Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十二話 魔王(12)

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 それに、隊長は他の大事な事を忘れている。
 偽者の方に意識が向きすぎている。
 だから魔王は見せた。

「何っ?!」

 それを見た隊長は驚きの声を上げた。
 魔王と偽者が重なったのだ。

(いや、違う。これは――)

 しかし、隊長はすぐに自分の言葉の間違いに気付いた。
 重なっているのでは無い。身に纏っているのだ。

 これはシャロンが見せた技術と同じ類のものである。
 が、その効果は大きく異なる。
 まず第一に、身体能力はあまり強化されない。
 出来ないわけでは無い。単純に魔王の体が耐えられないのだ。
 そして第二に、糸が体外に露出しているゆえに、攻撃を受ければ簡単に破壊されるということ。
 欠点は多い。しかし、魔王は遠隔操作出来るという点に大きな価値を見出していた。

 そして、隊長が最も驚いたことは他にあった。
 魔王が偽者を身につけた瞬間、それは起きていた。

(偽者が、魔王の意識を、感覚を塗り替えた?!)

 瞬間、隊長は理解した。
 魔王に精神攻撃が通じなかった理由を。

 ここまで読んで、察した方は多いだろう。
 その通り、魔王は最も混沌に近い存在だ。

「ふん……」

 そして、魔王は隊長達がまだ重要なことを見落としていることに対して、ため息のようなものを吐いた。

(まだ「偽者」などと考えておるのか)

 魔王は「偽者」という表現が気に食わなかった。
 ゆえに、

(……まあ、いい。死んで学んでもらうとしよう)

 そう思った魔王は次の目標に向かって「杖」を構えながら雪を蹴った。

(来る!)

 その動きに、突撃対象となった男は即座に反応し、迎撃の三日月を放った。
 予想していたからだ。次の攻撃対象は近くにいる自分だろうと。
 それは他の者達も同じであった。
 ゆえにすぐにその男の援護に回れた。瞬時に情報の提供を開始出来た。
 そんな警戒の目が集まる中、三日月を回避した魔王が反撃の光弾を放つ。

(遅い?!)

 その速度に、男は戸惑った。
 突進する魔王より少し速い程度。軽く放り投げただけ。
 この弾は一体何なのか。
 その答えは直後に明らかになった。

「――っ!」

 耳をつんざく轟音と共に白む視界。

(これは――)

 言葉にするまでも無く、理解した。
 あの弾は破壊を目的としたものじゃない。強い光と轟音で視力と聴力を一時的に奪うためものだ。

(しかし!)

 問題は無い! 男は白い世界の中でそう己に活を入れた。
 なぜなら、見えなくとも分かっているからだ。
 離れたところにいる仲間達が正確な位置情報を提供してくれているからだ。
 目の前に気配が迫っている。
 しかしこれは偽者。本体はそのすぐ後ろにいる。

「!」

 直後、気配が二つに、左右に別れた。
 視界はいまだ白。
 だが問題は無い! 本体は、

(左!)

 仲間を信じた男は、左に回りこもうとする気配に向かって曲刀を振るおうとした。
 が、

「ぐ?!」

 直後、痛みとともに男の体は硬直した。

「う、お、があああぁっ!?」

 そして痙攣した。
 本体は右だった? 男は一瞬そう思った。
 しかし男は直後にそう思った己を、仲間を疑った事を恥じた。
 本体はやはり左。
 回復した視界に映るその姿が証拠。
 だが魔王は、本体は何もしていない。
 痛みの正体は電撃。
 右に回りこんだ偽者に抱きつかれているのだ。

「これに攻撃能力が無いと本気で思っていたのか? 愚か者め」

 突如魔王が放ったその罵倒に、男は返す言葉が無かった。
 その通りであった。『幻』という印象が強すぎた。身に纏っていたから、攻撃能力が無いと勝手に思い込んでいた。
 そんなわけが無い。「手と繋がっている」のだから、本人の意思で強弱を自在に変えられる。
 魔王はわざわざそれを見せてくれたのに、その事に気付けなかった。
 いや、違う。
 そもそも何かがおかしい。

「糞っ……!」

 だから、男は己に対して、見えない何かに対して毒を吐いた。
 そしてそれが男の最後の言葉になった。

「っ!」

 杖から抜き放たれた銀閃が、男の胸を横一文字に切り裂く。
 振りぬいた勢いを利用して刃についた赤色を振り払い、即座に納刀。
 その一動作は美しく、そして我々の知るものであった。
 クラウスや雲水の見せた居合いと全く同じ。
 魔王もまた、「杖」と「剣」の使い分けを模索するうちに、同じ技を身に着けていたのであった。
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