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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(28)
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その叫びが響いたのと同時に、アランの魂は再び目覚めた。
そして目覚めた場所は先のような白い空間では無く、よく知っている部屋だった。
そこはカルロの私室だった。
部屋の主は窓のそばに立ち、外を見つめていた。
片足が失われていない、力強かったあの頃の立ち姿で。
窓から覗く光景はあの白い空間のようであり、ただ眩しかった。
そしてアランはその背中に声をかけた。
「父上」
返事はすぐには返ってこなかった。
何を第一に言うべきか悩んでいる、それが共感して伝わってきた。
しばらくして、カルロは背を向けたまま口を開いた。
「こうなってから、ようやく理解出来ることもあるのだな」
何について、何を指してそう言っているのか、聞かずとも理解出来た。瞬時に共有された。
アランの炎が弱かったのは、制御が弱かったのはなぜか。
神経網に欠陥があったからだ。
訓練によって新たな神経が張り巡らされることはある。しかしアランのそれはあまりに未熟すぎた。通常の手段では一生かけても難しい、それほどまでに。
だからカルロは述べた。
「そうとは知らず、お前にはつらく当たってしまったな。すまなかった」
謝罪の言葉を。
そしてアランはこれに応えた。
「いえ……」
もう気にしていないと。
「「……」」
二人の意識が交錯し、沈黙に変わる。
アランは感じ取っていた。理解していた。
この父は生前の父とは少し違うことを。自分に都合の良いように、『調整』されていることを。
そしてそれはカルロ自身も分かっていた。
ゆえの沈黙。
思いは交錯すれども、声には出来ない。
しかしその沈黙は長くは続かなかった。
カルロがアランの方に向き直る。
そしてカルロは心地良い衣擦れの音と共に口を開いた。
「だが、これでもう、『問題は無くなった』な」
その言葉の意味をアランは理解していた。
だからアランは、頷きと共に「はい」という力強い声を返した。
すると直後、部屋のドアが開くと同時に、新たな声が響いた。
「失礼します」
入室者はフリッツ。
もう作り直されたのか、アランはそう思ったが声には出さなかった。
そしてその『新品』のフリッツは二人に向かって言葉を続けた。
「『全員の準備』が整いました」
アランは分かっていた。
この『全員』のうちの一人に自分が含まれていることを。
自分も『調整』されたことを。
混沌の一員として問題無く活動出来るように、そのための改造が加えられたことを。
今の自分が何をすべきなのかを、アランは分かっていた。
そしてそんなアランに向かって、フリッツは口を開いた。
「ご指示を」
これに、アランは父の方へ顔を向けながら答えた。
「行きましょう」
しかし、カルロは首を振りながら口を開いた。
「それでは駄目だアラン」
何が駄目なのか、それをフリッツが答えた。
「『我々』は『カルロの息子』としての言葉では無く、『将』としての『命令』を待っているのです」
その言葉に、アランの思考は止まった。
しかしその時間は一瞬。
すぐに、「ああ、そうか」と納得出来た。
この者達は『そのために作り直された』のだから。
この窮地を覆すために。
あの女に勝つために。
ならば使おう。
自分の武器として。兵士として。戦友として。
アランのその思いを全て込めて口を開き、
「では――」
叫んだ。
「出陣するぞ!」
その声が響いた瞬間、『城門』が勢い良く開いた。
いつの間にか、舞台はカルロの私室から城の入り口へと移っていた。
城壁に続く道に沿って、兵士達が並んでいる。
誰も彼も、かつてどこかで共に戦い、そして散っていった戦友達だ。
そしてフリッツはその者達全員の耳に入るように声を上げた。
「アラン将軍の御出陣、御出陣!」
その声に押されるように、アランは歩き始めた。
場に軍靴の音が規則正しく鳴り響き始める。
が、その音は突然止まった。
アランの前方にある男が立ち塞がるように姿を現したからだ。
それはナチャであった。
そしてナチャはアランのそばに歩み寄りながら、口を開いた。
「やあ」
軽く、そして敵意の無い挨拶であったが、
「……」
アランの返事は沈黙と警戒。
ナチャはアランの食堂に心から受け入れられたわけでは無い。ナチャはアランの中に勝手に入っている。
そんなことが出来る理由は、単純に強いからだ。
そしてナチャはアランの警戒心を気にせず、再び口を開いた。
「君に紹介したい人がいるんだ」
そう言って、ナチャは後ろに、アラン達が進もうとしていた白い空間の方に振り向いた。
そしてナチャは背を向けたまま言葉を続けた。
「どうしても君に会わせろって五月蝿くてね」
ナチャがそう言い終えると、まるで濃い霧の中から姿を現すかのように、白い空間の中から一人の屈強な男がアランの前に歩み出た。
「!」
瞬間、アランは感じ取った。
その男が何者なのか、を。
それはある記憶と瞬時に結び付いた。
昔、ルイスから借りた本に描かれていた、「偉大なる大魔道士」の挿絵と。
だからアランは驚いた。
(あの挿絵とはまったく違うじゃないか)、と。
それもそのはず。あれは現代の貴族、強い魔法使いのイメージに合わせて勝手に変更されたものなのだ。当時とは服装、髪型などの文化がまったく異なる。
男はアランのその感想に対し、薄い笑みを浮かべた後、口を開いた。
「俺のことを知っているのか。なら話は早い」
男は自身の力を、技を誇示するかのように右拳をアランの胸元に向かって突き出しながら口を開いた。
そして放たれた言葉はアランの心を震わせ、誰の叫びよりも響き渡った。
「力を貸そう」、と。
第四十六話 暴風が如く に続く
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