Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十二話 武人の性(14)

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   ◆◆◆

 その後、二人の戦いは打って変わって激しいものとなった。
 二人の間を光弾が飛び交い、その中を鎖が跳ね回っている。
 鎖を振るカイルの左腕は霞んで見えるほど速く動いている。
 そして、それ以上にクレアの動きも激しい。
 クレアは右へ左へ高速移動を繰り返している。
 影が伸びたように錯覚するほどの速さ。だが、クレアの動きを追う分銅はそれ以上に速い。
 素人目には分銅の動きはほとんど見えない。ゆえにクレアのどの動きが回避行動なのか判別がつかない。
 カイルが圧倒しているように見える。クレアがあまり反撃しないからだ。
 素人目にはカイルが勝利に近づいているように見える。攻め続けていれば、当たるまで手を出し続ければいいのだと思ってしまう。
 普通の魔法使い同士の戦いならばそうだ。しかしこの戦いは違う。
 戦っている二人以外に、そのことに気付いている者が一人いた。
 それはヨハン。

(間合いを維持したまま攻め続けてはいるが……)

 ヨハンは今のままではカイルの攻撃が当たる望みは薄いと感じていた。
 むしろその可能性はどんどん低くなっているように思える。
 クレアの動きに軽快さが戻ってきているからだ。緊張と驚きから来る硬さが抜けてきている。
 それはつまり、あの鎖の動きに慣れて来ているということ。
 偶然か何かで戦いに変化が起きない限り、カイルの攻撃は当たらないように思える。
 ヨハンは心の中で舌打ちしながら、カイルに対して毒を吐いた。

(まったく、一騎討ちなどと……とんだ面倒を始めてくれたものだ)

 カイルは普段は静かであるが、時々こういう武人らしい一面を見せ、声を上げる。
 そしてそういう時に限って厄介な事態になることが多かった。
 ゆえにカイルに仕事を何でもかんでも任せることは出来なかった。特に、汚い仕事に関しては強い拒否反応を見せた。カイルは「正々堂々」というものを重んじ過ぎている気配がある。
 そんなカイルの気質が、今この場で「一騎討ち」という形で表れてしまったわけだ。
 却下することも出来た。そうすべきだったかもしれない。
 しかしもう一つ厄介なことに、カイルは反抗心も強いのだ。その証拠に私に対して心から忠誠を誓っているわけではないと、先ほどはっきりと口にしおった。
 反抗は一度や二度では無い。そしてその度に、握っているカイルの「弱み」を使ってきた。
 しかしそれも限界が見えてきている。最近、カイルが私に黙って調べ事をしていたことが分かった。
 何を調べていたのかは考えなくても分かる。この戦いが終わったらすぐに対処せねばならない。
 まったく……この気質さえなければ、と何度思ったことか。頼りになる男であることは間違いないのだが。

「……ふう」

 憂鬱さにため息を吐きながら、ヨハンは目の前の戦いに意識を戻した。
 さて、どうするか。
 圧勝ならば何の文句も無かった。しかしどうも雲行きが怪しい。
 ここでカイルを失うのは惜しい。ならば保険はかけておくべきか。
 そう考えたヨハンは、

「お前達」

 と、離れたカイルの代わりに傍に呼び戻した三人の側近に声をかけた。
 命令ならなんなりと、というような顔で三人が振り向く。
 そんな三人に、ヨハンは指差しをしながら口を開いた。

「二人前に出ろ。一人はクレアの側面について、もう一人は背後につけ」

 何故? と聞きたげな顔を三人が見せると、

「カイルが危なくなったらすぐにクレアを撃て。いいな?」

 本当は聞かなくても分かっていた内容を、ヨハンははっきりと口にした。
 これに三人が少し戸惑う様子を見せると、ヨハンは続けて口を開いた。

「わかったな?」

 重みが効いたその口調に、側近達は頷きを返すことしか出来なかった。

 はっきり言ってヨハンのこの選択は間違いである。もしそれでカイルが命拾いしたとしても、ただでさえ薄い忠誠心がさらにか細くなるだけだからだ。
 カイルの気質はクリスと少し似ている。立場と境遇が違うゆえに表面に出る性格は異なるが。
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