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最終章

第五十四話 魔王上陸(11)

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 迎撃の鎖を叩き払いながら飛び降り、突撃体勢を取る。
 その姿勢と思考に対してカイルが即座に次の鎖を構える。
 そして二人の視線と意識は深くからまるように交錯し、そのままぶつかり合うように見えたが、

「雄ォッ!」

 直後、その線を引き裂くようにバージルの気勢が割り込んだ。
 型はキーラと同じ突進。かつて見せた槍斧突撃の型。
 巨大な盾を展開しながらの単純な攻防一体の形。
 キーラの意識がカイルから離れ、バージルと繋がる。
 瞬間、キーラはその突進が三日月に派生する連携であることを読み取った。
「突き上げるように」槍斧を振り上げ、その勢いのまま斜め上に向かって三日月を放つつもりであることまで。
 だからキーラはその「弱点」をつくことにした。
 わざわざ「突き上げる」理由だ。
 感知特有の統率が取られているが、人の配置と動きだけを見ればただの乱戦だ。
 そしてその人の中には当然市民も含まれる。
 つまり、バージルは上にしか射線が無いのだ。市民のせいで大きな火力が殺されてしまっているのだ。
 だがキーラには市民がいくら犠牲になろうと関係無い。
 肉の盾として存分に利用させてもらう、キーラはそう思った。
 ゆえに、キーラが選んだ動きは「市民を背後に置いた回り込み」であった。
 その意識を感じ取ったバージルが攻撃を「盾そのものを振り回すなぎ払い」に変更する。
 しかしやはりキーラには問題無かった。
 三日月が飛ばないのであれば避けるのは容易いからだ。
 いざとなれば後方に距離を取ればいい、そう考えていた。
 が、

「ぐっ!?」

 その背後から、背中に光弾が炸裂した。
 市民に撃たれた? 湧き上がったその疑問は、瞬時に感知の記憶によって否定された。
 だが、キーラがばらまいていた虫は何が起きたのかを掴んでいた。
 しかし姿勢を崩した今のキーラにはその報告を聞く余裕が無かった。

「破ァッ!」

 既に、視界一杯にまでバージルの輝く盾が迫っていたからだ。
 瞬間、三つの思考が交錯した。
 同じ盾で受けてしのぐ、キーラの本能はそう思った。
 ならば、こちらは盾を解除して槍で突き穿つ(うがつ)と、バージルの本能は考えた。
 ではこちらはそれを電撃魔法で迎え撃つと、キーラの本能は対応した。
 この刹那のやり取りによって二人が辿り着いた答えは一巡して同じ盾。
 二つの光る壁がぶつかり合う。
 しかしその強度は歴然の差。
 キーラの盾が歪な音と共に砕ける。
 だがキーラはその反動を利用して後方に地を蹴っていた。
 バージルの突進よりも速くキーラの影が流れる。

「せぇやっ!」

 直後、その下がる影の背中にケビンの気勢が叩きつけられた。
 型は袈裟。バージルと挟み込む形。
 しかしキーラはこれは対処しなくていいことが分かっていた。
 瞬間、割り込んできた影が手刀でもって金属音と共にケビンの剣を弾き飛ばす。
 キーラはその音を聞きながら手から電撃の糸を伸ばした。
 対処すべきは、

(こちら!)

 その仲間の影をさらに横から突こうとしている兵士であることが分かっていたからだ。
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