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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十七話 炎の槍(8)
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リーザの視線がクラウスの方に戻る。同時にクラウスはリーザに向かって進路変更、そのまま突進。
リーザの瞳に映った大盾の像がみるみるうちに大きくなる。
迫る大盾。その表面は発光している。
大盾の上に防御魔法をかぶせているのは明らか。
リーザの心に危機感が湧き上がる。
相手は重量と硬度を大きく増した。前と同じ威力の爆発で止められるのか?
それが言葉になるよりも速く、リーザは爆発魔法の構えを取った。
危機感を払拭する何かをひらめいたわけではない。恐れのような感覚から目をそらして、とりあえず構えただけだ。
そして実のところ、リーザが真に恐れているのは別のところにある。
対処する術が全く無いわけではない。単純な手がひとつあるが、それには代償が伴う。リーザが本当に恐れているのはそちらのほうだ。
リーザの手の上に薄赤い光球が生まれる。
クラウスはもう目の前。
しかし危機感を払うひらめきはまだ生まれない。
やむを得ない、そう思ったリーザは手にある光球に魔力を注ぎ足した。
その直後、
「!?」
クラウスの像が「すっ」と下に縮んだ。
しかし距離感は変わらない。
ならば答えはひとつ。
(下!?)
視線を動かすよりも速く、リーザは両手を下に向けてかざした。
刹那遅れてリーザの両眼が低姿勢突進をしかけてくるクラウスの像を中心にとらえる。
そこでリーザの体が一瞬硬直。
この体勢で、この魔法を下方に向けて発動すればどうなるか、そんな考えが浮かんだからだ。
どうなるかなどわかりきっている。しかし使わねば――
(殺される?!)
という恐怖と焦りが、リーザに魔法を発動させた。
リーザの両手から閃光と爆音が生じ、自身の体が後方に吹き飛ぶ。
(っっつぅ!)
ミシミシという悲鳴をあげるリーザの両手。そこから伝わる痛みにリーザは顔を歪めた。
発動と同時に後ろに跳んだのだが、それでも手が砕けそうだ。
リーザの視界が上に流れ、空を映したと同時に背中に衝撃。
仰向けに落ちたリーザの体が地面の上を滑る。
背中と地面が削りあう痛みを感じながら、リーザは再び爆発魔法の準備をした。
きっとあの男は止まっていない、そんな気がしたからだ。
背中の摩擦が止まったと同時に上体を起こす。
するとそこには、やはり、とでも言うべき光景があった。
前方にあるのは迫る盾。
やはりこの男は止まっていなかった。
すかさず両手を前にかざし、迎撃の姿勢を取る。
が、次の瞬間、
「っ!!」
リーザの右腕に強烈な痛みが走った。
原因は矢。屋根から放たれたであろうそれが、二の腕を貫いたのだ。
全身が硬直しそうなほどの痛み。
しかしそれよりも問題なのは、
(光球が?!)
一瞬であったが姿勢が崩れたことで、練り上げていた魔力が拡散してしまったこと。
このままでは光球にならない。爆発魔法は完成しない。
もう一度最初から魔力を練り直さなければならない。しかしそんな時間を目の前の男が与えてくれるはずがない。
別の手段で迎撃しなくてはならない。のだが、
「……っ!」
この期に及んでリーザの体は硬直してしまった。
原因は二つ。恐怖と迷い。
理由のほとんどは恐怖が占めており、迷いはその恐怖に押し流されかけている。
強すぎる恐怖は時に人を激しく突き動かす。追い詰められた生物が突如激しい抵抗を行うように。
リーザにとって今がその時。生死の選択が迫っている。あと少し、あと一押しでリーザの迷いは決壊する。
次の瞬間、それは訪れた。
目の前に迫る大盾が輝きを失う。
それとほぼ同時に金属同士が摩擦した音が、抜刀音がリーザの耳に入った。
そして盾の横から伸びるように白刃が姿を現す。
このままだと体当たりと同時になで斬りにされる。
その光景が過去の痛みとともに脳裏をよぎる。
記憶の奥底に封印していたおぞましい感覚。それが背中を逆撫でながら胸元に登って来た瞬間、
「……ぅああぁぁっ!」
リーザは叫び声を上げながら左手を突き出した。
リーザの瞳に映った大盾の像がみるみるうちに大きくなる。
迫る大盾。その表面は発光している。
大盾の上に防御魔法をかぶせているのは明らか。
リーザの心に危機感が湧き上がる。
相手は重量と硬度を大きく増した。前と同じ威力の爆発で止められるのか?
それが言葉になるよりも速く、リーザは爆発魔法の構えを取った。
危機感を払拭する何かをひらめいたわけではない。恐れのような感覚から目をそらして、とりあえず構えただけだ。
そして実のところ、リーザが真に恐れているのは別のところにある。
対処する術が全く無いわけではない。単純な手がひとつあるが、それには代償が伴う。リーザが本当に恐れているのはそちらのほうだ。
リーザの手の上に薄赤い光球が生まれる。
クラウスはもう目の前。
しかし危機感を払うひらめきはまだ生まれない。
やむを得ない、そう思ったリーザは手にある光球に魔力を注ぎ足した。
その直後、
「!?」
クラウスの像が「すっ」と下に縮んだ。
しかし距離感は変わらない。
ならば答えはひとつ。
(下!?)
視線を動かすよりも速く、リーザは両手を下に向けてかざした。
刹那遅れてリーザの両眼が低姿勢突進をしかけてくるクラウスの像を中心にとらえる。
そこでリーザの体が一瞬硬直。
この体勢で、この魔法を下方に向けて発動すればどうなるか、そんな考えが浮かんだからだ。
どうなるかなどわかりきっている。しかし使わねば――
(殺される?!)
という恐怖と焦りが、リーザに魔法を発動させた。
リーザの両手から閃光と爆音が生じ、自身の体が後方に吹き飛ぶ。
(っっつぅ!)
ミシミシという悲鳴をあげるリーザの両手。そこから伝わる痛みにリーザは顔を歪めた。
発動と同時に後ろに跳んだのだが、それでも手が砕けそうだ。
リーザの視界が上に流れ、空を映したと同時に背中に衝撃。
仰向けに落ちたリーザの体が地面の上を滑る。
背中と地面が削りあう痛みを感じながら、リーザは再び爆発魔法の準備をした。
きっとあの男は止まっていない、そんな気がしたからだ。
背中の摩擦が止まったと同時に上体を起こす。
するとそこには、やはり、とでも言うべき光景があった。
前方にあるのは迫る盾。
やはりこの男は止まっていなかった。
すかさず両手を前にかざし、迎撃の姿勢を取る。
が、次の瞬間、
「っ!!」
リーザの右腕に強烈な痛みが走った。
原因は矢。屋根から放たれたであろうそれが、二の腕を貫いたのだ。
全身が硬直しそうなほどの痛み。
しかしそれよりも問題なのは、
(光球が?!)
一瞬であったが姿勢が崩れたことで、練り上げていた魔力が拡散してしまったこと。
このままでは光球にならない。爆発魔法は完成しない。
もう一度最初から魔力を練り直さなければならない。しかしそんな時間を目の前の男が与えてくれるはずがない。
別の手段で迎撃しなくてはならない。のだが、
「……っ!」
この期に及んでリーザの体は硬直してしまった。
原因は二つ。恐怖と迷い。
理由のほとんどは恐怖が占めており、迷いはその恐怖に押し流されかけている。
強すぎる恐怖は時に人を激しく突き動かす。追い詰められた生物が突如激しい抵抗を行うように。
リーザにとって今がその時。生死の選択が迫っている。あと少し、あと一押しでリーザの迷いは決壊する。
次の瞬間、それは訪れた。
目の前に迫る大盾が輝きを失う。
それとほぼ同時に金属同士が摩擦した音が、抜刀音がリーザの耳に入った。
そして盾の横から伸びるように白刃が姿を現す。
このままだと体当たりと同時になで斬りにされる。
その光景が過去の痛みとともに脳裏をよぎる。
記憶の奥底に封印していたおぞましい感覚。それが背中を逆撫でながら胸元に登って来た瞬間、
「……ぅああぁぁっ!」
リーザは叫び声を上げながら左手を突き出した。
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