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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十九話 二刀一心 三位一体(9)
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◆◆◆
気付けば、リーザは闇の中に立っていた。
「で、またこれなのね」
しかしリーザはもう驚かなかった。
「それで、今度は一体なんなの?」
そしてリーザは目の前にいる男、既に亡き自分の父に尋ねた。
尋ねながら、リーザは目の前にいるものの正体を察した。
たぶん、これは自分自身だ。本能だ。アランの力のおかげでわかった。
そして尋ねている私が理性だ。
対峙する本能は、悲しげな顔をしている。
その理由を、リーザはもう一度尋ねた。
「どうしたの? 私はもうあきらめるつもりはないわよ。だからこんなことしている場合じゃない、早く戻らないと」
自分に質問するなんて不思議ね、などと思いながら、リーザは本能の考えを探った。
しかし分からない。本能は活動に魔力をほとんど使っていないからだ。ゆえに感知も難しい。アランの力を借りている今ですら「たぶん」と推察出来る程度だ。
光や電気の波も強く拾えるクラウスの力を借りていれば分かったのだろうが、彼は今アランのことで精一杯のようだ。だから目の前にいる本人に聞くしかない。
「……」
そして本能はやはり口を閉ざしたままであったが、声無き声をリーザは感じ取った。
本能は、すまない、私の力不足のせいだ、と言いながらうつむいた。
そのはっきりしない答えに、リーザは少しイラつきながら再び尋ねた。
「だから、一体どうしたのかと聞いているの」
本能は静かに答えた。
限界がきてしまったと。
思い返して欲しい。この戦いでいろんなことがあった。ありすぎた。
生死のはざまで、君は新たな世界を知った。
素晴らしかった。しかし、それはタダで得られるものでは無かった。
大量の脳内麻薬の分泌、神秘の維持に伴う計算負荷の増加、それは安い代償では無かった。
限界とは筋肉や神経のほうじゃない。脳が限界をむかえつつあるのだ。もうすぐまともに考えられなくなる。動けなくなる。既に難しい計算は困難になっている。動きの微調整を担当している小脳は機能不全寸前だ。
「……」
その驚愕の内容にリーザは言葉を失ったが、すぐにある疑問に気付き、口を開いた。
「脳内麻薬を分泌しすぎた? じゃあ、今感じているこの快楽はなんなの? なんのためにこんなことを?」
尋ねながら、リーザの顔は「はっ」となった。聞かずとも、答えに気付いたのだ。
これは優しい死だ。
これから受けるであろう苦痛を消すためのものだ。
本能なりに気遣ったのであろうが、リーザはそれでも尋ねた。
「……私の許可無く、勝手にあきらめたというの?」
本能は首を縦に振らなかったが、リーザは肯定の意思のようなものを感じ取った。
その声無き答えに、リーザは怒りを抱くよりも早く叫んだ。
「ふざけないで! そんなこと許さないわ!」
本能を責めながら実のところリーザ自身、本当にどうしようもないのではないかと思っていた。
それでもリーザは口を開いた。あきらめたくない、ただその一心だけで。
「……何か、何か手は無いの?」
これに、本能が迷いのような、ためらいのような感情を抱いたのをリーザは見逃さなかった。
「あるのね?! 教えて!」
すがるリーザに、本能は渋々といった感じで答えた。
しかしそれは具体的な手段の内容では無く、本能がためらう理由であった。
本能いわく、この手を使うと私達は「一度死ぬ」ことになる、と。
さらに、完全に元に戻れる保障は無く、最悪人間性を失う可能性がある、と。
その内容に、リーザは当然のように尋ねた。
「……どういうこと?」
本能は答えた。
それはリーザにとって衝撃的な内容であった。
私達はあるものから創られた「写し」であるということ。
元々は一つであったが、理性と本能という形で分けられたと。
君が、理性が前線に立って采配を振るう将軍のような存在で、私は、本能は影の参謀のような存在であること。
そうした理由は、その方が生きる上で有利だと、私達を作ったものが考えたからだと。
「……」
その内容にリーザは言葉を失ったが、理解は早かった。
つまり、私達を作り出した存在が、権力を分割して割り当てたものが、理性と本能の上位にあたる存在がいるということ。
そしてリーザはその疑問を当然のように尋ねた。
「それは……何? 私達を作り生み出したものは、一体なにものなの?」
この質問に、本能は初めて口を開いて答えた。
「……言葉で表すならば、『魂』と呼ぶのが一番近いだろう」
その声は、やはり父のものと同じであった。
そして、リーザは『魂』というものがどういうものなのか想像すら出来なかったため、別の質問をぶつけた。
「……私達が『一度死ぬ』ことになるのは、何故なの?」
これに本能は父の声で答えた。
「『魂』がこの体を自由に動かすためさ。そのために私達は一度消されることになる。同じ権利を有するものが複数存在すると、操縦される体が混乱してしまうからな」
死ぬ理由が手段の説明にもなっていた。
リーザは間を置かずに次の質問をぶつけた。
「『人間性を失う可能性がある』というのはどういうことなの?」
「……」
リーザの質問に本能は即答しなかった。
本能はどう言えば理解してもらえるか考えているようであった。
「……」
だからリーザは黙って待った。
しばらくして、本能はゆっくりと口を開いた。
気付けば、リーザは闇の中に立っていた。
「で、またこれなのね」
しかしリーザはもう驚かなかった。
「それで、今度は一体なんなの?」
そしてリーザは目の前にいる男、既に亡き自分の父に尋ねた。
尋ねながら、リーザは目の前にいるものの正体を察した。
たぶん、これは自分自身だ。本能だ。アランの力のおかげでわかった。
そして尋ねている私が理性だ。
対峙する本能は、悲しげな顔をしている。
その理由を、リーザはもう一度尋ねた。
「どうしたの? 私はもうあきらめるつもりはないわよ。だからこんなことしている場合じゃない、早く戻らないと」
自分に質問するなんて不思議ね、などと思いながら、リーザは本能の考えを探った。
しかし分からない。本能は活動に魔力をほとんど使っていないからだ。ゆえに感知も難しい。アランの力を借りている今ですら「たぶん」と推察出来る程度だ。
光や電気の波も強く拾えるクラウスの力を借りていれば分かったのだろうが、彼は今アランのことで精一杯のようだ。だから目の前にいる本人に聞くしかない。
「……」
そして本能はやはり口を閉ざしたままであったが、声無き声をリーザは感じ取った。
本能は、すまない、私の力不足のせいだ、と言いながらうつむいた。
そのはっきりしない答えに、リーザは少しイラつきながら再び尋ねた。
「だから、一体どうしたのかと聞いているの」
本能は静かに答えた。
限界がきてしまったと。
思い返して欲しい。この戦いでいろんなことがあった。ありすぎた。
生死のはざまで、君は新たな世界を知った。
素晴らしかった。しかし、それはタダで得られるものでは無かった。
大量の脳内麻薬の分泌、神秘の維持に伴う計算負荷の増加、それは安い代償では無かった。
限界とは筋肉や神経のほうじゃない。脳が限界をむかえつつあるのだ。もうすぐまともに考えられなくなる。動けなくなる。既に難しい計算は困難になっている。動きの微調整を担当している小脳は機能不全寸前だ。
「……」
その驚愕の内容にリーザは言葉を失ったが、すぐにある疑問に気付き、口を開いた。
「脳内麻薬を分泌しすぎた? じゃあ、今感じているこの快楽はなんなの? なんのためにこんなことを?」
尋ねながら、リーザの顔は「はっ」となった。聞かずとも、答えに気付いたのだ。
これは優しい死だ。
これから受けるであろう苦痛を消すためのものだ。
本能なりに気遣ったのであろうが、リーザはそれでも尋ねた。
「……私の許可無く、勝手にあきらめたというの?」
本能は首を縦に振らなかったが、リーザは肯定の意思のようなものを感じ取った。
その声無き答えに、リーザは怒りを抱くよりも早く叫んだ。
「ふざけないで! そんなこと許さないわ!」
本能を責めながら実のところリーザ自身、本当にどうしようもないのではないかと思っていた。
それでもリーザは口を開いた。あきらめたくない、ただその一心だけで。
「……何か、何か手は無いの?」
これに、本能が迷いのような、ためらいのような感情を抱いたのをリーザは見逃さなかった。
「あるのね?! 教えて!」
すがるリーザに、本能は渋々といった感じで答えた。
しかしそれは具体的な手段の内容では無く、本能がためらう理由であった。
本能いわく、この手を使うと私達は「一度死ぬ」ことになる、と。
さらに、完全に元に戻れる保障は無く、最悪人間性を失う可能性がある、と。
その内容に、リーザは当然のように尋ねた。
「……どういうこと?」
本能は答えた。
それはリーザにとって衝撃的な内容であった。
私達はあるものから創られた「写し」であるということ。
元々は一つであったが、理性と本能という形で分けられたと。
君が、理性が前線に立って采配を振るう将軍のような存在で、私は、本能は影の参謀のような存在であること。
そうした理由は、その方が生きる上で有利だと、私達を作ったものが考えたからだと。
「……」
その内容にリーザは言葉を失ったが、理解は早かった。
つまり、私達を作り出した存在が、権力を分割して割り当てたものが、理性と本能の上位にあたる存在がいるということ。
そしてリーザはその疑問を当然のように尋ねた。
「それは……何? 私達を作り生み出したものは、一体なにものなの?」
この質問に、本能は初めて口を開いて答えた。
「……言葉で表すならば、『魂』と呼ぶのが一番近いだろう」
その声は、やはり父のものと同じであった。
そして、リーザは『魂』というものがどういうものなのか想像すら出来なかったため、別の質問をぶつけた。
「……私達が『一度死ぬ』ことになるのは、何故なの?」
これに本能は父の声で答えた。
「『魂』がこの体を自由に動かすためさ。そのために私達は一度消されることになる。同じ権利を有するものが複数存在すると、操縦される体が混乱してしまうからな」
死ぬ理由が手段の説明にもなっていた。
リーザは間を置かずに次の質問をぶつけた。
「『人間性を失う可能性がある』というのはどういうことなの?」
「……」
リーザの質問に本能は即答しなかった。
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