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最終章
第五十九話 あの男(1)
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◆◆◆
あの男
◆◆◆
参謀は魔王に言われた通り、その人物に会いに行った。
相手は元将軍。広大な土地の領主であり、居場所は探すまでも無かった。
ゆえに楽な仕事だと思っていた。
「……っ」
が、参謀は積もった雪の中を歩かされていた。
屋敷の応接間でその人物の孫に言われたのだ。祖父は外で作業をしている、と。
外は雪が降っているにもかかわらず、だ。
孫は自ら呼びに行こうとしたが、参謀はそれを代わりに引き受けたのだ。
頼みごとをする相手の孫を使い走りにすれば、その後の交渉に響く可能性があると思ったからだ。
「はあ、……はっ、はあ」
だから参謀は息を切らせながら、言われた場所を目指していた。
目的地は屋敷から離れたところにある森林。
近くは無い。が、迷う心配は無かった。
作業の音が聞こえるからだ。
木を斧で切っている音。
冬の間に切り倒しておけば、春の開墾作業がやりやすくなるからだ。
それは確かにその通りなのだが、普通はこんなことはしない。
普通は春と夏の間に伐採し、次の年を待つ。
噂通りに真面目な善人なのだろう、参謀はそんな事を考えながら、音に向かって足を前に出し続けた。
が、しばらくしてその歩みは急に遅くなった。
斧を振っている者は見つけた。背中が視界に入った。
だがあれは人違いだ、その後ろ姿はそうとしか見えなかった。
体格の良い若い大男、その背中はそのように見えた。
しかし足を止めて周りを見回すよりも、近くで同じ作業をしている人がいないかあの者に尋ねたほうが良い、参謀はそう思って足を前に出し続けた。
そして同時に参謀は気付いた。
その作業の手際の良さが異常であることに。
たった数回の打ち込みで木を切り倒している。
見ると、斧は普通のものよりも分厚く、大きいものであった。さらにうっすらと光っているように見えた。
凄まじい、参謀はそう思った。
もっと近くで見てみたい、そう思った参謀の足は自然と前に出続けた。
そして雪を踏み固める足音がお互いの耳にはっきりと響くほどに近づいた瞬間、
「何の用だ?」
その者は振り返らぬまま、斧を振り続けながら背中越しに参謀に尋ねた。
参謀は答えた。
「領主を、ヴィクトル殿を探している。ここら辺にいると聞いたのだが――」
その言葉に、大男は手を止め、振り返りながら口を開いた。
「私がそのヴィクトルだが」
「……?!」
参謀は一瞬信じられなかった。
話に聞いた通りならば、年齢は魔王様よりも上、八十前半のはずだ。
しかしその顔つきは、体つきは八十のそれでは無い。
背中だけ見れば三十、顔を見て四十、頭の上に薄く積もった雪の隙間から見える白髪まで含めてようやく五十といったところ。
そしてその体は魔王とは対照的。
分厚い衣服の上からでも分かるほどに筋骨隆々だ。
「……!」
ゆえに参謀は返事も忘れて思った。
やはり世の中には色々な人間がいるのだと。見た目が似ていても、まったく違う生き物がいるのだと。
そしてこの男はその中でも特に異常なものだと。
あの男
◆◆◆
参謀は魔王に言われた通り、その人物に会いに行った。
相手は元将軍。広大な土地の領主であり、居場所は探すまでも無かった。
ゆえに楽な仕事だと思っていた。
「……っ」
が、参謀は積もった雪の中を歩かされていた。
屋敷の応接間でその人物の孫に言われたのだ。祖父は外で作業をしている、と。
外は雪が降っているにもかかわらず、だ。
孫は自ら呼びに行こうとしたが、参謀はそれを代わりに引き受けたのだ。
頼みごとをする相手の孫を使い走りにすれば、その後の交渉に響く可能性があると思ったからだ。
「はあ、……はっ、はあ」
だから参謀は息を切らせながら、言われた場所を目指していた。
目的地は屋敷から離れたところにある森林。
近くは無い。が、迷う心配は無かった。
作業の音が聞こえるからだ。
木を斧で切っている音。
冬の間に切り倒しておけば、春の開墾作業がやりやすくなるからだ。
それは確かにその通りなのだが、普通はこんなことはしない。
普通は春と夏の間に伐採し、次の年を待つ。
噂通りに真面目な善人なのだろう、参謀はそんな事を考えながら、音に向かって足を前に出し続けた。
が、しばらくしてその歩みは急に遅くなった。
斧を振っている者は見つけた。背中が視界に入った。
だがあれは人違いだ、その後ろ姿はそうとしか見えなかった。
体格の良い若い大男、その背中はそのように見えた。
しかし足を止めて周りを見回すよりも、近くで同じ作業をしている人がいないかあの者に尋ねたほうが良い、参謀はそう思って足を前に出し続けた。
そして同時に参謀は気付いた。
その作業の手際の良さが異常であることに。
たった数回の打ち込みで木を切り倒している。
見ると、斧は普通のものよりも分厚く、大きいものであった。さらにうっすらと光っているように見えた。
凄まじい、参謀はそう思った。
もっと近くで見てみたい、そう思った参謀の足は自然と前に出続けた。
そして雪を踏み固める足音がお互いの耳にはっきりと響くほどに近づいた瞬間、
「何の用だ?」
その者は振り返らぬまま、斧を振り続けながら背中越しに参謀に尋ねた。
参謀は答えた。
「領主を、ヴィクトル殿を探している。ここら辺にいると聞いたのだが――」
その言葉に、大男は手を止め、振り返りながら口を開いた。
「私がそのヴィクトルだが」
「……?!」
参謀は一瞬信じられなかった。
話に聞いた通りならば、年齢は魔王様よりも上、八十前半のはずだ。
しかしその顔つきは、体つきは八十のそれでは無い。
背中だけ見れば三十、顔を見て四十、頭の上に薄く積もった雪の隙間から見える白髪まで含めてようやく五十といったところ。
そしてその体は魔王とは対照的。
分厚い衣服の上からでも分かるほどに筋骨隆々だ。
「……!」
ゆえに参謀は返事も忘れて思った。
やはり世の中には色々な人間がいるのだと。見た目が似ていても、まったく違う生き物がいるのだと。
そしてこの男はその中でも特に異常なものだと。
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