276 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十一話 三つ葉葵の男(20)
しおりを挟む
「!」
それは、その攻撃は雲水の目をもってしても光ったようにしか見えなかった。
速過ぎた。圧倒的であった。
しかし、抵抗しなければならない、という思いが雲水を突き動かしていた。
どう迎撃すべきかなど分からなかった。だから雲水は自身が最も得意とする型を、突きを選んでいた。
ゆえに、この激突はあの時のアランとリックと同じ、二本の閃光の交差という形になった。
「っっっ!!」
そして気付けば、雲水は万歳するように両手を上げていた。
その少し可笑しな体勢を、雲水の魂は刀の中から「見下ろしていた」。
何が起きた? その答えは本体の右手にあった。
その手に握られている刀は根元から折れていた。
だから自分は宙を高く舞っている。
本体に戻らなければ。雲水の魂はそう思ったが、出来なかった。
動けなかった。糸に捕まっていた。
女は雲水の後方、少し遠くにいた。
女は元に戻っていた。体から紋様が消えていた。
きっとこの技は長く使うことが出来ないのだろうと、雲水は思った。
そして見れば、彼女の針も同じように折れていた。
激突の衝撃に耐えられなかったのだろう。
動作そのものは単純。
針を突き出しながら横を通り抜けただけだ。
しかし、その速度の凄まじさが地面に残っている。
太く硬いもので削ったかのような減速の痕。
それが雲水の真後ろから長く、女の足元まで続いている。
(なんという一撃だ)
高みから雲水はそんなことをのんびりと考えていた。
もう自分にはどうすることも出来ないからだ。
しかし、その心にあきらめの色は無かった。
運がよほど悪くない限りなんとかなる、雲水はそう思っていた。
その思いの源泉は信頼。
雲水は信じていた。仲間の事を。仲間の技術を。
そしてその願いの結果は直後に女の顔に表れた。
「!?」
女の顔が驚きの色に染まる。
糸が切断されたからだ。
何に? 振り返らずとも女には分かっていた。感じ取っていた。
それは光の矢。
魔力を込めた鉄の矢による遠距離からの狙撃だ。
だから女は地面に突き立った矢の方にでは無く、遠方にいる狙撃主に向かって振り返り、睨み付けた。
狙撃主は女であった。雲水と一緒に屋根の上にいた忍者だ。
「……ふう」
その女忍者は強い苛立ちが込められた視線を受け取りながら、安堵の息を吐いた。
この狙撃は運の要素が強かったからだ。
女忍者は二人の戦いを目で追えていなかった。感知による予測を用いても追いつけなかった。
だから女忍者は雲水に頼った。
雲水の魂からの思いを受け取った直後、女忍者は逆に要求した。女の左手の正確な位置を。
糸を最短距離で伸ばして魂を捕まえようとするだろうと踏んだ女忍者は、女の左手と雲水の魂を結ぶ直線を狙ったのだ。
もし、糸が空いている左手からでは無く、折れた針を握る右手から伸ばされていたら外していただろう。
だから女忍者は「安堵の息をこぼしながら」、「念のために」次の矢を構えた。
この後の展開を女忍者は予想出来ていた。
あの女はすぐにもう一度糸を伸ばして雲水を捕まえようとするだろう。
しかし慌てる必要は無い。
なぜなら――
「!?」
直後、女は「矢の方に」振り返った。
感じ取ったからだ。矢に込められていた思いを。
それは言葉にすれば、「複眼に虫を使いすぎているせいで周囲への警戒が甘くなっているぞ」というものであった。
挑発的に感じる内容。
「……!」
だが、女は再び振り返らずにはいられなかった。
誰かが立ち上がる音が聞こえたからだ。
それが誰なのかも虫の報告で分かった。しかしそれでもこの目で見ずにはいられなかった。
だから女は振り返った。
それは、その攻撃は雲水の目をもってしても光ったようにしか見えなかった。
速過ぎた。圧倒的であった。
しかし、抵抗しなければならない、という思いが雲水を突き動かしていた。
どう迎撃すべきかなど分からなかった。だから雲水は自身が最も得意とする型を、突きを選んでいた。
ゆえに、この激突はあの時のアランとリックと同じ、二本の閃光の交差という形になった。
「っっっ!!」
そして気付けば、雲水は万歳するように両手を上げていた。
その少し可笑しな体勢を、雲水の魂は刀の中から「見下ろしていた」。
何が起きた? その答えは本体の右手にあった。
その手に握られている刀は根元から折れていた。
だから自分は宙を高く舞っている。
本体に戻らなければ。雲水の魂はそう思ったが、出来なかった。
動けなかった。糸に捕まっていた。
女は雲水の後方、少し遠くにいた。
女は元に戻っていた。体から紋様が消えていた。
きっとこの技は長く使うことが出来ないのだろうと、雲水は思った。
そして見れば、彼女の針も同じように折れていた。
激突の衝撃に耐えられなかったのだろう。
動作そのものは単純。
針を突き出しながら横を通り抜けただけだ。
しかし、その速度の凄まじさが地面に残っている。
太く硬いもので削ったかのような減速の痕。
それが雲水の真後ろから長く、女の足元まで続いている。
(なんという一撃だ)
高みから雲水はそんなことをのんびりと考えていた。
もう自分にはどうすることも出来ないからだ。
しかし、その心にあきらめの色は無かった。
運がよほど悪くない限りなんとかなる、雲水はそう思っていた。
その思いの源泉は信頼。
雲水は信じていた。仲間の事を。仲間の技術を。
そしてその願いの結果は直後に女の顔に表れた。
「!?」
女の顔が驚きの色に染まる。
糸が切断されたからだ。
何に? 振り返らずとも女には分かっていた。感じ取っていた。
それは光の矢。
魔力を込めた鉄の矢による遠距離からの狙撃だ。
だから女は地面に突き立った矢の方にでは無く、遠方にいる狙撃主に向かって振り返り、睨み付けた。
狙撃主は女であった。雲水と一緒に屋根の上にいた忍者だ。
「……ふう」
その女忍者は強い苛立ちが込められた視線を受け取りながら、安堵の息を吐いた。
この狙撃は運の要素が強かったからだ。
女忍者は二人の戦いを目で追えていなかった。感知による予測を用いても追いつけなかった。
だから女忍者は雲水に頼った。
雲水の魂からの思いを受け取った直後、女忍者は逆に要求した。女の左手の正確な位置を。
糸を最短距離で伸ばして魂を捕まえようとするだろうと踏んだ女忍者は、女の左手と雲水の魂を結ぶ直線を狙ったのだ。
もし、糸が空いている左手からでは無く、折れた針を握る右手から伸ばされていたら外していただろう。
だから女忍者は「安堵の息をこぼしながら」、「念のために」次の矢を構えた。
この後の展開を女忍者は予想出来ていた。
あの女はすぐにもう一度糸を伸ばして雲水を捕まえようとするだろう。
しかし慌てる必要は無い。
なぜなら――
「!?」
直後、女は「矢の方に」振り返った。
感じ取ったからだ。矢に込められていた思いを。
それは言葉にすれば、「複眼に虫を使いすぎているせいで周囲への警戒が甘くなっているぞ」というものであった。
挑発的に感じる内容。
「……!」
だが、女は再び振り返らずにはいられなかった。
誰かが立ち上がる音が聞こえたからだ。
それが誰なのかも虫の報告で分かった。しかしそれでもこの目で見ずにはいられなかった。
だから女は振り返った。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる