Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十二話 魔王(26)

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   ◆◆◆

 一方――

「……」

 シャロンは静かに身を休めていた。
 しかしその服装は以前よりも汚れ、酷くなっていた。
 なぜなら、森にいるからだ。
 あの戦いの後、シャロンはずっと森の中に身を潜めていた。
 傷自体はほぼ完治している。
 なのに森を出ない理由は、時間を稼いだほうがいいと考えているからだ。
 その間、シャロンはついでにサイラスの情報を集めていた。
 正確にはサイラスの周辺の、だ。
 そのためにシャロンはサイラスの近くにいる。あの戦いからシャロンはあまり大きく動いていない。

(……やはり、)

 そして、ある虫からの報告を聞いたシャロンは、「今日もか」と思った。
「連中」に動く気配が、次の手をサイラスに仕掛ける気配が無いのだ。
 情報収集だけを担当する非戦闘員はずっとサイラスの周りをうろついている。
 しかし情報の流れが一方通行なのだ。非戦闘員が集めた情報が「上」に送られるだけ。逆に、「上」からの指示が下りてくることが無い。

(私がいないから、サイラス達に、リーザに仕掛けるのをためらってる?)

 こんな単純な答えだけで納得出来る人間では無いシャロンは思考を重ねた。

(……リーザがついているサイラスの方は一旦置いておくことにして、強力な戦力が付いていない可能性の高いアランの方に注力している?)

 この予想はシャロンの心を少しだけ軽くし、思考に弾みがついた。

(強力な共感者が現れると、その周辺の戦力が加速的に増し始める。ゆえに、連中が様子見を続けるとは考えにくい。早めに手を打ちたいはず)

 そこまで考えたところで、シャロンはある事を思い出した。

(そういえば、重要な戦力であるラルフがずっといないわね……。なんで彼はあんな大事な存在を手元から離しているのかしら)

 教会を早期に潰すためだろうか、と一瞬思ったが、それは不自然に思えた。

(私のような強力な刺客が他にもいるかもしれない、と考えるのが普通。それでも、そうしなければならない理由がある……?)

 その「理由」をシャロンは教会との戦力比較を基に探してみたが、思いつかなかった。
 だからシャロンは別の視点から思考を巡らせた。

(まさか、感情的な理由?)

 そしてそれは正解であった。
 普通なら正解とは思えない答えだ。
 しかしシャロンはあり得る、と考えた。

(今の彼の「状態」を考えれば、不自然とは言い切れない……)

 そしてその答えはシャロンにとって悲しいものであった。
 シャロンは知っている。サイラスの身に何が起きたのかを。何をされたのかを。

(いつか、リーザまで手元から離そうとするかもしれないわね。……これは悪い方に考えすぎかしら?)

 そんなことを考えながら、シャロンは「ふふ」と笑った。
 自分も「感情」にとらわれているからだ。サイラスを非難出来る立場では無いな、と思ったのだ。
 シャロンはサイラスに最後まで生き残ってほしいと考えている。
 その根源たる理由はただの感情だ。
 そしてシャロンはその事実から一旦目を反らし、アランの方へと意識を向けた。

(連中がアランを狙っているとすれば、ここにいても大した意味は無さそうね。……私もアランを追うべきかしら?)

 もしこのまま何もしなければどうなるか、その未来を予想することは容易かった。

(放って置けば間違い無く、アランとその仲間達はサイラス達と同じように、急速に強くなるでしょうね……)

 それはシャロンにとって都合の良いものでは無かった。
 シャロンはある望み、目的のために行動している。
 そしてその目的を達成するためには、この国が「獲物」のままである必要がある。ゆえに戦力が高くなりすぎるのはあまり好ましく無い。そうなると、魔王がこの国から手を引いてしまう可能性が発生する。それでは困るのだ。
 しかし弱すぎても困る。だからサイラスに色々教えたのだ。
 時間稼ぎをしている理由は、サイラス達が強くなるのを待つためであった。
 しかしこの時間稼ぎによってアラン達が強くなりすぎる可能性もはらんでいる。
 だがアラン達は魂の使い方を知らないだろう。サイラス達ほどの成長速度では無いはず。

「……」

 だからといってこの場に留まり続けてもいいわけでは無い、その考えがシャロンの表情を硬くした。
 この後どうすべきかは既に決まっていた。とにかくアランを追うべきだろうと、シャロンは考えていた。
 だからシャロンは立ち上がろうとしたのだが、

「……っ!」

 突如走った鋭い頭痛に、シャロンは表情を歪めた。
 脳に負荷をかけすぎたのだ。
 ここ連日、大量の虫を放ち続けたせいだろう。
 そのせいで脳が疲れている。魂を生み出す工場が疲弊している。
 移動する前に栄養補給が必要だろう。「狩り」をすべきだ、シャロンはそう思った。

「……」

 にもかかわらず、シャロンは目を閉じ、まるで眠ろうとするかのように意識を沈めた。

 シャロンが始めた「狩り」、それは我々の知るものでは無かった。
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