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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十四話 再戦(6)
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その声が場に響いたと同時に女は地を蹴った。
女は瞬く間にバージルの右手側に。
バージルは反応出来ていない。前を向いたままだ。
後はその無防備な横顔に向かって拳を突き出すだけで終わる。
そのはずだった。
「!」
直後、女は視界を埋め尽くした閃光と、左拳に走った衝撃に目を細めた。
地を蹴り、距離を取り直す。
眼前に突如現れたのは、拳を弾き返したのはやはり光の壁。
しかしなぜ? バージルは全く反応出来ていなかったはずだ。
その答えを女はこの時点で見抜いていた。
それを確かめるためにもう一度地を蹴る。
今度はバージルの左側に。
(やはり反応出来ていないな)
確認しながら右拳を繰り出す。
しかし結果は変わらず。
右腕から伝わる鈍い痛みを感じながら、虫からの報告を聞きながら、女はその答えを心の中で言葉にした。
(……予想通り、カイルに体を操作させていたか)
虫を使ってバージルを操縦しているのだ。
そして女はある事を確認するために再び距離を取った。
虫からの報告を待ちながら、二人を眺める。
カイルの姿は見えない。完全にバージルの後ろに隠れている。
その様に、
「ふふっ」
女は再び笑みを浮かべた。
(……まさに、『盾』の名の通りだな)
と、思ったからだ。
同時に滑稽だとも思った。
二人が「自分達の力で」窮地を凌げたと思っているからだ。
しかしそのおかげで『違和感の正体』が明らかになった。
危うく騙されるところだった。
まず最初におかしいと思ったのはカイルの動きが悪いこと。
どうやら、カイルは前回の戦いで負った傷が完治していないようだ。
左腕には添え木がついたままだ。
どうりで攻撃が緩いわけだ。
移動が遅かったのは負傷のせいもあったのだろう。
しかし何より決定的なのはカイルがバージルを上手く操縦出来ているという事実。
つまり、
(この二人は――)
女がそれを心の中で言葉にしようとした瞬間、場に声が響いた。
「知り合いか? 手を貸そう」
声の出所は上。
「「!」」
驚いたバージルとカイルが見上げると、屋根の上に影が立っているのが目に入った。
その数、およそ二十。
声の主らしき男が女の傍に降り立ち、他の者がそれに続く。
いや、男とは断言し難い。
全員顔を布で覆っている。目元しか見えない。
体格から察するに男、というだけだ。
「「……っ!」」
そして突如感じた威圧感に、バージルとカイルは同時に後ずさった。
威圧感の正体は共感。
男達が女と意識を共有した、その事実から生ずる不利が威圧感となって二人の足を退かせたのだ。
(……ふん)
しかし女はその感覚につまらなそうな顔を見せた。
男達が女を、シャロンを信用していないことが伝わってきたからだ。
しかしシャロンの戦闘力が一流のものであることはよく理解している。
ゆえに男達の心に油断は無く、手を貸すという言葉も嘘では無かった。
なぜなら、目の前にいる相手はかつてシャロンと戦って生き残った者なのだから。
そして男達はバージルとカイルを取り囲むように左右に大きく広がり始めた。
「「……っ」」
逃げ場を塞がれまいと、下がり続ける二人の足。
この状況で、心を読まれているであろう相手を前に、弱気な感情を抱いてはならない。
しかしバージルはそれを心の中で言葉にしてしまった。
(女一人でも厳しいというのに、さらに敵が増えただと!?)
それが合図となったかのように、
「いたぞ、撃て!」
声が場に響いた。
しかしそれは男達のものでは無く、街を守る兵士の声であった。
声がした方にバージルが視線を向けるよりも早く、場に光弾が降り注ぐ。
地面に、そして家屋に次々と着弾。
崩れ落ちる家屋が煙幕を生み、視界を塞ぐ。
「「くっ!」」
土煙の中で、バージルとカイルは懸命に身を守った。
四方八方から飛んでくる光弾を防御魔法で受け止める。
兵士達が撃ったものでは無い。男達の攻撃だ。
周囲を飛び回りながら射撃している。
反撃しなければジリ貧だ。
「……っ!」
しかしバージルの眼は違うものに釘付けになっていた。
それは目の前にいる女。
女はこちらをじっと見ている。
男達と違って、ほとんど動いていない。
最小限の動作で光弾の雨を避けながら、こっちを見つめている。
なぜ?
(どうして攻撃してこない?!)
あまりにも不気味。
しかし感知が弱く、相手の心が読めぬバージルにはそう叫ぶことしか出来なかった。
だが答えは返って来ない。
なぜなら、女は二人を見つめてはいるが、二人のこと自体は眼中に無いからだ。
女はある事を確認していた。
そしてそれを終えた女はただ一言、
(ふむ、やはり『お前』の計算は完璧だ)
という心の声を漏らした。
視線は二人に向けたまま、意識の線を、虫を周囲に巡らす。
いつ仕掛けられても対応出来るように、探しながら警戒する。
そして、女は勝負に出た。
女は瞬く間にバージルの右手側に。
バージルは反応出来ていない。前を向いたままだ。
後はその無防備な横顔に向かって拳を突き出すだけで終わる。
そのはずだった。
「!」
直後、女は視界を埋め尽くした閃光と、左拳に走った衝撃に目を細めた。
地を蹴り、距離を取り直す。
眼前に突如現れたのは、拳を弾き返したのはやはり光の壁。
しかしなぜ? バージルは全く反応出来ていなかったはずだ。
その答えを女はこの時点で見抜いていた。
それを確かめるためにもう一度地を蹴る。
今度はバージルの左側に。
(やはり反応出来ていないな)
確認しながら右拳を繰り出す。
しかし結果は変わらず。
右腕から伝わる鈍い痛みを感じながら、虫からの報告を聞きながら、女はその答えを心の中で言葉にした。
(……予想通り、カイルに体を操作させていたか)
虫を使ってバージルを操縦しているのだ。
そして女はある事を確認するために再び距離を取った。
虫からの報告を待ちながら、二人を眺める。
カイルの姿は見えない。完全にバージルの後ろに隠れている。
その様に、
「ふふっ」
女は再び笑みを浮かべた。
(……まさに、『盾』の名の通りだな)
と、思ったからだ。
同時に滑稽だとも思った。
二人が「自分達の力で」窮地を凌げたと思っているからだ。
しかしそのおかげで『違和感の正体』が明らかになった。
危うく騙されるところだった。
まず最初におかしいと思ったのはカイルの動きが悪いこと。
どうやら、カイルは前回の戦いで負った傷が完治していないようだ。
左腕には添え木がついたままだ。
どうりで攻撃が緩いわけだ。
移動が遅かったのは負傷のせいもあったのだろう。
しかし何より決定的なのはカイルがバージルを上手く操縦出来ているという事実。
つまり、
(この二人は――)
女がそれを心の中で言葉にしようとした瞬間、場に声が響いた。
「知り合いか? 手を貸そう」
声の出所は上。
「「!」」
驚いたバージルとカイルが見上げると、屋根の上に影が立っているのが目に入った。
その数、およそ二十。
声の主らしき男が女の傍に降り立ち、他の者がそれに続く。
いや、男とは断言し難い。
全員顔を布で覆っている。目元しか見えない。
体格から察するに男、というだけだ。
「「……っ!」」
そして突如感じた威圧感に、バージルとカイルは同時に後ずさった。
威圧感の正体は共感。
男達が女と意識を共有した、その事実から生ずる不利が威圧感となって二人の足を退かせたのだ。
(……ふん)
しかし女はその感覚につまらなそうな顔を見せた。
男達が女を、シャロンを信用していないことが伝わってきたからだ。
しかしシャロンの戦闘力が一流のものであることはよく理解している。
ゆえに男達の心に油断は無く、手を貸すという言葉も嘘では無かった。
なぜなら、目の前にいる相手はかつてシャロンと戦って生き残った者なのだから。
そして男達はバージルとカイルを取り囲むように左右に大きく広がり始めた。
「「……っ」」
逃げ場を塞がれまいと、下がり続ける二人の足。
この状況で、心を読まれているであろう相手を前に、弱気な感情を抱いてはならない。
しかしバージルはそれを心の中で言葉にしてしまった。
(女一人でも厳しいというのに、さらに敵が増えただと!?)
それが合図となったかのように、
「いたぞ、撃て!」
声が場に響いた。
しかしそれは男達のものでは無く、街を守る兵士の声であった。
声がした方にバージルが視線を向けるよりも早く、場に光弾が降り注ぐ。
地面に、そして家屋に次々と着弾。
崩れ落ちる家屋が煙幕を生み、視界を塞ぐ。
「「くっ!」」
土煙の中で、バージルとカイルは懸命に身を守った。
四方八方から飛んでくる光弾を防御魔法で受け止める。
兵士達が撃ったものでは無い。男達の攻撃だ。
周囲を飛び回りながら射撃している。
反撃しなければジリ貧だ。
「……っ!」
しかしバージルの眼は違うものに釘付けになっていた。
それは目の前にいる女。
女はこちらをじっと見ている。
男達と違って、ほとんど動いていない。
最小限の動作で光弾の雨を避けながら、こっちを見つめている。
なぜ?
(どうして攻撃してこない?!)
あまりにも不気味。
しかし感知が弱く、相手の心が読めぬバージルにはそう叫ぶことしか出来なかった。
だが答えは返って来ない。
なぜなら、女は二人を見つめてはいるが、二人のこと自体は眼中に無いからだ。
女はある事を確認していた。
そしてそれを終えた女はただ一言、
(ふむ、やはり『お前』の計算は完璧だ)
という心の声を漏らした。
視線は二人に向けたまま、意識の線を、虫を周囲に巡らす。
いつ仕掛けられても対応出来るように、探しながら警戒する。
そして、女は勝負に出た。
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