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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十八話 凶獣協奏曲(33)

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 ゆえにデュランはその雲から放たれる気配を強く浴びていた。
 おぞましい。
 飢えた魂たちが中でうごめいている。
 その飢えを満たすために、自分のほうに手を伸ばそうとしている。
 雲から飛び出しそうな勢いで顔をこちらに向けている。
 数えきれないほどの顔が並んでいる。
 どれも苦しんでいる。
 まるで地獄の壁が目の前にそそりたっているようだ、デュランはそう思った。
 そう思った直後、壁は苦悶の感覚と共に手を生やし、伸ばしてきた。
 何本も。何本も。数えきれないほどに。
 そのすべてが、ある一か所に向かって伸び始めた。
 それはデュランの頭部。
 その輝く果実を欲しがるかのように、放たれる幸福な夢の感覚にいざなわれるかのように、亡者は手を伸ばしていた。
 だからデュランは思った。
 そんなにこれが欲しいなら、くれてやる、と。
 その思いにデュランの長髪は連動した。
 ねじれ、束になり、大剣に巻き付く。
 デュランは痛々しいほど締め付けられるその刃を構え、

「シィィィ――」

 鋭い空気音のような声を漏らしながら体をひねり、全身に力と魔力を込めた。
 そしてその力の高まりが限界に達した瞬間、

「シャラアアアァァッ!!」

 デュランはその力を解き放って一閃した。
 刃が分厚い銀色の軌跡を描き、巨大な三日月となって放たれる。 
 デュランはその刃を振りぬいた力に身を任せ、空中で回転を始めた。
 一回転し、さらに一閃。
 回転は止まらない。止めない。
 二閃、三閃、四閃。

「ラァララリャアアァッ!」

 肺の中の空気をすべて気勢に変えて吐き出し、力に変える。
 その力を勢いに変えてさらに四回転。
 その八回転目でデュランは貯めた魂をすべて使い切った。
 デュランの体も上昇力を失い、落下を始める。
 その無重力感の中でデュランは見上げ、見た。
 放った八枚の三日月が雲の中でぶつかり合い、そして嵐に転じたのを。
 かつて見たことの無いほどの規模の光の嵐。
 巨大な渦を描きながら、雲を内部から引き裂いていく。
 その渦の力は雲の表面にまでおよび、螺旋の模様となって浮き出てきた。
 まるで台風。
 下にいる皆がそう思った直後、嵐の発生点で変化が起き始めた。
 嵐と共に展開されたデュランの兵器達が、雲の重要回路を破壊していた。
 破壊された雲の部位が雪となって場に降り始める。
 いや、雪にしてはそれは大きかった。それは大粒の雹(ひょう)のように大きかった。
 そして雲に穴が開き始めた。
 破壊は止まらず、穴は雲の三分の一ほどの大きさにまで広がった。
 それはまさに台風の目のようであった。
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