Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十六話 もっと力を!(4)

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   ◆◆◆

 南が混沌に包まれたのとは対照的に、北は平和だった。
 魂の多くを先の戦いで消費したからだろう、ルイスはそう考えていた。
 南の暴動についての情報はまだ入ってきていなかった。
 しかし、南で確実に現在進行形で問題が発生しているだろうとルイスは踏んでいた。
 ルイスはそのための準備をしようとしていた。
 だが問題があった。
 要は金の話であった。
 化け物と連戦になるなど予想だにしていなかったからだ。ゆえにそんな予算は用意していない。負けた時のための金は残してあるが、それは今後の復興にあてられる約束になっている。
 問題はもう一つある。軍を再び編成、派遣するための口実だ。
 既にパイの切り分け作業が始まっている。パイは当然、魔王を倒したことで得られた土地などだ。
 魔王軍に支配される前は大小さまざまな国があり、かつての支配者達や土地の管理者達がいた。
 太い協力者の多くはそういう者達やその子孫だ。当然、魔王軍による略奪から上手く逃げることができた者に限られるが。
 当然、兵士達もこのパイの切り分けに参加する。
 ほとんどの兵士達は魔王軍を倒すまでの契約になっていた。
 つまり、このままだと兵士達は散り散りになり、違う国の人間になってそれぞれの人生を歩み始めてしまうということだ。
 だからルイスは兵士達への報酬の支払いを一部凍結させていた。
 当然、兵士達は不満をあらわにしている。
 このままだと反乱が起きそうな勢い。だからこの手は長く使えない。
 ゆえにルイスは南に調査員を派遣していた。
 南に軍を派遣する口実ができれば問題が解決する可能性が高い。
 しかし間に合うかどうかわからない。確実性にも欠ける。
 されど、当てはもう一つあった。
 ルイスはそちらのほうが確実性があると踏んでいた。
 その鍵を握る人物はキーラだった。

   ◆◆◆

 ルイスはそのための作業の進捗を確認しに行った。

「上手くいってるか?」

 ルイスは作業しているアルフレッドに後ろから声をかけた。
 場所は魔王城の近くにある罪人用の牢屋。
 城の内部にも牢はあるが、城は現在修復作業中であった。
 そしてその牢に捕らえられているのはやはりキーラであった。
 しかし牢屋にしては、かつての魔王を拘束している部屋にしては良い設備であった。
 明らかに後から持ち込んだと思える家具が揃っている。
 それはキーラのためであり、作業をするアルフレッドのためでもあった。
 そしてアルフレッドは作業を一段落させてから答えた。

「順調……だと思う」

 しかしその返事ははっきりとしないものだった。

「何か問題があるのか?」

 ルイスが尋ねるとアルフレッドは考えを整理してから答えた。

「……この人には恋人がいた。そしてその恋人の魂を人質にとられたせいであんなことになったみたいだ。そして厄介なことに、その恋人の仇はあなた達だ」

 これにルイスは「ふむ」と考え込む様子を見せた。
 しかし、考えていることはアルフレッドが期待している答えでは無かった。

(感情や動機の条件や定義付けはそこまで得意というわけでは無いのか……意外だな。あれだけの技を持っているのに)

 そこまで考えたところでルイスは思考を改めた。

(……いや、それは違うか。人間の心を自由にいじくるなどの、そういう技術の鍛錬を無意識に避けてきたのかもしれない。あの技も倒す技では無く、救うことに特化した技だったからな。心根が優しい人間なのかもしれない)

 彼の中にいるアリスなら出来るだろうが、アルフレッドの優しさを尊重して口を挟まないようにしているように感じられる。
 ならば酷なことをさせているかもしれない。協力を条件に、なかば強制的にこの作業をやらせたのは間違いだったかもしれない。
 といっても自分も忙しい。サイラスも同様だ。今は猫の手でも借りたいほど。
 だからルイスは解決法を手短に教えることにした。

「復讐という行為を軽蔑するように改造すればいい。それと、戦いというものを神聖視するようにもしておいたほうがいいな」

 前者が有効なのは明らかだったが、後者の有効性はアルフレッドにはわからなかった。
 それを感じ取ったルイスは聞かれる前に答えた。

「復讐は戦いに分類されるものだからだ。戦いを神聖なものだと思わせていれば、それを汚すことを避ける。ゆえに復讐を実行する可能性がさらに下がる」

 言われてみれば単純だったが、アルフレッドは素直に「そういうことか」と相槌を打った。
 その相槌に確かなものを感じ取ったルイスはその場を去ろうとしたが、

「そうだもう一つ」

 念のために付け加えておくことにした。

「神聖視する動機をオレグの思い出と結び付けておけばなお良い。記憶の映像を上手く加工して、偽造したセリフを綺麗に合わせるんだ」

 それは我々の世界でいうところの、映像加工技術となんら変わらないことであった。
 しかしこの世界の虫使いにとっては常識と呼べる技術。
 ゆえにアルフレッドは「わかった」と即答した。
 その答えに自信を感じ取ったルイスは、安心してその場を去ることにした。
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