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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十八話 凶獣協奏曲(25)
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突き出された槍の先端が防御魔法を貫き、蝶を巻き込んで嵐と化す。
完璧であった。描かれ始めた嵐の軌道は完璧に計算通りであった。
さらに、幸運の女神も味方してくれたようであった。
デュランは動こうとしなかった。
だが、よく見ればそれは幸運によるものだけでは無いように思えた。
デュランと目が合っていたからだ。
その目は嵐が来るのをじっと待っているように見えた。耐えているように見えた。
そしてデュランはその眼差しのまま、ベアトリスと目を合わせたまま嵐に飲み込まれた。
嵐がデュランの髪を切り刻み、蝶がデュランの魂を守るように張り付く。
されどデュランの体はまったく傷つかない。
まるですり抜けていくように嵐が通り過ぎていく。
そして幸運はまだ続いているようであった。
(良かった! 治せる!)
蝶の部品が流用できる、デュランさんの魂と相性が合ってる、その幸運にベアトリスは思わず心の声を響かせたが、
「!」
その時間はあまり無いようであった。
切り刻まれた髪はすぐにその凶暴性を取り戻し、襲い掛かってきた。
蝶で迎え撃つ。
だが、
(ダメ! こんなの、わたしの蝶だけじゃ食い止められない!)
それは困難を通り越して不可能の域に達していた。
だからベアトリスは、
(デュランさん、ゴメン――っ!)
心の中から謝罪の声を響かせ、来るであろう結末に眉をひそめた。
が、次の瞬間、
「!?」
戦う蝶の背後で、変化が起こった。
蝶からすると、その変化はそこから光が溢れたような感覚であった。
強力な魂の波動。
すさまじい密度と強度。
そんな強い気配が広がり、一瞬で場を包む。
デュランの魂はその気配の中心にあった。
そしてベアトリスは見た。感じ取った。
デュランの魂が再生されていくのを。
脳からの補給だ。
そしてその恩恵は蝶にまでもたらされた。
すさまじい充足感。蝶がこれまでに無いほどに力強くなるのを感じる。
その身が太く、羽が分厚くなっていく。
さらにそれだけでは無かった。
蝶の複製が、次々と編み出されていった。
瞬間、ベアトリスはふと思った。
どうして突然に脳が機能したのか? と。
だから気付いた。
他の魂達がデュランを捕まえようとした理由だ。
デュランの魂は「鍵」なのだ。
デュランの魂で無ければ脳の機能を利用することはできないのだ。
だからデュランの脳は自衛しかしない不活性状態なのだろうか? いや、それ自体は出血によるものだろう。魂で体を直接動かしているのは緊急事態だからのはずだ。
とにかく、魂達はその機能を自由に使うためにデュランを拘束しようとしたことは間違い無い。
もしかしたら、鍵の複製を作ろうとしていたのかもしれない。
そんな憶測の直後、デュランの意識はようやく形を取り戻した。
だが、まだおぼろげ。
その隙を凶人は見逃さなかった。
「デュランさん! 来てるよ!」
だから動いて! そんな思いをベアトリスは蝶を通じて響かせた。
デュランはその思いに即座に応えた。
突進してくる凶人に向かって縦に一閃。
瞬間、デュランの心の声が響いた。蝶を通じて感じ取れた。
こういう時、いつも言っていた言葉があったような気がする、と。
おぼろげな意識から生まれたおぼろげな言葉。
そして直後、振り下ろされた刃から放たれた三日月は凶人の目の前の地面に炸裂し、砕けて光の旋風となった。
続けて大剣を振り上げる。
しかし次の標的は凶人では無かった。
放たれた三日月はデュランの目の前にある壁に炸裂し、嵐となってデュランの体を包んだ。
されどこれも完璧。デュランの身は傷つかない。
蝶も同様。刃のような光の風は蝶には一切触れなかった。
されど、蝶を襲っていた髪の毛達は違った。
嵐が容赦無く魂達を切り刻む。
そしてデュランは視線を戻した。
次の凶人の集団が姿を現したからだ。
まだ少し遠い。逃げる時間はある。考える時間もある。
されど、デュランはそんなことはまったく考えていなかった。
上段に振り上げた大剣を見せ付けるようにかかげたまま、握り手に力と魔力を込める。
デュランが考えていることは一つだけだった。
こういう時に叫んでいた言葉。
かつてよく放っていた気勢。
デュランはそれをようやく思い出し、それを叫びながら振り下ろした。
「シャラアァァッ!」
完璧であった。描かれ始めた嵐の軌道は完璧に計算通りであった。
さらに、幸運の女神も味方してくれたようであった。
デュランは動こうとしなかった。
だが、よく見ればそれは幸運によるものだけでは無いように思えた。
デュランと目が合っていたからだ。
その目は嵐が来るのをじっと待っているように見えた。耐えているように見えた。
そしてデュランはその眼差しのまま、ベアトリスと目を合わせたまま嵐に飲み込まれた。
嵐がデュランの髪を切り刻み、蝶がデュランの魂を守るように張り付く。
されどデュランの体はまったく傷つかない。
まるですり抜けていくように嵐が通り過ぎていく。
そして幸運はまだ続いているようであった。
(良かった! 治せる!)
蝶の部品が流用できる、デュランさんの魂と相性が合ってる、その幸運にベアトリスは思わず心の声を響かせたが、
「!」
その時間はあまり無いようであった。
切り刻まれた髪はすぐにその凶暴性を取り戻し、襲い掛かってきた。
蝶で迎え撃つ。
だが、
(ダメ! こんなの、わたしの蝶だけじゃ食い止められない!)
それは困難を通り越して不可能の域に達していた。
だからベアトリスは、
(デュランさん、ゴメン――っ!)
心の中から謝罪の声を響かせ、来るであろう結末に眉をひそめた。
が、次の瞬間、
「!?」
戦う蝶の背後で、変化が起こった。
蝶からすると、その変化はそこから光が溢れたような感覚であった。
強力な魂の波動。
すさまじい密度と強度。
そんな強い気配が広がり、一瞬で場を包む。
デュランの魂はその気配の中心にあった。
そしてベアトリスは見た。感じ取った。
デュランの魂が再生されていくのを。
脳からの補給だ。
そしてその恩恵は蝶にまでもたらされた。
すさまじい充足感。蝶がこれまでに無いほどに力強くなるのを感じる。
その身が太く、羽が分厚くなっていく。
さらにそれだけでは無かった。
蝶の複製が、次々と編み出されていった。
瞬間、ベアトリスはふと思った。
どうして突然に脳が機能したのか? と。
だから気付いた。
他の魂達がデュランを捕まえようとした理由だ。
デュランの魂は「鍵」なのだ。
デュランの魂で無ければ脳の機能を利用することはできないのだ。
だからデュランの脳は自衛しかしない不活性状態なのだろうか? いや、それ自体は出血によるものだろう。魂で体を直接動かしているのは緊急事態だからのはずだ。
とにかく、魂達はその機能を自由に使うためにデュランを拘束しようとしたことは間違い無い。
もしかしたら、鍵の複製を作ろうとしていたのかもしれない。
そんな憶測の直後、デュランの意識はようやく形を取り戻した。
だが、まだおぼろげ。
その隙を凶人は見逃さなかった。
「デュランさん! 来てるよ!」
だから動いて! そんな思いをベアトリスは蝶を通じて響かせた。
デュランはその思いに即座に応えた。
突進してくる凶人に向かって縦に一閃。
瞬間、デュランの心の声が響いた。蝶を通じて感じ取れた。
こういう時、いつも言っていた言葉があったような気がする、と。
おぼろげな意識から生まれたおぼろげな言葉。
そして直後、振り下ろされた刃から放たれた三日月は凶人の目の前の地面に炸裂し、砕けて光の旋風となった。
続けて大剣を振り上げる。
しかし次の標的は凶人では無かった。
放たれた三日月はデュランの目の前にある壁に炸裂し、嵐となってデュランの体を包んだ。
されどこれも完璧。デュランの身は傷つかない。
蝶も同様。刃のような光の風は蝶には一切触れなかった。
されど、蝶を襲っていた髪の毛達は違った。
嵐が容赦無く魂達を切り刻む。
そしてデュランは視線を戻した。
次の凶人の集団が姿を現したからだ。
まだ少し遠い。逃げる時間はある。考える時間もある。
されど、デュランはそんなことはまったく考えていなかった。
上段に振り上げた大剣を見せ付けるようにかかげたまま、握り手に力と魔力を込める。
デュランが考えていることは一つだけだった。
こういう時に叫んでいた言葉。
かつてよく放っていた気勢。
デュランはそれをようやく思い出し、それを叫びながら振り下ろした。
「シャラアァァッ!」
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