきた者でも、恐怖を忘れられずに戦えなくなってしまった。
そんな時にやつが現れたのだ。
得体の知れぬ死神。
やつは言った。
恐怖を忘れさせてやると。それだけで無く、さらに強くしてやると。
代わりにお前の魂をもらうと。
おとぎ話にありそうな悪魔の契約そのものだった。
何をされるかも簡単に予想できた。前の魔王がやっていたのと同じような、人間性を消す類の手術をされるであろうことは明らかだった。
されどその悪魔の誘惑に負ける者がいた。恐怖に屈した心はそれほどに脆くなっていた。
弱った心に悪魔はつけこむ、まさにおとぎ話の通りだ。
しかし私は拒否した。悪魔の誘惑をはねのけた。
そうだ、私は拒否した!
なのにどうしてこうなっている?!
思い出した!
変わってしまった仲間達に無理矢理――ああ、くそ、なんてことだ!
そして私は、我が部隊は変わってしまった!
死神を排除しようと動いた者もいた。しかし遅すぎた。やつは早々にどこかに姿をくらましていた。
タチの悪い流行り病のようにこのおぞましい変化は伝染していった。今では軍隊全体に広がり始めている。
そうだ、あの人は?!
この変化を恐れて軍から逃げたものは多い。指揮官級の戦士でもだ。
しかしあの人は逃げ出そうとはしなかった。この頭の中の寄生虫のようなものを取り除こうともしてくれた。
だけど出来なかった。
それからどうなった?! わからない!
無事ならば、いや、あの人は恐ろしく強い。絶対に無事なはずだ。
既に逃げてくれただろうか? これはもう魔王軍じゃない。人間の軍隊と呼べるのかどうかすら怪しい。こんなもののために義理を立てる必要は無い。
だから、どうか――
「……」
無事で、その言葉を言い切ることかなわずに、ニコライは無念の中で力尽きた。
頭の中から何かが抜け出していくのを。
この体はもうダメだ、放棄する、そんな声が響いたのを。
その声を聞きながらニコライは思った。
どうしてこうなった? と。
記憶が混乱している。欠落している。
だからはっきりと思い出せない。
それでもニコライはぼろぼろになった自身の記憶を漁った。
そして一つ思い出した。見つけた。
そうだ、こいつだ。
ニコライは遠ざかるサイラスの背を見つめながら言った。
こいつが戦場を恐怖で染め始めてから、魔王軍は変わってしまったのだ。
無事に戻ってきた者でも、恐怖を忘れられずに戦えなくなってしまった。
そんな時にやつが現れたのだ。
得体の知れぬ死神。
やつは言った。
恐怖を忘れさせてやると。それだけで無く、さらに強くしてやると。
代わりにお前の魂をもらうと。
おとぎ話にありそうな悪魔の契約そのものだった。
何をされるかも簡単に予想できた。前の魔王がやっていたのと同じような、人間性を消す類の手術をされるであろうことは明らかだった。
されどその悪魔の誘惑に負ける者がいた。恐怖に屈した心はそれほどに脆くなっていた。
弱った心に悪魔はつけこむ、まさにおとぎ話の通りだ。
しかし私は拒否した。悪魔の誘惑をはねのけた。
そうだ、私は拒否した!
なのにどうしてこうなっている?!
思い出した!
変わってしまった仲間達に無理矢理――ああ、くそ、なんてことだ!
そして私は、我が部隊は変わってしまった!
死神を排除しようと動いた者もいた。しかし遅すぎた。やつは早々にどこかに姿をくらましていた。
タチの悪い流行り病のようにこのおぞましい変化は伝染していった。今では軍隊全体に広がり始めている。
そうだ、あの人は?!
この変化を恐れて軍から逃げたものは多い。指揮官級の戦士でもだ。
しかしあの人は逃げ出そうとはしなかった。この頭の中の寄生虫のようなものを取り除こうともしてくれた。
だけど出来なかった。
それからどうなった?! わからない!
無事ならば、いや、あの人は恐ろしく強い。絶対に無事なはずだ。
既に逃げてくれただろうか? これはもう魔王軍じゃない。人間の軍隊と呼べるのかどうかすら怪しい。こんなもののために義理を立てる必要は無い。
だから、どうか――
「……」
無事で、その言葉を言い切ることかなわずに、ニコライは無念の中で力尽きた。
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