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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神
第二十話 母なる海の悪夢(19)
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◆◆◆
「……っ」
『ソレ』はじっと我慢強く戦況を見ていた。
まだだ、まだ早い、だがもう少しだ、そんな思考を呪文のように繰り返していた。
仕掛けるべき時は、どちらかの陣営が大きく崩れ始めた時。
本体への被害は可能な限りおさえるべき。結果がどう転んでも、予想される未来のことを考えるならばそのように立ち回るべきだ。
「……」
だから『ソレ』はじっと耐えていた。
望む未来を引き寄せるために、海の底でじっと息をひそめていた。
◆◆◆
アルフレッドとベアトリス、二人の奇襲は成功に終わった。
「……っ」
だが、ベアトリスの表情は明るいものでは無かった。
なぜなら、狂人の攻撃が自分に集中したからだ。
あきらかに、アルフレッドに対しては手加減がされていた。
アルフレッドもそれを感じ取っていた。
ゆえに、
「「……」」
言葉は無かったが、二人の意識は繋がっていた。
何があってもベアトリスだけは、アルフレッドだけは守る、そんな同じ思いが交錯していた。
◆◆◆
アルフレッドとベアトリスが船を奪ったことで戦況の傾きは加速していった。
動きやすくなった味方のドラゴンとナチャが海中の雲をおさえ、精霊の生産を止める。
そして白サメと首長竜の脅威が減ることで、海上の小型船の火力は大型船に集中するようになった。
優勢だ、そんな空気が全体に広がり始めていた。
ゆえに、
「いいぞ! その調子で攻め続けろ!」
ルイスは思わず声を上げ、味方を鼓舞した。
何も無ければこのまま押し切れる、ルイスはそう感じていた。
そうだ。何も無ければ勝てる。それは正しい予想だった。
が、ルイスのその思いは直後に裏切られた。
「「「!!?」」」
瞬間、ルイスを含む感知能力者達は一斉に同じ方向に目を向けた。
それは海の底。
なにか大きな、いや、巨大なものがそこから湧き上がってきていた。
海の底そのものが迫ってきているかのような感覚。
ナチャが小さく見える、そんな途方も無い大きさ。
そして同じなのは目線の向きだけでは無かった。
「「「……?!!」」」
全員が同じ恐怖に染まっていた。
直後、全員の頭の中に同じ言葉が響き始めた。
“我を恐れよ”
海の底から本当に響いているような声。
そんな重く暗い声は続いた。
“我を崇めよ(あがめよ)、称えよ(たたえよ)”
声が響くたびに、兵士達の心は萎縮し、体はすくんでいった。
“我に屈服せよ。従属せよ。我はすべての主たる存在。古き原初に近しきものなり”
そしてようやくルイスは気づいた。
これは攻撃だと。
とてつもなく大きな感情の波が放たれている。
だからルイスは即座に声を上げた。
「声に意識を向けるな! これは精神汚染攻撃だ! 感情を閉じろ! でないと恐怖に呑まれるぞ!」
機械になれ。ルイスが出した指示はそういう類のものであった。
当然、そんなことができる人間は多くない。
ゆえにルイスの声は響かず、状況は悪化の一途をたどっていた。
そして間も無く、海底から湧き上がってきていたソレは、海上に姿を現した。
(……イカの足?!)
それはそうとしか見えなかった。
数えきれないほどの数のイカの足が海中から伸び生えていた。
しかしいずれも途方も無く巨大。どの足も大型船より大きい。
そしてそれを見てルイスはようやく気付いた。
(まさか、こいつらは?!)
ルイスはようやく答えにたどり着いた。
ずっと疑問だった。こいつらがどこからきたのか。
恐ろしい展開速度と物量、それを実現するための兵站線はどこから伸びていたのか、こいつらの聖域はどこなのか。
その答えをルイスは叫んだ。
(海の底か!)
なんということだ、と、ルイスは続けて叫んだ。
我々は人間と戦っていたのでは無かったのだ! 我々は海からの侵略を受けていたのだ!
「……っ」
『ソレ』はじっと我慢強く戦況を見ていた。
まだだ、まだ早い、だがもう少しだ、そんな思考を呪文のように繰り返していた。
仕掛けるべき時は、どちらかの陣営が大きく崩れ始めた時。
本体への被害は可能な限りおさえるべき。結果がどう転んでも、予想される未来のことを考えるならばそのように立ち回るべきだ。
「……」
だから『ソレ』はじっと耐えていた。
望む未来を引き寄せるために、海の底でじっと息をひそめていた。
◆◆◆
アルフレッドとベアトリス、二人の奇襲は成功に終わった。
「……っ」
だが、ベアトリスの表情は明るいものでは無かった。
なぜなら、狂人の攻撃が自分に集中したからだ。
あきらかに、アルフレッドに対しては手加減がされていた。
アルフレッドもそれを感じ取っていた。
ゆえに、
「「……」」
言葉は無かったが、二人の意識は繋がっていた。
何があってもベアトリスだけは、アルフレッドだけは守る、そんな同じ思いが交錯していた。
◆◆◆
アルフレッドとベアトリスが船を奪ったことで戦況の傾きは加速していった。
動きやすくなった味方のドラゴンとナチャが海中の雲をおさえ、精霊の生産を止める。
そして白サメと首長竜の脅威が減ることで、海上の小型船の火力は大型船に集中するようになった。
優勢だ、そんな空気が全体に広がり始めていた。
ゆえに、
「いいぞ! その調子で攻め続けろ!」
ルイスは思わず声を上げ、味方を鼓舞した。
何も無ければこのまま押し切れる、ルイスはそう感じていた。
そうだ。何も無ければ勝てる。それは正しい予想だった。
が、ルイスのその思いは直後に裏切られた。
「「「!!?」」」
瞬間、ルイスを含む感知能力者達は一斉に同じ方向に目を向けた。
それは海の底。
なにか大きな、いや、巨大なものがそこから湧き上がってきていた。
海の底そのものが迫ってきているかのような感覚。
ナチャが小さく見える、そんな途方も無い大きさ。
そして同じなのは目線の向きだけでは無かった。
「「「……?!!」」」
全員が同じ恐怖に染まっていた。
直後、全員の頭の中に同じ言葉が響き始めた。
“我を恐れよ”
海の底から本当に響いているような声。
そんな重く暗い声は続いた。
“我を崇めよ(あがめよ)、称えよ(たたえよ)”
声が響くたびに、兵士達の心は萎縮し、体はすくんでいった。
“我に屈服せよ。従属せよ。我はすべての主たる存在。古き原初に近しきものなり”
そしてようやくルイスは気づいた。
これは攻撃だと。
とてつもなく大きな感情の波が放たれている。
だからルイスは即座に声を上げた。
「声に意識を向けるな! これは精神汚染攻撃だ! 感情を閉じろ! でないと恐怖に呑まれるぞ!」
機械になれ。ルイスが出した指示はそういう類のものであった。
当然、そんなことができる人間は多くない。
ゆえにルイスの声は響かず、状況は悪化の一途をたどっていた。
そして間も無く、海底から湧き上がってきていたソレは、海上に姿を現した。
(……イカの足?!)
それはそうとしか見えなかった。
数えきれないほどの数のイカの足が海中から伸び生えていた。
しかしいずれも途方も無く巨大。どの足も大型船より大きい。
そしてそれを見てルイスはようやく気付いた。
(まさか、こいつらは?!)
ルイスはようやく答えにたどり着いた。
ずっと疑問だった。こいつらがどこからきたのか。
恐ろしい展開速度と物量、それを実現するための兵站線はどこから伸びていたのか、こいつらの聖域はどこなのか。
その答えをルイスは叫んだ。
(海の底か!)
なんということだ、と、ルイスは続けて叫んだ。
我々は人間と戦っていたのでは無かったのだ! 我々は海からの侵略を受けていたのだ!
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