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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十七話 炎の槍(4)
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◆◆◆
(あの男も動いた……!)
それを見たリーザは緊張に顔をこわばらせた。
「それ」とはもちろん広場にいる兵士達の移動である。
が、リーザはその中の一人だけに、クラウスだけに注目していた。
「……っ」
クラウスを見つめながらリーザは思わず歯軋りしていた。
右手は自然と胸を押さえている。
手の下には心的外傷(トラウマ)の原因である傷跡がある。
リーザはそれを人差し指でなぞりながら、傷をつけられた時のことを思い出した。
リーザは以前クラウスに殺されかけたことがあった。アランがクリスの城を離れていた間の事である。
その戦いでリーザは衝撃的な負け方をした。
切り札である爆発魔法を剣で真っ二つにされたのだ。
そんな常識外れの芸当を成したのがクラウス。
上段からの振り下ろしで爆発魔法を叩き割ったクラウスは、剣を下段に置いたまま踏み込み、勢いを乗せた切り上げでリーザの胸を切り裂いたのだ。
その際、リーザは無抵抗であったわけでは無い。リーザは防御魔法でクラウスの光る切り上げを受けた。が、リーザの防御魔法は紙を裂くかのように容易く切り裂かれてしまった。
その恐ろしいほどの切れ味をリーザは今もよく覚えていた。
リーザにとってクラウスは恐怖の対象であった。
あまりにも理不尽な、得体の知れない切れ味を有する剣。
それが今、自分を奇襲するために動き始めたのだ。
(……っ)
リーザは恐怖をかみ殺しながら迷った。
何をか。それは炎を使うかどうか。
間違いなく奇襲は横から来る。だが炎を使えば、周囲を火の海にすればそれを阻止することが出来る。
上からの攻撃もそれで止めることが出来る。
とても安全で強力な手だ。自分の身が可愛いならば迷う余地は無いほどの。
だが、ヨハンが治める街を、教会の長が統べるこの街を燃やしてしまってもいいのか、という考えがリーザを迷わせていた。
そして迷いの原因はそれだけでは無かった。
(でも、この魔法があれば炎を使わずとも……)
リーザの中にはある攻撃魔法のイメージがあった。
(あの時は接近を許してしまったから斬られた。でも、これがあればどんな相手も押し返せるはず……!)
リーザは努力していた。心的外傷を克服するために。
そして編み出したのだ。ある魔法を。
リーザはそれを頭の中でイメージしながら、いつでも放てるように身構えつつ声を上げた。
「奇襲に備えて左右に壁を展開! 正面が少し薄くなっても構わないから!」
この指示を待っていたらしく、兵士達はすぐに反応した。
左右に兵士が整列し始め、正面を守っていた一部の者達もそれに加わる。
瞬く間に両側面に二枚の壁が完成。
前が少し薄くなったが、こちらは視界が長く取れているので不安感は無い。正面から攻められてもリーザ自身が対応できるからだ。
怖いのは奇襲から乱戦に持ち込まれること。誤射の可能性が高まり、ますます炎を使いづらくなってしまう。
「……」
だからリーザ達はゆっくりと前進した。降り続ける矢雨を防ぎながら。
弓兵達への反撃を行いながら、建物のドアと家屋の間にある細い路地に警戒を払う。
そして、広場に居る敵兵達との距離が光弾が届くか届かないか、というところまで縮まった直後、リーザの目は遂にそれを捉えた。
細い路地に兵士が溜まっているのが見える。
リーザはすぐに声を上げた。
「来るわよ、迎撃して! ……?!」
が、リーザの警戒心はすぐに疑問に変わった。
路地にいる敵に動く気配が無いからだ。
まるで何かを待っているかのようだ――リーザがそう思った瞬間、
「!」
突如、リーザの視界が暗くなった。
顔に影が差している。
一体何の――影の正体を確認するために、リーザが見上げようとした瞬間、
「!?」
ぐしゃり、という音がリーザの耳に入った。
音の正体はすぐに分かった。目の前にある。
上から降って来た敵兵に味方が踏み潰されたのだ。
リーザの顔が再び影に覆われる。
見上げると、そこには衝撃の光景があった。
人の形をした影が中空にあった。
一つや二つではない。数えるのが不可能なほどに屋根から次々と飛び出してきている。
ぐしゃり、という音がそこら中で沸き始める。
仲間が着地の踏み台にされているのだ。
影は防御魔法と肉の踏み台で着地の衝撃を殺しながら、次々と部隊の中に舞い降りた。
路地に居た敵はこれを待っていた? そんな考えがリーザの中に浮かび上がった直後、事態に気付いた兵士の一人が声を上げた。
(あの男も動いた……!)
それを見たリーザは緊張に顔をこわばらせた。
「それ」とはもちろん広場にいる兵士達の移動である。
が、リーザはその中の一人だけに、クラウスだけに注目していた。
「……っ」
クラウスを見つめながらリーザは思わず歯軋りしていた。
右手は自然と胸を押さえている。
手の下には心的外傷(トラウマ)の原因である傷跡がある。
リーザはそれを人差し指でなぞりながら、傷をつけられた時のことを思い出した。
リーザは以前クラウスに殺されかけたことがあった。アランがクリスの城を離れていた間の事である。
その戦いでリーザは衝撃的な負け方をした。
切り札である爆発魔法を剣で真っ二つにされたのだ。
そんな常識外れの芸当を成したのがクラウス。
上段からの振り下ろしで爆発魔法を叩き割ったクラウスは、剣を下段に置いたまま踏み込み、勢いを乗せた切り上げでリーザの胸を切り裂いたのだ。
その際、リーザは無抵抗であったわけでは無い。リーザは防御魔法でクラウスの光る切り上げを受けた。が、リーザの防御魔法は紙を裂くかのように容易く切り裂かれてしまった。
その恐ろしいほどの切れ味をリーザは今もよく覚えていた。
リーザにとってクラウスは恐怖の対象であった。
あまりにも理不尽な、得体の知れない切れ味を有する剣。
それが今、自分を奇襲するために動き始めたのだ。
(……っ)
リーザは恐怖をかみ殺しながら迷った。
何をか。それは炎を使うかどうか。
間違いなく奇襲は横から来る。だが炎を使えば、周囲を火の海にすればそれを阻止することが出来る。
上からの攻撃もそれで止めることが出来る。
とても安全で強力な手だ。自分の身が可愛いならば迷う余地は無いほどの。
だが、ヨハンが治める街を、教会の長が統べるこの街を燃やしてしまってもいいのか、という考えがリーザを迷わせていた。
そして迷いの原因はそれだけでは無かった。
(でも、この魔法があれば炎を使わずとも……)
リーザの中にはある攻撃魔法のイメージがあった。
(あの時は接近を許してしまったから斬られた。でも、これがあればどんな相手も押し返せるはず……!)
リーザは努力していた。心的外傷を克服するために。
そして編み出したのだ。ある魔法を。
リーザはそれを頭の中でイメージしながら、いつでも放てるように身構えつつ声を上げた。
「奇襲に備えて左右に壁を展開! 正面が少し薄くなっても構わないから!」
この指示を待っていたらしく、兵士達はすぐに反応した。
左右に兵士が整列し始め、正面を守っていた一部の者達もそれに加わる。
瞬く間に両側面に二枚の壁が完成。
前が少し薄くなったが、こちらは視界が長く取れているので不安感は無い。正面から攻められてもリーザ自身が対応できるからだ。
怖いのは奇襲から乱戦に持ち込まれること。誤射の可能性が高まり、ますます炎を使いづらくなってしまう。
「……」
だからリーザ達はゆっくりと前進した。降り続ける矢雨を防ぎながら。
弓兵達への反撃を行いながら、建物のドアと家屋の間にある細い路地に警戒を払う。
そして、広場に居る敵兵達との距離が光弾が届くか届かないか、というところまで縮まった直後、リーザの目は遂にそれを捉えた。
細い路地に兵士が溜まっているのが見える。
リーザはすぐに声を上げた。
「来るわよ、迎撃して! ……?!」
が、リーザの警戒心はすぐに疑問に変わった。
路地にいる敵に動く気配が無いからだ。
まるで何かを待っているかのようだ――リーザがそう思った瞬間、
「!」
突如、リーザの視界が暗くなった。
顔に影が差している。
一体何の――影の正体を確認するために、リーザが見上げようとした瞬間、
「!?」
ぐしゃり、という音がリーザの耳に入った。
音の正体はすぐに分かった。目の前にある。
上から降って来た敵兵に味方が踏み潰されたのだ。
リーザの顔が再び影に覆われる。
見上げると、そこには衝撃の光景があった。
人の形をした影が中空にあった。
一つや二つではない。数えるのが不可能なほどに屋根から次々と飛び出してきている。
ぐしゃり、という音がそこら中で沸き始める。
仲間が着地の踏み台にされているのだ。
影は防御魔法と肉の踏み台で着地の衝撃を殺しながら、次々と部隊の中に舞い降りた。
路地に居た敵はこれを待っていた? そんな考えがリーザの中に浮かび上がった直後、事態に気付いた兵士の一人が声を上げた。
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