Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(12)

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   ◆◆◆

「デュランに手を出したのは失敗だったのでは?」
「私もそう思う」
「あれは好機だったかもしれないが、迂闊でもあった」
「やはり分身の性格を慎重なものに統一するべきでは?」
「そんな話はあとでいい。問題はこの状況をどうするかだ」
「警戒はされているが、やつらに我々は見えない。仕掛けても問題無いのでは?」
「私もそう思う。発見される可能性があるのは攻撃の瞬間だけだ。やつらに我々を捕まえることなどできない」
「いや、連中を侮るな。特にナチャは危険だ」
「やつは大きく、技術もある。漁師が網で捕まえるように、隙間の無い大規模攻撃でこちらをまとめて捕獲してくる可能性がある。手を出さない方がいい」
「しかしそれでは何もできないということになる。黙って指をくわえて見ていても獲物は手に入らないぞ。あきらめるのか?」
「いいや、まだ手はある」
「何か考えがあるのか?」
「まだ確率は五分というところだが、連中を我々の本体のそばに誘導できるかもしれない」
「つまり、力技で強引に誘拐する、ということか?」
「そうだ」
「五分と言ったが、その確率を上げる手はあるのか?」
「ある。そちらはまだ警戒されていない。今なら仕掛けられる」
「……なるほど、そういうことか。だが、かなりの人数に仕掛けることになるな。今の我々の戦力でやれるか?」
「ぎりぎりのところだ。それも含めて五分と思っている。我々が力を使い果たすのが先か、仕事が完璧に終わるのが先か、非常にきわどい」
「本体からの補給を待つ時間は?」
「それは断言できる。無い。やつらの進軍速度のほうが圧倒的に早い。待っていたら先に問題の地点に到着されてしまう」
「ならば決まりだな」
「早速始めよう」

   ◆◆◆

 何者かが言った通り、進軍は順調であった。
 その理由はやはり、先行している精鋭達のおかげであった。
 アルフレッドが最前で暴れる予定であったが、彼を追い抜きそうな勢いで進撃する部隊があった。
 その部隊は進軍と共に大きくなっていった。
 最初は優れた感知能力者を集めた数百人の部隊だった。
 最初の街を制圧したところで五百人に増え、次の街で千人を超えた。
 その部隊の長はサイラス。
 サイラスは得意の技で倒した狂人の脳を逆に乗っ取り、自分の兵士に変えていた。
 そしてサイラスもアルフレッドと同じく、ナチャの手ほどきを受けていた。

「破ッ!」

 戦場にサイラスの気勢が響き、長剣が空を切る。
 その長剣が見た目にわかりやすく変化していた。
 以前のトゲ付きの触手だけでなく、ナチャが得意とするムカデも巻き付いている。
 そしてサイラスの周りには常に数多くの精霊が、死神が飛び回っている。
 それぞれが違う仕事を担当し、連携していた。
 剣から伸びるトゲ付きの触手が敵にからみつき、神経を浸食して拘束する。
 同時に剣にからみついているムカデが飛び出し、脳を襲う。
 ムカデが脳を破壊したあと、死神が飛び込んで乗っ取る。
 つまり、サイラスが剣で直接の傷を与える必要性はほとんど無くなったのだ。並の相手であれば触手とムカデによる神経攻撃だけで終わる。
 ゆえに、サイラスの刃はまったく汚れていなかった。
 空を切るだけでいい。なぎ払うだけでいい。刃を振った勢いで触手とムカデを飛ばすだけで、遠距離攻撃だけで終わる。
 だが、今回の敵は一味違った。
 放たれた触手もムカデも全て避けた強者が一人いた。
 そして速い。
 サイラスが大きく振り切った長剣を切り返すのが間に合うかどうか、きわどいほどの踏み込み速度。
 完全に大振りの隙を突いた形。
 であったが、サイラスに切り返すつもりは無かった。
 その必要が無いからだ。

「っ!」

 直後、踏み込んできた狂人の体は、真横からの飛び込んできた別の狂人の体当たりによって止められた。
 ぶつかってきた狂人の頭には死神が憑りついていた。
 これがもう一つの進化。乗っ取りの高速化だ。
 入ってから操作可能になるまでの時間が以前よりもかなり短縮している。
 が、複雑な操作が可能になるまでにはそれなりの時間を要する。ゆえに体当たりであった。 
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