332 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十三話 試練の時、来たる(23)
しおりを挟む
◆◆◆
そしてそのアランはまだ教会でルイスの帰りを待っていた。
結構な時間が経っている。が、アランの心は全く揺るいでいなかった。
揺るぐどころか、その気持ちはますます強くなっていた。
ルイスの存在が近くに迫っていることを、帰ってきていることを感じ取っているからだ。
そしてしばらくして、待ち望んでいたその声が広間に響いた。
「お待たせしました、アラン様」
まだ待っていたのですか、という言葉は出ない。アランがまだ待っていることをルイスも感じ取っていたからだ。
そしてアランの意思の強さも理解している。
ゆえに、時間に対しての言葉は無く、最初から本題に入った。
「それで、話とは?」
これについてルイスはアランの心を読もうとはしなかった。
アランの中に悩み、迷いがあるのを感じ取ったからだ。
このような思考は読みにくく、疲れる。
だからルイスはアランの思考がまとまるのを待った。
そしてその時はすぐに訪れた。
「ルイス様は、今の魔法使いと無能力者の関係についてどう思われますか?」
その言葉にルイスは、
「……!」
僅かであるが動揺した。
なぜなら、二度目だったからだ。
過去にまったく同じ言葉を、ある者からぶつけられたことがあったからだ。
そしてルイスは感じ取った。思わず読み取ってしまった。
アランの脳裏に残酷な感覚が、収容所で感じ取ったものが横たわっているのを。
(凄まじいものを経験してきたのですね、アラン様)
さらにルイスは察知した。
アランが描いている理想像を。
それは言葉にすれば、平穏な共存、協力であった。
「あの人」が思い描いていたものとは少し違うが、方向性は同じであった。
だからルイスは思った。
(アラン様、あなたはやはり『母親似』なのですね)と。
ルイスの望みは違う。
されど話し合う価値はある。あの時のように。
そしてアラン相手であれば口を使う必要は無い。もっと便利なものがある。
そう思ったルイスは、アランにも分かるように自分を変えた。
「……!」
直後、今度はアランのほうが少し動揺した。
ルイスの思考が突然読めるようになったからだ。
いや、思考が蘇ったと言うべきか。そう感じた。
しかしそれよりもアランを動揺させたものは――
(これはまるで……灰?)
ルイスの心が、まるで燃え尽きた何かの残りかすであるかのように感じられたからだ。
そしてその感想にルイスは特に何かの感情を抱くようなことは無かった。
ただ一つ、あることを思い出しただけであった。
(そういえば、私と初めて共感した時のシャロンも同じ印象を抱いていたな)と。
同時に、ルイスは自虐的な薄い笑みを浮かべた。
確かにその通りかもしれない、そう思ったからだ。
そしてアランには私自身がそう思う理由を知ってもらおう、これは知ってもらうべきだ、そう思った。
ゆえにルイスは、あの時のアランがアンナにしたように歩み寄り、手を繋いだ。
「!」
瞬間、アランの顔に驚きの表情が浮かんだ。
同時に少し混乱した。
頭の中に映像が流れ始めたからだ。
それが何なのか、アランはすぐに理解した。
(ルイス殿の記憶……?)
それはルイスの記憶であった。脳の記憶を格納している部分が輝き、そして共感をもって自分に伝えられていることをアランは感じ取った。
そして流れ込むそれらは全て、
(戦いの記憶……?)
であった。
脳裏に流れる映像の中で、時にルイスは一人の戦士として戦い、時に指導者として戦っていた。
が、そのほとんどが、
(負けている……)
ルイスにとって悲しい結末を迎えていた。
そしてアランは察した。
ルイスが望む未来は何なのかを。
それは、
(この人は、魔法使いと無能力者の関係を、)
「逆転」させる。それがルイスの願いであった。
そう願うようになった理由、それは至極ありふれたものである。「強弱」の関係を「残酷」な形で示されただけだ。
しかしその思いはかつての熱さを、熱を失ってしまっている。
昔は積極的に活動していた。心は沸騰するように熱かった。
しかしその熱は高すぎたのかもしれない。
ある日、底が見えたのを感じた。
それはまるで、焦げ付いた鍋の底のようであった。
沸騰させるものが無くなったルイスの心はその熱を急速に失った。
だが、ルイスはまだあきらめていない。
底に焦げ付いたその何かは、まだ淡く、薄赤く光っている。
だからルイスは無能力者の体を使っているのだ。
強い魔法使いの体を手に入れて権力者でも目指せば、少し違う形でも望みを叶えられるかもしれない、そんな考えを抱いたことは数え切れないほどある。
しかし出来なかった。ただ意地を張っているだけ、そう分かっていてもだ。
されどルイスはその厄介な意地を愛している。
自分の願いは同じ無能で成さなければ意味が無い、そう信じている。
ゆえにルイスは強力な「武器」を求めている。
「武器」は魔法使いにでも使える。しかし最大値に対して平均値が高くなれば、それは戦力の差が縮められるということであり、差が少なければ後は戦術で補うことが出来る。今の戦力差は戦術だけで補うには大きすぎる。
それら武器に関する記憶も戦いの記憶とともに多少流れ込んできたが、アランは別の事に意識を捕らわれた。
アランはその灰のような心を見つめてようやく気付いた。
(なぜ、この人は……)
こんな古い記憶を持っているのかということを。
流れる記憶の中に、明らかに古い時代のものが混ざっている。
共感を使って先祖から記憶を受け継いできたのだろうか、アランはそう思った。
常識的な考えである。しかし不正解である。
その間違いをルイスは、
「……」
指摘し、教えようとはしなかった。
今はそれよりも話し合うべき事があるからだ。
そしてそのアランはまだ教会でルイスの帰りを待っていた。
結構な時間が経っている。が、アランの心は全く揺るいでいなかった。
揺るぐどころか、その気持ちはますます強くなっていた。
ルイスの存在が近くに迫っていることを、帰ってきていることを感じ取っているからだ。
そしてしばらくして、待ち望んでいたその声が広間に響いた。
「お待たせしました、アラン様」
まだ待っていたのですか、という言葉は出ない。アランがまだ待っていることをルイスも感じ取っていたからだ。
そしてアランの意思の強さも理解している。
ゆえに、時間に対しての言葉は無く、最初から本題に入った。
「それで、話とは?」
これについてルイスはアランの心を読もうとはしなかった。
アランの中に悩み、迷いがあるのを感じ取ったからだ。
このような思考は読みにくく、疲れる。
だからルイスはアランの思考がまとまるのを待った。
そしてその時はすぐに訪れた。
「ルイス様は、今の魔法使いと無能力者の関係についてどう思われますか?」
その言葉にルイスは、
「……!」
僅かであるが動揺した。
なぜなら、二度目だったからだ。
過去にまったく同じ言葉を、ある者からぶつけられたことがあったからだ。
そしてルイスは感じ取った。思わず読み取ってしまった。
アランの脳裏に残酷な感覚が、収容所で感じ取ったものが横たわっているのを。
(凄まじいものを経験してきたのですね、アラン様)
さらにルイスは察知した。
アランが描いている理想像を。
それは言葉にすれば、平穏な共存、協力であった。
「あの人」が思い描いていたものとは少し違うが、方向性は同じであった。
だからルイスは思った。
(アラン様、あなたはやはり『母親似』なのですね)と。
ルイスの望みは違う。
されど話し合う価値はある。あの時のように。
そしてアラン相手であれば口を使う必要は無い。もっと便利なものがある。
そう思ったルイスは、アランにも分かるように自分を変えた。
「……!」
直後、今度はアランのほうが少し動揺した。
ルイスの思考が突然読めるようになったからだ。
いや、思考が蘇ったと言うべきか。そう感じた。
しかしそれよりもアランを動揺させたものは――
(これはまるで……灰?)
ルイスの心が、まるで燃え尽きた何かの残りかすであるかのように感じられたからだ。
そしてその感想にルイスは特に何かの感情を抱くようなことは無かった。
ただ一つ、あることを思い出しただけであった。
(そういえば、私と初めて共感した時のシャロンも同じ印象を抱いていたな)と。
同時に、ルイスは自虐的な薄い笑みを浮かべた。
確かにその通りかもしれない、そう思ったからだ。
そしてアランには私自身がそう思う理由を知ってもらおう、これは知ってもらうべきだ、そう思った。
ゆえにルイスは、あの時のアランがアンナにしたように歩み寄り、手を繋いだ。
「!」
瞬間、アランの顔に驚きの表情が浮かんだ。
同時に少し混乱した。
頭の中に映像が流れ始めたからだ。
それが何なのか、アランはすぐに理解した。
(ルイス殿の記憶……?)
それはルイスの記憶であった。脳の記憶を格納している部分が輝き、そして共感をもって自分に伝えられていることをアランは感じ取った。
そして流れ込むそれらは全て、
(戦いの記憶……?)
であった。
脳裏に流れる映像の中で、時にルイスは一人の戦士として戦い、時に指導者として戦っていた。
が、そのほとんどが、
(負けている……)
ルイスにとって悲しい結末を迎えていた。
そしてアランは察した。
ルイスが望む未来は何なのかを。
それは、
(この人は、魔法使いと無能力者の関係を、)
「逆転」させる。それがルイスの願いであった。
そう願うようになった理由、それは至極ありふれたものである。「強弱」の関係を「残酷」な形で示されただけだ。
しかしその思いはかつての熱さを、熱を失ってしまっている。
昔は積極的に活動していた。心は沸騰するように熱かった。
しかしその熱は高すぎたのかもしれない。
ある日、底が見えたのを感じた。
それはまるで、焦げ付いた鍋の底のようであった。
沸騰させるものが無くなったルイスの心はその熱を急速に失った。
だが、ルイスはまだあきらめていない。
底に焦げ付いたその何かは、まだ淡く、薄赤く光っている。
だからルイスは無能力者の体を使っているのだ。
強い魔法使いの体を手に入れて権力者でも目指せば、少し違う形でも望みを叶えられるかもしれない、そんな考えを抱いたことは数え切れないほどある。
しかし出来なかった。ただ意地を張っているだけ、そう分かっていてもだ。
されどルイスはその厄介な意地を愛している。
自分の願いは同じ無能で成さなければ意味が無い、そう信じている。
ゆえにルイスは強力な「武器」を求めている。
「武器」は魔法使いにでも使える。しかし最大値に対して平均値が高くなれば、それは戦力の差が縮められるということであり、差が少なければ後は戦術で補うことが出来る。今の戦力差は戦術だけで補うには大きすぎる。
それら武器に関する記憶も戦いの記憶とともに多少流れ込んできたが、アランは別の事に意識を捕らわれた。
アランはその灰のような心を見つめてようやく気付いた。
(なぜ、この人は……)
こんな古い記憶を持っているのかということを。
流れる記憶の中に、明らかに古い時代のものが混ざっている。
共感を使って先祖から記憶を受け継いできたのだろうか、アランはそう思った。
常識的な考えである。しかし不正解である。
その間違いをルイスは、
「……」
指摘し、教えようとはしなかった。
今はそれよりも話し合うべき事があるからだ。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる