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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十二話 魔王(23)
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やってくれたな、という思いと共に光弾が放たれる。
一切の手加減が無い散弾。
そして、これをどうにかする力は今の隊長には残っていなかった。
ただ、運に任せて光の盾を張りながら突っ込むことしか出来なかった。
「ぐぉおおっ?!」
盾が一瞬で消し飛び、肉をえぐるかのような衝撃がその身を包む。
「ま……だだ!」
だが、隊長は倒れなかった。堪えた。
しかしその右手から曲刀は無くなっていた。
指ごと吹き飛ばされたのだ。
されど、隊長の心は揺るがなかった。
「まだ終わってない!」
叫びながら足を前に出す。
そしてその叫びには根拠があった。
その根拠は直後に空から降ってきた。
隊長はそれを三本指になった左手で受け止めた。
それは先ほど斬り飛ばされた女の右腕。
その手にはまだ力強く曲刀が握られていた。
隊長はその腕を左脇にかかえ、握り締められたその拳の上に左手の平を重ね、三本の指を巻きつかせた。
これは、腕がここに都合良く飛んで来たのはただの偶然。彼女の魂はあの時確かに、最後の力を使い果たしたはずだ。
そう分かっていた。しかし、隊長はこの偶然に神秘性を感じずにはいられなかった。
そして気付けば、隊長の頬には再び涙が流れていた。
赤く染まった顔がその温かい水に洗い流されていた。
その水は隊長の理性を強くし、己の状態を冷静に見直す切っ掛けとなった。
何もかも深刻な状態だ。
まだ走れているが、いつこの足が止まってもおかしくない。
そして、曲刀を大きく、速く振ることはもう出来なくなった。
彼女の右腕は三本指だけで支えるには重過ぎる。彼女の腕を捨てて武器だけを手に入れたいが、その指は恐ろしく硬く握り締められている。ゆえに脇に抱えるしか無いのだが、これだとかなり動きが制限される。
さらに自分の左腕も限界が近い。感覚が薄い。あと何回曲刀を振れるのかすらよく分からないほどに。
そして対する魔王は無傷。
絶望的と言って間違い無い状態差。
しかし足を前に出す隊長の心に絶望の色は、影は無い。
踏み込んで斬る、それしか頭に無い。
必中の間合いで最大の一撃を放つ、それしか考えていない。
あと数度の踏み込みでそれは成せる。
その間にもう一度攻撃されるが、それを凌げば勝機が手元にまで近づく。
隊長はそう考えていた。
魔王が次の言葉を放つ瞬間までは。
「阿呆が」
そう言って魔王は輝く杖の先端を下に、雪面に向けた。
また津波か?! と隊長は思った。
その直後、今回は違う、という言葉と共に魔王の声が流れ込んできた。
いくら我とて一発の光弾で津波を起こすことなど出来ぬ、と。
その言葉と共に魔王は杖の先端を爆発させた。
「!?」
直後、地震が起きた。
それは短い間であったが、隊長の足を止めるには十分であった。
そして同時に声が続いた。
地震では無い、と。
では何なのか、その答えはすぐに分かった。
(爆発?!)
雪の下で、爆発魔法が起動したのだ。
それも一発では無い。思い返しても正確な数が分からないほど。
光弾は空気中に長く留めて置くことが出来ない。
しかし水中ならば別。その劣化速度は大きく下がる。
つまり、爆発魔法であれば地雷や機雷のように、罠として扱えるのだ。
そこまで隊長が考えたところで、声は再び響いた。
「正解だ」と。
そして声は続いた。
お前は遊びや実験で命を賭けるか? と。
我はそんな馬鹿なことはしない。安全なところに身を置く。例えば、「周囲に罠を張り巡らせて」。
津波を起こした時もそうだ。雪の下に仕込んでおいた大量の爆弾を起爆させたのだ。だからあんな事が出来た。
「……」
その言葉に、隊長の足は完全に止まってしまった。
まだ埋まっているのでは? という警戒心がその足を止めてしまった。
雪の下に感知能力を向けて探る。
それはすぐに見つかった。
おぼろげであるが、丸いものが埋まっている気配を感じる。
それに糸がついていることを隊長が認識した瞬間、魔王が答えた。
我の爆発魔法は衝撃で起爆するものと、電撃魔法で起爆するもの、この二種類があると。先の地震と津波の時は前者のものを使ったと。
「……」
隊長の背中を冷たいものが流れ落ちる。
つまり、魔王の言葉が真実であるならば、自分は自ら罠の中に踏み込んだということ――
「!」
瞬間、隊長は足元で何かが膨らんだかのような気配を察知した。
先ほどまではそこには何も無かった。糸しか無かった。
根のように張った糸の先端から、爆発魔法を作り出したように感じられた。
(もしや――)
隊長は一つの答えを見出した。
雪を溶かした本当の目的はこれなのか、と。糸を張りやすくするためなのか、と。
糸は雪の中に張り巡らされている。
これでは逃げ場が無い。
「……!」
背中を伝う冷や汗がその量を増す。
同時に魔王の声が頭の中に響いた。
「正解だ」と。
その声が終わった瞬間、足元に出来たその丸いものが破裂した。
「ぐはっ!」
後ろ斜め下から生まれた衝撃波が隊長の背中を突き上げる。
浮遊感と共に体が前に押される。
足裏が地に着いた、そう感じた瞬間、再びの爆発。
さらに前へ体が流れる。
浮遊感が消えるよりも早く、さらなる爆発。先よりも間隔が短い。
隊長の瞳の中を流れる景色がその速度を増し、魔王の像が拡大する。
魔王の方に引き込まれている? そう思った瞬間、また爆発。
ならばよし、この加速を逆に利用させてもらおう、息も出来ないほどの爆発の嵐の中で隊長はそう考え、左腕に最後の力を込めた。
既に必中と言って良い間合い。
後はその輝く曲刀を振るだけ。
そう、たったそれだけだったのだが――
「っ!」
出来なかった。
声も出せなかった。
突如眼前で起きた爆発によって舞い上がった雪の壁に飲み込まれたからだ。
衝撃波によって折れた肋骨の痛みと共に、冷たさが全身を覆う。
しかしそれは直後に熱さへと変わった。
色も白から赤へ。
気付けば、全身が炎に、火柱に包まれていた。
魔王が振り上げるように炎を放ったのだ。
だが、背中を押される感覚はまだ続いている。
衝撃波によるものでは無い。感覚が違う。鋭い痛みを伴っている。そしてその痛みは炎によるものでは無い。
その力の正体が何なのか隊長には見えなかった。分からなかった。
隊長の背中には光る糸が張り付いていた。
そしてその光る糸はうずを巻いていた。巻線の形状を取っていた。
それと同じものが魔王が正面に向けた杖の先端に、光球の中にあった。
膨らみ続ける光球。
その大きさが胸を覆うほどになった瞬間、引き寄せられた隊長の体がその丸い暴力と接触した。
「ぐあああああぁっ!」
光球に削られる隊長の体。
しかし引っ張られているがゆえに離れることが出来ない。
傍目にはまるで隊長が光球を抱きかかえているように見える。
地獄のような痛みが隊長の体を、心を侵し続ける。
されど隊長はあきらめていない。
(振るんだ……曲刀を)
しかしその願いは叶わない。電撃魔法に拘束されているからだ。
そして悲しき事に、隊長の手に曲刀は既に無い。雪の壁に飲まれた時に、彼女の腕ごと手放してしまっている。
隊長はその事に気付いていない。
だが、それが希望となって隊長の心を支え続けている。
(まだだ、まだ……)
痛みと共に薄れていく隊長の意識。
思考能力の低下と共に消えていく情報。
痛みという雑音は遂には曲刀の事すら隊長の意識から消した。
だが、それでも隊長の意識はあるものにしがみついた。すがりついた。
そのあるものすらおぼろげになりつつあったが、隊長はその最後の拠り所から言葉を搾り出した。
「まだ――」
しかしその言葉が最後まで紡がれることは無かった。
爆発音と共に全て消えた。零距離で放たれた散弾と共に終わった。
「……」
魔王は前に散らばったその残骸を眺めながら、遊びの終わりを実感し、表情を戻した。
「まあ、こんなものか……」
その言葉が何を指してのものなのか、呟いた魔王自身よく分からなかった。
だが、その呟きが切っ掛けになった。
魔王はあることを思い出した。
隊長が放っていた「シャァ」という奇声に信仰心が含まれていたことを。
比較的最近制圧した地域に、その奇声を「神に捧げる戦いの声」として扱う者達がいたことを。
「ああ、お前達はあの……」
あの、と言いながら、魔王はそれ以上の記憶を引き出す事はしなかった。
どうでもよかったからだ。
だが、自分が反射的に「こんなものか」と呟いた理由は分かった。
神などという大層なものを抱えている割に、弱かったからだ。
だから最後まで遊んでやった。こいつらが掲げるその「神」とやらを侮辱するために。
その「神」とやらが見ているとして、そいつは怒っているだろうか?
「……くくっ」
突如湧き上がったそのくだらない考えに、魔王は笑みをこぼした。
そして魔王は釣り上がった口尻をそのままに、「くだらん」と吐き捨て、言葉を続けた。
「最後まで遊ばれるほどにお前達が弱かった、それだけのことだ」
魔王は何かを侮辱するようにそう呟いたが、それでも気が晴れなかった。
神という言葉が魔王の心に染みのように残っていた。
魔王はそれを消すために、気持ちに決着を付けるために最後の言葉を放った。
「……本当に神とやらがいるのであれば、我を止めてみせろ」
だが、その言葉で魔王の心に憑いた染みが消えることは無かった。
なぜかは分からなかった。
その感覚は気持ちの良いものでは無かった。
「……」
だから魔王には笑みを消すことしか出来なかった。
魔王の表情に苛立ちの色が滲み始める。
その色が鮮明になる直前、魔王の背後から呼び声が響いた。
「魔王様」
それはオレグ。魔王の心に出来た染みを消す答えを持っている者の一人であった。
一切の手加減が無い散弾。
そして、これをどうにかする力は今の隊長には残っていなかった。
ただ、運に任せて光の盾を張りながら突っ込むことしか出来なかった。
「ぐぉおおっ?!」
盾が一瞬で消し飛び、肉をえぐるかのような衝撃がその身を包む。
「ま……だだ!」
だが、隊長は倒れなかった。堪えた。
しかしその右手から曲刀は無くなっていた。
指ごと吹き飛ばされたのだ。
されど、隊長の心は揺るがなかった。
「まだ終わってない!」
叫びながら足を前に出す。
そしてその叫びには根拠があった。
その根拠は直後に空から降ってきた。
隊長はそれを三本指になった左手で受け止めた。
それは先ほど斬り飛ばされた女の右腕。
その手にはまだ力強く曲刀が握られていた。
隊長はその腕を左脇にかかえ、握り締められたその拳の上に左手の平を重ね、三本の指を巻きつかせた。
これは、腕がここに都合良く飛んで来たのはただの偶然。彼女の魂はあの時確かに、最後の力を使い果たしたはずだ。
そう分かっていた。しかし、隊長はこの偶然に神秘性を感じずにはいられなかった。
そして気付けば、隊長の頬には再び涙が流れていた。
赤く染まった顔がその温かい水に洗い流されていた。
その水は隊長の理性を強くし、己の状態を冷静に見直す切っ掛けとなった。
何もかも深刻な状態だ。
まだ走れているが、いつこの足が止まってもおかしくない。
そして、曲刀を大きく、速く振ることはもう出来なくなった。
彼女の右腕は三本指だけで支えるには重過ぎる。彼女の腕を捨てて武器だけを手に入れたいが、その指は恐ろしく硬く握り締められている。ゆえに脇に抱えるしか無いのだが、これだとかなり動きが制限される。
さらに自分の左腕も限界が近い。感覚が薄い。あと何回曲刀を振れるのかすらよく分からないほどに。
そして対する魔王は無傷。
絶望的と言って間違い無い状態差。
しかし足を前に出す隊長の心に絶望の色は、影は無い。
踏み込んで斬る、それしか頭に無い。
必中の間合いで最大の一撃を放つ、それしか考えていない。
あと数度の踏み込みでそれは成せる。
その間にもう一度攻撃されるが、それを凌げば勝機が手元にまで近づく。
隊長はそう考えていた。
魔王が次の言葉を放つ瞬間までは。
「阿呆が」
そう言って魔王は輝く杖の先端を下に、雪面に向けた。
また津波か?! と隊長は思った。
その直後、今回は違う、という言葉と共に魔王の声が流れ込んできた。
いくら我とて一発の光弾で津波を起こすことなど出来ぬ、と。
その言葉と共に魔王は杖の先端を爆発させた。
「!?」
直後、地震が起きた。
それは短い間であったが、隊長の足を止めるには十分であった。
そして同時に声が続いた。
地震では無い、と。
では何なのか、その答えはすぐに分かった。
(爆発?!)
雪の下で、爆発魔法が起動したのだ。
それも一発では無い。思い返しても正確な数が分からないほど。
光弾は空気中に長く留めて置くことが出来ない。
しかし水中ならば別。その劣化速度は大きく下がる。
つまり、爆発魔法であれば地雷や機雷のように、罠として扱えるのだ。
そこまで隊長が考えたところで、声は再び響いた。
「正解だ」と。
そして声は続いた。
お前は遊びや実験で命を賭けるか? と。
我はそんな馬鹿なことはしない。安全なところに身を置く。例えば、「周囲に罠を張り巡らせて」。
津波を起こした時もそうだ。雪の下に仕込んでおいた大量の爆弾を起爆させたのだ。だからあんな事が出来た。
「……」
その言葉に、隊長の足は完全に止まってしまった。
まだ埋まっているのでは? という警戒心がその足を止めてしまった。
雪の下に感知能力を向けて探る。
それはすぐに見つかった。
おぼろげであるが、丸いものが埋まっている気配を感じる。
それに糸がついていることを隊長が認識した瞬間、魔王が答えた。
我の爆発魔法は衝撃で起爆するものと、電撃魔法で起爆するもの、この二種類があると。先の地震と津波の時は前者のものを使ったと。
「……」
隊長の背中を冷たいものが流れ落ちる。
つまり、魔王の言葉が真実であるならば、自分は自ら罠の中に踏み込んだということ――
「!」
瞬間、隊長は足元で何かが膨らんだかのような気配を察知した。
先ほどまではそこには何も無かった。糸しか無かった。
根のように張った糸の先端から、爆発魔法を作り出したように感じられた。
(もしや――)
隊長は一つの答えを見出した。
雪を溶かした本当の目的はこれなのか、と。糸を張りやすくするためなのか、と。
糸は雪の中に張り巡らされている。
これでは逃げ場が無い。
「……!」
背中を伝う冷や汗がその量を増す。
同時に魔王の声が頭の中に響いた。
「正解だ」と。
その声が終わった瞬間、足元に出来たその丸いものが破裂した。
「ぐはっ!」
後ろ斜め下から生まれた衝撃波が隊長の背中を突き上げる。
浮遊感と共に体が前に押される。
足裏が地に着いた、そう感じた瞬間、再びの爆発。
さらに前へ体が流れる。
浮遊感が消えるよりも早く、さらなる爆発。先よりも間隔が短い。
隊長の瞳の中を流れる景色がその速度を増し、魔王の像が拡大する。
魔王の方に引き込まれている? そう思った瞬間、また爆発。
ならばよし、この加速を逆に利用させてもらおう、息も出来ないほどの爆発の嵐の中で隊長はそう考え、左腕に最後の力を込めた。
既に必中と言って良い間合い。
後はその輝く曲刀を振るだけ。
そう、たったそれだけだったのだが――
「っ!」
出来なかった。
声も出せなかった。
突如眼前で起きた爆発によって舞い上がった雪の壁に飲み込まれたからだ。
衝撃波によって折れた肋骨の痛みと共に、冷たさが全身を覆う。
しかしそれは直後に熱さへと変わった。
色も白から赤へ。
気付けば、全身が炎に、火柱に包まれていた。
魔王が振り上げるように炎を放ったのだ。
だが、背中を押される感覚はまだ続いている。
衝撃波によるものでは無い。感覚が違う。鋭い痛みを伴っている。そしてその痛みは炎によるものでは無い。
その力の正体が何なのか隊長には見えなかった。分からなかった。
隊長の背中には光る糸が張り付いていた。
そしてその光る糸はうずを巻いていた。巻線の形状を取っていた。
それと同じものが魔王が正面に向けた杖の先端に、光球の中にあった。
膨らみ続ける光球。
その大きさが胸を覆うほどになった瞬間、引き寄せられた隊長の体がその丸い暴力と接触した。
「ぐあああああぁっ!」
光球に削られる隊長の体。
しかし引っ張られているがゆえに離れることが出来ない。
傍目にはまるで隊長が光球を抱きかかえているように見える。
地獄のような痛みが隊長の体を、心を侵し続ける。
されど隊長はあきらめていない。
(振るんだ……曲刀を)
しかしその願いは叶わない。電撃魔法に拘束されているからだ。
そして悲しき事に、隊長の手に曲刀は既に無い。雪の壁に飲まれた時に、彼女の腕ごと手放してしまっている。
隊長はその事に気付いていない。
だが、それが希望となって隊長の心を支え続けている。
(まだだ、まだ……)
痛みと共に薄れていく隊長の意識。
思考能力の低下と共に消えていく情報。
痛みという雑音は遂には曲刀の事すら隊長の意識から消した。
だが、それでも隊長の意識はあるものにしがみついた。すがりついた。
そのあるものすらおぼろげになりつつあったが、隊長はその最後の拠り所から言葉を搾り出した。
「まだ――」
しかしその言葉が最後まで紡がれることは無かった。
爆発音と共に全て消えた。零距離で放たれた散弾と共に終わった。
「……」
魔王は前に散らばったその残骸を眺めながら、遊びの終わりを実感し、表情を戻した。
「まあ、こんなものか……」
その言葉が何を指してのものなのか、呟いた魔王自身よく分からなかった。
だが、その呟きが切っ掛けになった。
魔王はあることを思い出した。
隊長が放っていた「シャァ」という奇声に信仰心が含まれていたことを。
比較的最近制圧した地域に、その奇声を「神に捧げる戦いの声」として扱う者達がいたことを。
「ああ、お前達はあの……」
あの、と言いながら、魔王はそれ以上の記憶を引き出す事はしなかった。
どうでもよかったからだ。
だが、自分が反射的に「こんなものか」と呟いた理由は分かった。
神などという大層なものを抱えている割に、弱かったからだ。
だから最後まで遊んでやった。こいつらが掲げるその「神」とやらを侮辱するために。
その「神」とやらが見ているとして、そいつは怒っているだろうか?
「……くくっ」
突如湧き上がったそのくだらない考えに、魔王は笑みをこぼした。
そして魔王は釣り上がった口尻をそのままに、「くだらん」と吐き捨て、言葉を続けた。
「最後まで遊ばれるほどにお前達が弱かった、それだけのことだ」
魔王は何かを侮辱するようにそう呟いたが、それでも気が晴れなかった。
神という言葉が魔王の心に染みのように残っていた。
魔王はそれを消すために、気持ちに決着を付けるために最後の言葉を放った。
「……本当に神とやらがいるのであれば、我を止めてみせろ」
だが、その言葉で魔王の心に憑いた染みが消えることは無かった。
なぜかは分からなかった。
その感覚は気持ちの良いものでは無かった。
「……」
だから魔王には笑みを消すことしか出来なかった。
魔王の表情に苛立ちの色が滲み始める。
その色が鮮明になる直前、魔王の背後から呼び声が響いた。
「魔王様」
それはオレグ。魔王の心に出来た染みを消す答えを持っている者の一人であった。
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