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最終章
第五十六話 老骨、鋼が如く(2)
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◆◆◆
「よし! ここはもういい!」
ゲオルクが移動し始めた直後、門の守りを仕切っていた兵士が声を上げた。
彼の前には土嚢が積み重なっている。
人の力で押し破れるものでは無い、そう判断出来るものであったゆえに、
「他の者達の援護に向かうぞ!」
そう言えたのだが、
「「「!」」」
直後、門の向こう側から響いた轟音と、あふれるように広がった閃光に、兵士達は目を見開いた。
土嚢で見えないが、門は何かに切り刻まれるように破られた、その音はそうとしか思えなかった。
その推察は正解であることが直後に明らかになった。
「な?!」
再びの轟音と閃光。
光る嵐が土嚢を引き裂き、撒き散らしながら食い破る。
そしてその地獄のような光の中から一つの影がするりと前へ舞い出でた。
これに兵士達は手を発光させ迎撃姿勢を取ろうとしたが、その動作は影の動きに比べるとあまりに遅すぎた。
「ぁぐっ!?」「がっ!」
駆け抜けながら振るわれた光る爪が兵士達を赤い華に変える。
返り血すら浴びずに事を終えたその狼、ザウルは振り返りながら口を開いた。
「行け」
その声が響いた直後、がら空きになった門から影達が次々と侵入し、ザウルの横を駆け抜けていった。
ザウルは彼らに目もくれず、倒した兵士の死体を一瞥した。
(この者達、時間稼ぎだけが目的では無いな)
死体から視線を外し、砦を見渡すように感知を巡らせる。
そして、
「そういうことか」
感じ取ったザウルは視線をある方向に向けながら思った。
我々が攻撃に火を使わない理由を知っていて、だからあそこに数名が残っているのだな、と。
◆◆◆
「ゥ雄雄ォッ!」「ぐあぁっ!」
砦に気勢と悲鳴が重なって響き合う。
「今だ!」「押し返せ!」「おのれぇっ!」「誰か!」
希望と絶望が押し合い、せめぎ合う。
しかしその釣り合った状況を一変させる声が直後に響いた。
「大将首はここぞ! 我こそはと思う者はかかって参れ!」
ゲオルクのその名乗り上げに、味方と敵すべての意識が引かれた。
敵も味方も、声がした方に走り始める。
正確な位置情報を掴んだ感知能力者がその中で一歩先を行く。
しかしさらにその中でも、やはり狼達のほうが速い。
そしてその中で一番乗りを果たした三名の集団は、そのまま一番槍を入れようとしたのだが、
「「「!」」」
その足は「それ」を見た瞬間に止まった。
ゲオルクと側近達は曲がり角の隅に集まり、円状に固まっていた。
円の外周にいるものが大盾を構えている。
密度が高いゆえに隙間がほとんど見えない。鉄の壁と化している。
そしてその盾の間に挟まれるように、わずかな隙間から槍や剣が何本も伸びている。
まるで剣山。ハリネズミのような陣形。
これでは近づきようが無い、影達はそう思ったのだが、
(いや、)
隙間が無いのであれば押し広げて作ればいい、それにあの状態では武器は自在には扱えない、そう思った影達は同時に踏み込んだ。
それは確かにその通りであったのだが、
「「!?」」
瞬間、ゲオルク達の迎撃動作を読み取れた二名は足を止めることができたのだが、
「ぐっ!?」
もう一人は間に合わなかった。
その狼は槍に「なぎ払われた」。
この密度では武器は満足に振れないことはゲオルク達も分かっていた。
ならば、全員で向きを変えてその勢いで振り回せばいい、ということに気付いたのだ。
きっかけはゲオルクの提案にあった。
各個撃破されている現在の状況を変えたいと。そのために全員をこの場に集めたいと。
そのための名乗り上げ。
しかし集合までに確実に攻撃を受ける。
それをどう凌ぐかという問題に対して、側近の一人がこの陣形を提案したのだ。
だが、この曲がり角は狭い。槍に速度が乗る前に壁にぶつかる。
ゆえに致命傷には到底ならない。
だが相手を壁に貼り付けて、そのまま槍で押さえ込むことくらいは出来る。
「撃て!」
ゲオルクの声が響くよりわずかに早く、前列は身をかがめていた。
後列の数人が即座に手を前に突き出し、光弾を放つ。
「ぐうぅっ!」
当然の直撃。
だがやはり数が少ない。戦闘不能にはなりにくい。
その反動で狼が拘束から脱出する。
「……っ!」
痛みに歯を軋ませながら、距離を取り直す狼。
しかし狼には既に対処法が見えていた。
要はこれは槍衾(やりぶすま)。
過去に廃れた陣形だ。
なぜなら、この世界には光弾という安易な飛び道具があるからだ。
手が武器で塞がるため制圧前進するにしても弱い。前列の槍盾の数を増やすほど、反撃や迎撃の光弾の数が減ることになる。
魔法を撃てない者を前列に使うにしても、槍を捨てて大盾の重量を上げたほうが制圧前進には有利。
相手の突進を受け止める際にしか利点が無い。
ならば、この状況では槍衾は有効に思えた。
狼達に時間をかけるつもりは無い。前列が崩れるまで光弾を撃つ気は無い。
が、槍衾にはもう一つ欠点があった。
狼達はそれを直後に行動で示した。
「よし! ここはもういい!」
ゲオルクが移動し始めた直後、門の守りを仕切っていた兵士が声を上げた。
彼の前には土嚢が積み重なっている。
人の力で押し破れるものでは無い、そう判断出来るものであったゆえに、
「他の者達の援護に向かうぞ!」
そう言えたのだが、
「「「!」」」
直後、門の向こう側から響いた轟音と、あふれるように広がった閃光に、兵士達は目を見開いた。
土嚢で見えないが、門は何かに切り刻まれるように破られた、その音はそうとしか思えなかった。
その推察は正解であることが直後に明らかになった。
「な?!」
再びの轟音と閃光。
光る嵐が土嚢を引き裂き、撒き散らしながら食い破る。
そしてその地獄のような光の中から一つの影がするりと前へ舞い出でた。
これに兵士達は手を発光させ迎撃姿勢を取ろうとしたが、その動作は影の動きに比べるとあまりに遅すぎた。
「ぁぐっ!?」「がっ!」
駆け抜けながら振るわれた光る爪が兵士達を赤い華に変える。
返り血すら浴びずに事を終えたその狼、ザウルは振り返りながら口を開いた。
「行け」
その声が響いた直後、がら空きになった門から影達が次々と侵入し、ザウルの横を駆け抜けていった。
ザウルは彼らに目もくれず、倒した兵士の死体を一瞥した。
(この者達、時間稼ぎだけが目的では無いな)
死体から視線を外し、砦を見渡すように感知を巡らせる。
そして、
「そういうことか」
感じ取ったザウルは視線をある方向に向けながら思った。
我々が攻撃に火を使わない理由を知っていて、だからあそこに数名が残っているのだな、と。
◆◆◆
「ゥ雄雄ォッ!」「ぐあぁっ!」
砦に気勢と悲鳴が重なって響き合う。
「今だ!」「押し返せ!」「おのれぇっ!」「誰か!」
希望と絶望が押し合い、せめぎ合う。
しかしその釣り合った状況を一変させる声が直後に響いた。
「大将首はここぞ! 我こそはと思う者はかかって参れ!」
ゲオルクのその名乗り上げに、味方と敵すべての意識が引かれた。
敵も味方も、声がした方に走り始める。
正確な位置情報を掴んだ感知能力者がその中で一歩先を行く。
しかしさらにその中でも、やはり狼達のほうが速い。
そしてその中で一番乗りを果たした三名の集団は、そのまま一番槍を入れようとしたのだが、
「「「!」」」
その足は「それ」を見た瞬間に止まった。
ゲオルクと側近達は曲がり角の隅に集まり、円状に固まっていた。
円の外周にいるものが大盾を構えている。
密度が高いゆえに隙間がほとんど見えない。鉄の壁と化している。
そしてその盾の間に挟まれるように、わずかな隙間から槍や剣が何本も伸びている。
まるで剣山。ハリネズミのような陣形。
これでは近づきようが無い、影達はそう思ったのだが、
(いや、)
隙間が無いのであれば押し広げて作ればいい、それにあの状態では武器は自在には扱えない、そう思った影達は同時に踏み込んだ。
それは確かにその通りであったのだが、
「「!?」」
瞬間、ゲオルク達の迎撃動作を読み取れた二名は足を止めることができたのだが、
「ぐっ!?」
もう一人は間に合わなかった。
その狼は槍に「なぎ払われた」。
この密度では武器は満足に振れないことはゲオルク達も分かっていた。
ならば、全員で向きを変えてその勢いで振り回せばいい、ということに気付いたのだ。
きっかけはゲオルクの提案にあった。
各個撃破されている現在の状況を変えたいと。そのために全員をこの場に集めたいと。
そのための名乗り上げ。
しかし集合までに確実に攻撃を受ける。
それをどう凌ぐかという問題に対して、側近の一人がこの陣形を提案したのだ。
だが、この曲がり角は狭い。槍に速度が乗る前に壁にぶつかる。
ゆえに致命傷には到底ならない。
だが相手を壁に貼り付けて、そのまま槍で押さえ込むことくらいは出来る。
「撃て!」
ゲオルクの声が響くよりわずかに早く、前列は身をかがめていた。
後列の数人が即座に手を前に突き出し、光弾を放つ。
「ぐうぅっ!」
当然の直撃。
だがやはり数が少ない。戦闘不能にはなりにくい。
その反動で狼が拘束から脱出する。
「……っ!」
痛みに歯を軋ませながら、距離を取り直す狼。
しかし狼には既に対処法が見えていた。
要はこれは槍衾(やりぶすま)。
過去に廃れた陣形だ。
なぜなら、この世界には光弾という安易な飛び道具があるからだ。
手が武器で塞がるため制圧前進するにしても弱い。前列の槍盾の数を増やすほど、反撃や迎撃の光弾の数が減ることになる。
魔法を撃てない者を前列に使うにしても、槍を捨てて大盾の重量を上げたほうが制圧前進には有利。
相手の突進を受け止める際にしか利点が無い。
ならば、この状況では槍衾は有効に思えた。
狼達に時間をかけるつもりは無い。前列が崩れるまで光弾を撃つ気は無い。
が、槍衾にはもう一つ欠点があった。
狼達はそれを直後に行動で示した。
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