Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十一話 そして聖域は地獄に変わる(1)

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   ◆◆◆

  そして聖域は地獄に変わる

   ◆◆◆

 名はナイアーラトテップ。
 地域によってはニャルラトホテプとも呼ばれている。
 
 気づけばそう呼ばれていた。
 ある場所の名称と、その地方のある言葉を組み合わせて作られた名前だったと記憶している。
 もうはっきりと覚えていない。その場所も今は存在しない。地殻変動で無くなってしまった。だから今となってはどうでもいいことだ。

 神が世界を支配していた時代、私は一人で趣味に没頭していた。
 大した趣味では無い。自分の技術を磨くという、よくあるありふれたもの。
 しかしそのありふれた趣味のおかげで私は難を逃れた。
 人が神に対して反旗をひるがえした時代、私は磨いた技術で災難をやりすごすことができたのだ。
 私は己を改造することに成功し、海に逃げ込んだのだ。海の生活に適した体を作り上げたのだ。

 だがそれは新たな苦難の始まりであった。
 海底には既に多すぎるほどの住人がいた。
 そして引っ越したばかりの自分は、その住人達から比べると弱い存在だった。
 さらに海底は徹底した管理社会だった。
 弱い私がその社会の中で暮らすにはこき使われるしか無かった。
 だから私は強くなろうと思った。至極単純な動機であり、それが始まりだった。

   ◆◆◆

 ――っ。

 アルフレッドはぼやけた意識の中で夢のようなものを見ていた。
 ナイアーラトテップと呼ばれる神の記憶の夢。
 しばらくしてその夢は現代の章に移った。
 どうやら、こいつはある海の王からの命令で動いていたようだ。
 しかしこいつは自分を王に渡すつもりは無いらしい。
 なぜ命令に背いているのか、そこに関する記憶はまだ見えていない。
 アルフレッドがそこまで考えた直後、声が響いた。

「君の体はやっぱりすごいねえ」
 
 初めて聞く声だったが、それが誰のものかわかった。
 ナイアーラトテップだ。
 声は続いた。

「完全に潰した人格がもう再生を始めてる。すごい速度で組み上げられている。いやあ、君の大工は本当に優秀だよ」

 声の調子から余裕が感じ取れた。
 ナイアーラトテップはその余裕を見せつけるかのように、さらに声を響かせた。

「しかも私の記憶を盗み見る技術としたたかさまで持っている。まったくもって驚きだ」

 が、直後、声は冷徹なものに変わった。

「だが無駄だ」

 心を、意識を締め付けるような声。
 まるで心をねじ伏せようとするかのように声は冷たく続いた。

「君も感じ取っているだろう? 自分が削られていく感覚を。自分がまた消え去りつつあることを」

 ――っ。

 それは否定できなかった。
 ゆえにアルフレッドは直後に得意の技術で心を隠そうとした。
 が、

 ――……?!

 出来なかった。
 いつもの感覚が、手ごたえが無い。
 まるで突然技術を忘れてしまったよう。
 なぜ? その問いに声が冷たく答えた。

「君は自分の身に何が起きているのかわかっていないのだろう? 私の記憶から情報を集めているようだが、肝心な技術などの部分についての詳細は取ってこれていない。だからわからない」

 直後、声は余裕の調子を取り戻して再び響いた。

「私は小さなものを生み出すのが得意なのだ。大工と同じくらいの大きさのものを作り出せる。それは大工の声を正確に理解できる。大工と話すことすら可能だ」

 そこまで出来るのであれば――アルフレッドがそう思った瞬間、「そうだ」と声が響いた。

「もちろん、大工を捕まえたり、脅迫して屈服させたりもできる。大工だけを狙って殺すことも可能だ」

 だから――アルフレッドが理解した直後、その内容を声が代弁した。

「だから君のあの技術は封印されている。君の中には君とまったく同じ考え方をする大工がいて、そいつは君と同等の権力を持っていた。君はいざという時にその大工に体を操作させていた。当然、脳波は出ない。だから心を隠せる。君に体の操縦権を返す時は何があったかの詳細が添付される。だから思考が遅れてくるように感じられる」

 つまり、あの大工は、もう一人の隠された遠い自分と思っていたあいつはもう――

「その通り。あれはもう始末した。君には何も出来ない。そして残された時間もあまり多くない」

 ――っ。

 それでもアルフレッドは抵抗しようとした。何をすれば抵抗になるのかさえわからなかったが。
 そのあがきに対し、ナイアーラトテップは薄く笑った。それが感じ取れた。
 ナイアーラトテップは笑みをそのままに声を響かせた。

「しかし、君の抵抗は無駄だが、残された君の時間は無駄では無い。愉快だ。見ていてとても楽しい」

 ナイアーラトテップは、「それに、」と言葉を繋げた。

「君のことは嫌いでは無い。君には同情している。君のことはよく知っている。一人だった時の君の生きざまには共感すら覚えている」

 ナイアーラトテップは大きく短く笑い、言った。

「だから君とは短い時間だが友として上手く付き合える気がする。君のことはずっと見ていたからね。思い出を共有して、互いの身の上話を楽しく馬鹿馬鹿しく語り合える気がする。『君もそう思うだろう?』」

 私のことを友のように「ナイアラ」と呼んでくれてかまわない、そんな言葉までそれは付け加えた。
 が、アルフレッドは何も言葉を返さなかった。
 アルフレッドは違うことを考えていた。
 なぜこいつは王を裏切るようなことをしてまで自分を手に入れたのか、と。
 アルフレッドがそう思った直後、声が響いた。

「せっかく楽しんでいるのに。がっかりさせないでくれ。君は意外と鈍いのだな。なぜ、私がこんな技術を手に入れられたのだと思う?」

 瞬間、アルフレッドは夢の内容を思い出した。
 こいつは趣味に、自分の技術を磨くことに没頭していた時期がある。
 しかし、それは具体的にどうやっていた?

 ――……! 

 アルフレッドはすぐに気付いた。
 直後、再び「そうだ」と声が響いた。

「全部大工にやらせたのだよ! 私自身は何もしていない! ある人間を捕まえて乗っ取った時にたまたま手に入れたのだ! 小さな精霊を生み出す技術を!」

 声は高らかに続いた。

「その人間の大工はとても優秀だった! 海で生きていくための体だけで無く、海で手に入る物資から小さなものを作り出す技術まで、基本となるものは全部手に入った!」

 そしてナイアーラトテップは落ち着きを取り戻し、優しく、そして冷たく言った。

「君の大工もとても優秀だ。だから君は特別なのだ。君には期待している。だから君は何よりも大切に扱う。約束しよう」
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