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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十五話 一つの象徴の終わり(2)
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◆◆◆
様子が変だ。
サイラスは行軍中にそれを感じ取っていた。
魔王城に近づくほどにその感覚は強くなった。
しばらくすると、城下街から逃げてきたと思われる者達とすれ違うようになった。
突然兵士達に襲われた、みんなの頭がおかしくなり始めた、そんな思念をサイラスはすれ違いに感じ取った。
そしてその異常はついに目にも明らかになった。
城下街からは煙が何本も立ち昇っていた。
住人の悲鳴があちこちから響いていた。
暴動でも起きているのか? それともクーデター? 感知の弱い者達はそう思った。
サイラスなどの感知能力の強い者達だけが正解を掴んでいた。
ゆえにサイラスは自ら最前に立ち、目の前の異常に対して指揮を執ろうとしていたが、
「サイラス」
後方から上がってきたルイスが背後から呼び止めた。
どうした? そんな思いを響かせながらサイラスが振り返ると、ルイスは口を開いた。
「すまないが、今回は私が指揮を執らせてもらう」
見ると、その左手には大盾が握られていた。
そしてサイラスはルイスの言葉を部隊を預かるという意味だと受け取ったが、直後にルイスは言葉を付け加えてその思いを否定した。
「私が最前に立つ。お前達には援護を頼む」
確認するようにサイラスは聞き返した。
「一人で最前に立つのか?」
「そうだ。今回の相手は恐らく私の専門分野だ」
相手は自分の知り合いかもしれない、その思いをルイスは飲み込み、言葉を続けた。
「……この類の相手との戦いは今回が最後では無いかもしれない。だから私の戦い方をよく見ておくといい」
そう言って、ルイスは一人で前に歩き出した。
直後、その隣に並び歩くように友人の化け物が上から降り立った。
ルイスはその化け物のほうに顔を向けずに声をかけた。
「久しぶりにやるぞ。ナチャ、準備はいいな?」
ナチャと呼ばれた化け物は頷きながら口を開いた。
「ああ、もちろんさ」
化け物の顔には薄い笑みが張り付いていた。
だからルイスは尋ねた。
「嬉しそうだな?」
化け物は言葉を選んでから答えた。
「……そうだね、そうかもしれない。これは喜びかもしれない」
化け物は顔から笑みを消し、再び口を開いた。
「不謹慎かもしれないけど、君とこうして再び一緒に戦えることが嬉しいよ」
たしかに不謹慎だ、ルイスもそう思ったが、ルイスはあえて同じ薄い笑みを浮かべながら口を開いた。
「なつかしさに喜ぶのは自由だが、ちゃんと戦ってくれよ? 戦い方を忘れてしまってたとか、あとで言い訳するのは無しだぞ?」
これに、化け物は再び笑みを浮かべながら言葉を返した。
「それはこっちの台詞だよ。僕の足を引っ張らないでくれよ?」
煽りのようなその言葉に、ルイスは乗った。
「それはすぐに動きで証明してやろう」
頼もしい、そう思ったナチャは口を開いた。
「そうかい。じゃあさっそく見せてもらいたいから、始めようか?」
その言葉にルイスは同じ思いで応えた。
「ああ、派手に暴れるぞ!」
その言葉を合図に、ナチャは人の形を崩した。
糸の塊のようなものになり、ルイスの体に巻きついていく。
空に浮かんでいた雲からも糸が垂れ下がり、ルイスの体にからみつき始める。
間も無く、ルイスの体は見えなくなるほどに糸に包まれた。
丸い玉を作ろうとするかのように、糸が束ねられていく。
そうして雲が無くなる頃には、ルイスの体は巨大な繭に包まれていた。
時間と共にその繭はしぼんでいった。
「「「……!」」」
場にいる者達はその異常さに驚いていた。
恐れを抱いているものすらいた。
しかしサイラスだけは何が起きているのかを冷静に感じ取っていた。
(密度が……?)
増している? 圧縮されている? サイラスはそう思った。
それは正解であった。
束ねた糸は強くねじられ、引き絞られていた。
ルイスの体を締め上げようとするかのように。
間も無く繭は玉の形を崩し、もとの人の形に収束した。
そして完成したもの、それは鎧だった。
ルイスが魂で作られた全身鎧を身に着けている、そう見えた。
その鎧に重さは無かったが、光が屈折するほどの密度であった。
ゆえに魂を感知できない者にはルイスが濃い陽炎をまとっているように見えた。
そしてその鎧は非常に生物的で、生々しかった。
全身に何匹もの白いムカデが巻き付いている、そぅ見えた。
背中に大きな白い蜘蛛がしがみついている、そう見えた。
いや、しがみついているという表現は間違いであった。
ムカデと蜘蛛の足は全て皮膚に食い込んでいた。突き刺さっていた。
間も無く、その足は脈打ち始めた。
流れているのは血では無かった。ルイスの魂と魔力が流れていた。
筋肉や間接の動作を補助している光魔法の粒子が吸い上げられていた。
ゆえに、ルイスの体は銀色の糸に包まれているように見えた。魂を感知できない者にはそう見えた。
「「「……!?」」」
場にいる兵士達はそのあまりの非現実感に、声をあげることも出来なかった。
その静寂をルイスが直後に破った。
「全軍前進! 私に続け!」
様子が変だ。
サイラスは行軍中にそれを感じ取っていた。
魔王城に近づくほどにその感覚は強くなった。
しばらくすると、城下街から逃げてきたと思われる者達とすれ違うようになった。
突然兵士達に襲われた、みんなの頭がおかしくなり始めた、そんな思念をサイラスはすれ違いに感じ取った。
そしてその異常はついに目にも明らかになった。
城下街からは煙が何本も立ち昇っていた。
住人の悲鳴があちこちから響いていた。
暴動でも起きているのか? それともクーデター? 感知の弱い者達はそう思った。
サイラスなどの感知能力の強い者達だけが正解を掴んでいた。
ゆえにサイラスは自ら最前に立ち、目の前の異常に対して指揮を執ろうとしていたが、
「サイラス」
後方から上がってきたルイスが背後から呼び止めた。
どうした? そんな思いを響かせながらサイラスが振り返ると、ルイスは口を開いた。
「すまないが、今回は私が指揮を執らせてもらう」
見ると、その左手には大盾が握られていた。
そしてサイラスはルイスの言葉を部隊を預かるという意味だと受け取ったが、直後にルイスは言葉を付け加えてその思いを否定した。
「私が最前に立つ。お前達には援護を頼む」
確認するようにサイラスは聞き返した。
「一人で最前に立つのか?」
「そうだ。今回の相手は恐らく私の専門分野だ」
相手は自分の知り合いかもしれない、その思いをルイスは飲み込み、言葉を続けた。
「……この類の相手との戦いは今回が最後では無いかもしれない。だから私の戦い方をよく見ておくといい」
そう言って、ルイスは一人で前に歩き出した。
直後、その隣に並び歩くように友人の化け物が上から降り立った。
ルイスはその化け物のほうに顔を向けずに声をかけた。
「久しぶりにやるぞ。ナチャ、準備はいいな?」
ナチャと呼ばれた化け物は頷きながら口を開いた。
「ああ、もちろんさ」
化け物の顔には薄い笑みが張り付いていた。
だからルイスは尋ねた。
「嬉しそうだな?」
化け物は言葉を選んでから答えた。
「……そうだね、そうかもしれない。これは喜びかもしれない」
化け物は顔から笑みを消し、再び口を開いた。
「不謹慎かもしれないけど、君とこうして再び一緒に戦えることが嬉しいよ」
たしかに不謹慎だ、ルイスもそう思ったが、ルイスはあえて同じ薄い笑みを浮かべながら口を開いた。
「なつかしさに喜ぶのは自由だが、ちゃんと戦ってくれよ? 戦い方を忘れてしまってたとか、あとで言い訳するのは無しだぞ?」
これに、化け物は再び笑みを浮かべながら言葉を返した。
「それはこっちの台詞だよ。僕の足を引っ張らないでくれよ?」
煽りのようなその言葉に、ルイスは乗った。
「それはすぐに動きで証明してやろう」
頼もしい、そう思ったナチャは口を開いた。
「そうかい。じゃあさっそく見せてもらいたいから、始めようか?」
その言葉にルイスは同じ思いで応えた。
「ああ、派手に暴れるぞ!」
その言葉を合図に、ナチャは人の形を崩した。
糸の塊のようなものになり、ルイスの体に巻きついていく。
空に浮かんでいた雲からも糸が垂れ下がり、ルイスの体にからみつき始める。
間も無く、ルイスの体は見えなくなるほどに糸に包まれた。
丸い玉を作ろうとするかのように、糸が束ねられていく。
そうして雲が無くなる頃には、ルイスの体は巨大な繭に包まれていた。
時間と共にその繭はしぼんでいった。
「「「……!」」」
場にいる者達はその異常さに驚いていた。
恐れを抱いているものすらいた。
しかしサイラスだけは何が起きているのかを冷静に感じ取っていた。
(密度が……?)
増している? 圧縮されている? サイラスはそう思った。
それは正解であった。
束ねた糸は強くねじられ、引き絞られていた。
ルイスの体を締め上げようとするかのように。
間も無く繭は玉の形を崩し、もとの人の形に収束した。
そして完成したもの、それは鎧だった。
ルイスが魂で作られた全身鎧を身に着けている、そう見えた。
その鎧に重さは無かったが、光が屈折するほどの密度であった。
ゆえに魂を感知できない者にはルイスが濃い陽炎をまとっているように見えた。
そしてその鎧は非常に生物的で、生々しかった。
全身に何匹もの白いムカデが巻き付いている、そぅ見えた。
背中に大きな白い蜘蛛がしがみついている、そう見えた。
いや、しがみついているという表現は間違いであった。
ムカデと蜘蛛の足は全て皮膚に食い込んでいた。突き刺さっていた。
間も無く、その足は脈打ち始めた。
流れているのは血では無かった。ルイスの魂と魔力が流れていた。
筋肉や間接の動作を補助している光魔法の粒子が吸い上げられていた。
ゆえに、ルイスの体は銀色の糸に包まれているように見えた。魂を感知できない者にはそう見えた。
「「「……!?」」」
場にいる兵士達はそのあまりの非現実感に、声をあげることも出来なかった。
その静寂をルイスが直後に破った。
「全軍前進! 私に続け!」
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