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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十六話 選択と結末(15)
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◆◆◆
「……!」
うっすらと砂煙が立ち込めるなか、サイラスは驚きの表情を浮かべていた。
ラルフが放った最大の一撃は眼前の光景を一変させていた。
地面はまるで巨大な獣の爪で耕かされたかのように、全てめくれ上がっていた。
(ラルフは光る嵐を放つと聞いていたが、これほどとは)
奇妙なのは、受けたアランがほぼ真上に吹き飛んだこと。
ラルフが放った攻撃がどういうものかを知らないサイラスは、その理由がどうしてもわからなかった。
回転する光の嵐に飲まれたアランは地面に叩きつけられた後、地面と共に巻き上げられたのだ。
そしてもう一つ奇妙なのは、倒れているアランが五体満足であることだ。
光る嵐に飲み込まれる寸前、アランは自分から飛び込んだように見えた。
今の攻撃をまともに受けて五体満足でいられるはずがない。
やはりアランはあの技で対抗したのだろう。
(しかしそれだけとは思えない。運が良かっただけ? それとも……)
サイラスが考えているとおり、アランは剣だけで切り抜けたわけでは無い。
アランが五体満足で生き残れた秘密は体捌きにあった。
光る嵐に巻き込まれながら、アランは被害が少なくなるように台本に沿って姿勢を制御していたのだ。それも薄れる意識の中で。もちろん運が良かったのもある。体を引き裂かれるような直撃を避けることが出来る位置にあったのだから。
「……」
サイラスは答えの出ぬ疑問に対して考えるのを止め、砂煙の奥に視線を向けた。
いま気になるのは、壁の向こうに居る二人がどうなったのかだ。
しばらくしてそれは明らかになった。
まず最初にサイラスの目に入ったのはクラウスの姿。
クラウスは右肩を左手で押さえていた。
その手は血に塗れている。
壁は無い。吹き飛ばされたのだろう。
もう一人の姿は見えない。
瓦礫の中に埋もれてしまったのか? そう思ったサイラスの目が別の場所に移りかけた瞬間、それはクラウスの後ろから姿を現した。
「!」
それを見たラルフは先のサイラスと同じ表情を浮かべ、口を開いた。
「……リリィ!?」
どうして君がここに、とは言えなかった。ここは収容所。居て当たり前だからだ。
そして駆け寄れなかった。知らなかったとはいえリリィを自分の攻撃に巻き込んだことは明らか。その後ろめたさがラルフの足を地面に縫いとめていた。
そして、当のリリィはそんなラルフの事など意識に入っていないかのように、
「アラン!」
別の男の名を叫び、走り出した。
仰向けに倒れているアランの傍に駆け寄り、傷を見る。
「……!」
瞬間、リリィはその身を硬直させた。
アランは全身傷だらけであった。ここに来たばかりの時よりも酷い。
だが、リリィの目はある一点だけを見ていた。
それは胸部。
そこに熊の爪痕のような、深くえぐられた傷が出来ているのだ。
周辺は赤く染まっている。
「止血しなくては」、その言葉が心に浮かび上がった瞬間、リリィは手を動かした。
身に纏っている服を適当に裂き、それで傷口を押さえる。
しかしその程度では出血は止まらなかった。
リリィの顔に焦りの色が浮かぶ。
直後、遅れて駆け寄って来たクラウスが懐から包帯を取り出した。
たすきがけるように胸に巻き付ける。
強く圧迫することは出来なかった。胸骨が折れているからだ。
ゆえに出血を完全に止めることは出来ず、包帯は瞬く間に赤く染まった。
しかし先よりは遥かにマシになった。
クラウスは折れた胸骨に気をつけながら、包帯を薄く広く重ねていった。
その間にリリィが他の小さな傷を手当する。
二人が忙しなく手を動かすその様を、ラルフとサイラスは少し離れたところから見つめていた。
「……」
サイラスは難しい顔をしていた。
なぜなら、
(アランにとどめを刺したいが、リリィが傍にいては手を出せんな)
からだ。
いまラルフの気を悪くするようなことは出来ない。リリィは身を挺してアランを守る可能性がある。
「……!」
うっすらと砂煙が立ち込めるなか、サイラスは驚きの表情を浮かべていた。
ラルフが放った最大の一撃は眼前の光景を一変させていた。
地面はまるで巨大な獣の爪で耕かされたかのように、全てめくれ上がっていた。
(ラルフは光る嵐を放つと聞いていたが、これほどとは)
奇妙なのは、受けたアランがほぼ真上に吹き飛んだこと。
ラルフが放った攻撃がどういうものかを知らないサイラスは、その理由がどうしてもわからなかった。
回転する光の嵐に飲まれたアランは地面に叩きつけられた後、地面と共に巻き上げられたのだ。
そしてもう一つ奇妙なのは、倒れているアランが五体満足であることだ。
光る嵐に飲み込まれる寸前、アランは自分から飛び込んだように見えた。
今の攻撃をまともに受けて五体満足でいられるはずがない。
やはりアランはあの技で対抗したのだろう。
(しかしそれだけとは思えない。運が良かっただけ? それとも……)
サイラスが考えているとおり、アランは剣だけで切り抜けたわけでは無い。
アランが五体満足で生き残れた秘密は体捌きにあった。
光る嵐に巻き込まれながら、アランは被害が少なくなるように台本に沿って姿勢を制御していたのだ。それも薄れる意識の中で。もちろん運が良かったのもある。体を引き裂かれるような直撃を避けることが出来る位置にあったのだから。
「……」
サイラスは答えの出ぬ疑問に対して考えるのを止め、砂煙の奥に視線を向けた。
いま気になるのは、壁の向こうに居る二人がどうなったのかだ。
しばらくしてそれは明らかになった。
まず最初にサイラスの目に入ったのはクラウスの姿。
クラウスは右肩を左手で押さえていた。
その手は血に塗れている。
壁は無い。吹き飛ばされたのだろう。
もう一人の姿は見えない。
瓦礫の中に埋もれてしまったのか? そう思ったサイラスの目が別の場所に移りかけた瞬間、それはクラウスの後ろから姿を現した。
「!」
それを見たラルフは先のサイラスと同じ表情を浮かべ、口を開いた。
「……リリィ!?」
どうして君がここに、とは言えなかった。ここは収容所。居て当たり前だからだ。
そして駆け寄れなかった。知らなかったとはいえリリィを自分の攻撃に巻き込んだことは明らか。その後ろめたさがラルフの足を地面に縫いとめていた。
そして、当のリリィはそんなラルフの事など意識に入っていないかのように、
「アラン!」
別の男の名を叫び、走り出した。
仰向けに倒れているアランの傍に駆け寄り、傷を見る。
「……!」
瞬間、リリィはその身を硬直させた。
アランは全身傷だらけであった。ここに来たばかりの時よりも酷い。
だが、リリィの目はある一点だけを見ていた。
それは胸部。
そこに熊の爪痕のような、深くえぐられた傷が出来ているのだ。
周辺は赤く染まっている。
「止血しなくては」、その言葉が心に浮かび上がった瞬間、リリィは手を動かした。
身に纏っている服を適当に裂き、それで傷口を押さえる。
しかしその程度では出血は止まらなかった。
リリィの顔に焦りの色が浮かぶ。
直後、遅れて駆け寄って来たクラウスが懐から包帯を取り出した。
たすきがけるように胸に巻き付ける。
強く圧迫することは出来なかった。胸骨が折れているからだ。
ゆえに出血を完全に止めることは出来ず、包帯は瞬く間に赤く染まった。
しかし先よりは遥かにマシになった。
クラウスは折れた胸骨に気をつけながら、包帯を薄く広く重ねていった。
その間にリリィが他の小さな傷を手当する。
二人が忙しなく手を動かすその様を、ラルフとサイラスは少し離れたところから見つめていた。
「……」
サイラスは難しい顔をしていた。
なぜなら、
(アランにとどめを刺したいが、リリィが傍にいては手を出せんな)
からだ。
いまラルフの気を悪くするようなことは出来ない。リリィは身を挺してアランを守る可能性がある。
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