387 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(27)
しおりを挟む
◆◆◆
「これはまるで先祖返り――」
そこまで呟いたところで、いや、明らかに違うところがある、と、ルイスは自身の考えを改めた。
今のアランは魂の奴隷では無い。これはむしろ魂と上手く付き合っている、都合の良い関係を築いているという感じだ。
過去の良いところだけを取り出し、現代の環境に合わせて調整した、そう表現するとしっくりくる。
「いや、」
直後、これも違うか、と、ルイスは再び自身の考えを改めようとした。
そしてルイスは思い出した。
アランを守っていたナチャの分身が、彼のことをどう思ったのかを。
「……蜜をなみなみと湛えた大きな花のようだ、か。意味がやっと分かったよ。確かに、俺達に分かるように例えるなら、そうなるだろうな」
ルイスは「だが――」と、言葉を繋げた。
「そんな気取った言い回しよりも、もっと適切で、面白い例えがある」、と。
ルイスはそれを呟いた。
俺に言わせれば、あれは『大衆食堂』だ、と。『とても優秀な』料理人がいる食堂だ、と。
そしてその食堂はタダ飯食らいを絶対に許さない、と。
◆◆◆
そして攻守は一転した。
アランが攻め、女が受け、時に避ける。
今のアランは両手持ちにこだわっていない。ゆえに、左腕による打撃という有利は消えていた。
左腕を振るっても全て止められる。
そして放たれる反撃の突きが、女の体に赤い線を描く。
なぜここまで状況は一変したのか。
それは女が、アランの動きを、
(読めない……っ!)
からだ。
アランの身に起こっていること、それは完全に女の常識を超えていた。
なんと、変化はいまだに続いている。
魂から発せられる波が、刻々と変化し続けている。
これはまるで、
「!」
瞬間、女は気付いた。
(これは、これではまるで……!)
混沌のようでは無いか! と。
私の混沌は人格や思考を切り替えるものだが、これはそれを魂そのもので実現したもののように見える。
まるで同時に多数の人間の魂を相手にしているかのような感覚。
そしてそれら魂の全てが別人に変化し続けている。
ならば、思いつく答えは一つしか無かった。
(もしや……!)
真似をしたのは雲水の方では無く、私の方だったのか、と。
しかしその答えには霞がかかっている。
どうしたらそんなことが出来るのか、分からないからだ。
当然だ。女は、シャロンは知らない。
魂に特定の「規格」、「型」を持たない人間がいることを。
人間が魂の奴隷であった時代ではそれは珍しいものでは無かったことを。魂がそのような人間を自己改造のために利用していたことを。
人類はその関係を絶つために、魂に独自の「規格」を作り、身体制御の主権を脳に、理性と本能に渡したことを。
つまり、アランは元々備わっていた機能の一つを上手く利用しただけなのだ。
そして言い換えれば、女には真似できないということだ。
「くっ!」
そして直後、女の体に赤い線が一本追加された。
際どい回避。
しかし女の心に焦りは薄い。
その理由の一つとして、機動力の差は依然歴然だからだ。
アランの右足は折れている。片足で器用に踏み込んでは来るが、女からすれば速いとは言えない。間合いを支配しているのは依然として女の方だ。
だから、思考を読めずとも致命傷を避けるのは容易い。いざという時に大きく跳び下がればいいだけなのだ。
女はその絶対的差を利用してアランを解析していた。
そしてやはり、女は並の戦士では無かった。
その解析は驚くほどに順調であり、この僅かな時間でいくつかの事実を掴んでいた。
まず第一に、魂同士で思考をやり取りする、情報をやり取りする際には、事前に合図となる信号を送っていること。
これは以前から使われている手法である。サイラス達も無意識で行っていた。信号はそれぞれ独自規格のものだが、翻訳出来なくても問題無いものだ。誰からのものか、それだけが分かればいいものだ。こうすることで混線をある程度避けることが出来る。
だが問題は次だ。
通常は魂同士での会話に使われる言語は独自規格では無い。当然共通化されている。そうでなければ情報のやり取りが出来ない。サイラス達の魂がそれぞれ独自規格であるのに、共感出来ていた、情報共有出来ていた理由はこれである。
しかしアランは違う。会話のたびに言語が変わっている。
(だが!)
女はアランの混沌がいまだ未熟であることを見抜いていた。
会話が非常に短いのだ。
非常に原始的な言語のように、複数の単語のみで文章が構成されている。
(つまり、これは、)
言語を周期的に、または特定の条件で切り替えている、もしくは、
(暗号化している?)
女が最後に導き出したその推察は、見事に正解であった。
そしてこれが「時間稼ぎ」をしなければならなかった理由。
女の混沌を真似るための準備をするためだ。
そして女が見抜いた通り、準備は完璧には遠い。時間が少なすぎた。
しかし、ただ真似るだけでは無い。
アラン特有の長所を活かした改良が加えられている。
女はその改良点にまで探りを入れようとしていた。
のだが、
「!」
瞬間、女は警戒と共に距離を取り直した。
アランから声が聞こえたからだ。
その声は再び響いた。
“まだ、足りない”と。
そして声は続いた。
“足りぬ、足りぬ、足りぬ”と。
女には意味が分からなかったが、同じ単語が繰り返されていることは分かった。
声は続く。徐々にその声量を増しながら。
そしてついには、声は叫びになった。
“この女に勝つにはまだ足りぬ!”と。
「これはまるで先祖返り――」
そこまで呟いたところで、いや、明らかに違うところがある、と、ルイスは自身の考えを改めた。
今のアランは魂の奴隷では無い。これはむしろ魂と上手く付き合っている、都合の良い関係を築いているという感じだ。
過去の良いところだけを取り出し、現代の環境に合わせて調整した、そう表現するとしっくりくる。
「いや、」
直後、これも違うか、と、ルイスは再び自身の考えを改めようとした。
そしてルイスは思い出した。
アランを守っていたナチャの分身が、彼のことをどう思ったのかを。
「……蜜をなみなみと湛えた大きな花のようだ、か。意味がやっと分かったよ。確かに、俺達に分かるように例えるなら、そうなるだろうな」
ルイスは「だが――」と、言葉を繋げた。
「そんな気取った言い回しよりも、もっと適切で、面白い例えがある」、と。
ルイスはそれを呟いた。
俺に言わせれば、あれは『大衆食堂』だ、と。『とても優秀な』料理人がいる食堂だ、と。
そしてその食堂はタダ飯食らいを絶対に許さない、と。
◆◆◆
そして攻守は一転した。
アランが攻め、女が受け、時に避ける。
今のアランは両手持ちにこだわっていない。ゆえに、左腕による打撃という有利は消えていた。
左腕を振るっても全て止められる。
そして放たれる反撃の突きが、女の体に赤い線を描く。
なぜここまで状況は一変したのか。
それは女が、アランの動きを、
(読めない……っ!)
からだ。
アランの身に起こっていること、それは完全に女の常識を超えていた。
なんと、変化はいまだに続いている。
魂から発せられる波が、刻々と変化し続けている。
これはまるで、
「!」
瞬間、女は気付いた。
(これは、これではまるで……!)
混沌のようでは無いか! と。
私の混沌は人格や思考を切り替えるものだが、これはそれを魂そのもので実現したもののように見える。
まるで同時に多数の人間の魂を相手にしているかのような感覚。
そしてそれら魂の全てが別人に変化し続けている。
ならば、思いつく答えは一つしか無かった。
(もしや……!)
真似をしたのは雲水の方では無く、私の方だったのか、と。
しかしその答えには霞がかかっている。
どうしたらそんなことが出来るのか、分からないからだ。
当然だ。女は、シャロンは知らない。
魂に特定の「規格」、「型」を持たない人間がいることを。
人間が魂の奴隷であった時代ではそれは珍しいものでは無かったことを。魂がそのような人間を自己改造のために利用していたことを。
人類はその関係を絶つために、魂に独自の「規格」を作り、身体制御の主権を脳に、理性と本能に渡したことを。
つまり、アランは元々備わっていた機能の一つを上手く利用しただけなのだ。
そして言い換えれば、女には真似できないということだ。
「くっ!」
そして直後、女の体に赤い線が一本追加された。
際どい回避。
しかし女の心に焦りは薄い。
その理由の一つとして、機動力の差は依然歴然だからだ。
アランの右足は折れている。片足で器用に踏み込んでは来るが、女からすれば速いとは言えない。間合いを支配しているのは依然として女の方だ。
だから、思考を読めずとも致命傷を避けるのは容易い。いざという時に大きく跳び下がればいいだけなのだ。
女はその絶対的差を利用してアランを解析していた。
そしてやはり、女は並の戦士では無かった。
その解析は驚くほどに順調であり、この僅かな時間でいくつかの事実を掴んでいた。
まず第一に、魂同士で思考をやり取りする、情報をやり取りする際には、事前に合図となる信号を送っていること。
これは以前から使われている手法である。サイラス達も無意識で行っていた。信号はそれぞれ独自規格のものだが、翻訳出来なくても問題無いものだ。誰からのものか、それだけが分かればいいものだ。こうすることで混線をある程度避けることが出来る。
だが問題は次だ。
通常は魂同士での会話に使われる言語は独自規格では無い。当然共通化されている。そうでなければ情報のやり取りが出来ない。サイラス達の魂がそれぞれ独自規格であるのに、共感出来ていた、情報共有出来ていた理由はこれである。
しかしアランは違う。会話のたびに言語が変わっている。
(だが!)
女はアランの混沌がいまだ未熟であることを見抜いていた。
会話が非常に短いのだ。
非常に原始的な言語のように、複数の単語のみで文章が構成されている。
(つまり、これは、)
言語を周期的に、または特定の条件で切り替えている、もしくは、
(暗号化している?)
女が最後に導き出したその推察は、見事に正解であった。
そしてこれが「時間稼ぎ」をしなければならなかった理由。
女の混沌を真似るための準備をするためだ。
そして女が見抜いた通り、準備は完璧には遠い。時間が少なすぎた。
しかし、ただ真似るだけでは無い。
アラン特有の長所を活かした改良が加えられている。
女はその改良点にまで探りを入れようとしていた。
のだが、
「!」
瞬間、女は警戒と共に距離を取り直した。
アランから声が聞こえたからだ。
その声は再び響いた。
“まだ、足りない”と。
そして声は続いた。
“足りぬ、足りぬ、足りぬ”と。
女には意味が分からなかったが、同じ単語が繰り返されていることは分かった。
声は続く。徐々にその声量を増しながら。
そしてついには、声は叫びになった。
“この女に勝つにはまだ足りぬ!”と。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】
しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。
歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。
【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】
※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。
※重複投稿しています。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる