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最終章
第五十七話 最強の獣(2)
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◆◆◆
一方――
「……」
同じ森の中で、リックは慎重に周囲を観察していた。
「「「……」」」
後ろに付いている十名の部下達も、何も言わずに警戒態勢を維持している。
なぜなら目の前に仲間の死体があるからだ。
死者の数は三。
この者達は見張り兼、連絡用の者達であった。
連絡が突然途絶えたから様子を見に来て見ればこの有様であった。
どれも一撃でやられているように見えた。ある者は胸を潰され、別の者は首をねじ切れそうなほどに捻られ、もう一人は目から脳をえぐられている。
足元の雑草はほとんど荒れていない。全員ろくに抵抗出来ずに『瞬殺された』、そのように見えた。
だから恐ろしいのだ。
この者達が見張りとして配置されたのは、感知能力が高く、さらに虫も使えたからだ。
そんな者達が敵の接近に気付けず瞬殺された、それが意味するところは一つしか無い。
「「「……」」」
だからみな声を殺して、不穏な物音一つ聞き逃さぬようにしながら警戒していた。
そしてその緊迫感の中でリックは気付いた。
完璧な仕事では無い事に。
一発、光弾で反撃されている。
その事実が、少し離れたところに落ちている「ある物」のおかげで分かった。
砕けた蜂の巣である。
バラバラになっているが、かなり大きな巣であったことが見て取れる。
しかし住人の、蜂の姿は見えない。
蜂は冬はほとんど活動しない。蜂の種類によっては冬を越すのは女王蜂だけになる場合もある。
巣の形状から見るに、これは働き蜂も越冬する種だ。身を寄せ合って体温を維持しながら、蓄えたエサで食いつないで冬をやり過ごす。
冬はあまり活動的では無い。しかしそれでも怒り狂って飛び出したはずだ。その蜂達はどこに?
その疑問に対し、リックは一つの仮説を立てた。
(……動くものを追いかけた?)
ならばあれがある可能性が高い。
それを探すためにリックは虫をばらまいた。
そしてそれはすぐに見つかった。
虫の報せがあった場所に駆け寄る。
それはリックが予想した通りの状態であった。
バラバラに砕けた蜂の死骸だ。
光魔法の炸裂によるものと見える状態。
やはりな、とリックは思った。
まだ蜂だと分かるほどに原型をとどめているからだ。
もし、自分が蜂の群れに襲われたらどうするかを考えれば分かりやすい。
自分ならば膜の薄い防御魔法を振り回す。触れただけで弾け飛ぶ虫取り網のように。これが手っ取り早い。
だがこいつはそうしなかった。わざわざ小さな魔力で一匹ずつ対処しているように見える。
出来るだけ大きな音を立てないように、大きな魔力を使わないようにしたのだろう。
それはつまり、異常を察知して駆けつけて来る我々の存在に気付いたから、あえてそうした可能性が高い。
ならば、まだ、
(……近い、か?)
相手はまだそう遠くには行っていない、リックにはそう思えた。
一方――
「……」
同じ森の中で、リックは慎重に周囲を観察していた。
「「「……」」」
後ろに付いている十名の部下達も、何も言わずに警戒態勢を維持している。
なぜなら目の前に仲間の死体があるからだ。
死者の数は三。
この者達は見張り兼、連絡用の者達であった。
連絡が突然途絶えたから様子を見に来て見ればこの有様であった。
どれも一撃でやられているように見えた。ある者は胸を潰され、別の者は首をねじ切れそうなほどに捻られ、もう一人は目から脳をえぐられている。
足元の雑草はほとんど荒れていない。全員ろくに抵抗出来ずに『瞬殺された』、そのように見えた。
だから恐ろしいのだ。
この者達が見張りとして配置されたのは、感知能力が高く、さらに虫も使えたからだ。
そんな者達が敵の接近に気付けず瞬殺された、それが意味するところは一つしか無い。
「「「……」」」
だからみな声を殺して、不穏な物音一つ聞き逃さぬようにしながら警戒していた。
そしてその緊迫感の中でリックは気付いた。
完璧な仕事では無い事に。
一発、光弾で反撃されている。
その事実が、少し離れたところに落ちている「ある物」のおかげで分かった。
砕けた蜂の巣である。
バラバラになっているが、かなり大きな巣であったことが見て取れる。
しかし住人の、蜂の姿は見えない。
蜂は冬はほとんど活動しない。蜂の種類によっては冬を越すのは女王蜂だけになる場合もある。
巣の形状から見るに、これは働き蜂も越冬する種だ。身を寄せ合って体温を維持しながら、蓄えたエサで食いつないで冬をやり過ごす。
冬はあまり活動的では無い。しかしそれでも怒り狂って飛び出したはずだ。その蜂達はどこに?
その疑問に対し、リックは一つの仮説を立てた。
(……動くものを追いかけた?)
ならばあれがある可能性が高い。
それを探すためにリックは虫をばらまいた。
そしてそれはすぐに見つかった。
虫の報せがあった場所に駆け寄る。
それはリックが予想した通りの状態であった。
バラバラに砕けた蜂の死骸だ。
光魔法の炸裂によるものと見える状態。
やはりな、とリックは思った。
まだ蜂だと分かるほどに原型をとどめているからだ。
もし、自分が蜂の群れに襲われたらどうするかを考えれば分かりやすい。
自分ならば膜の薄い防御魔法を振り回す。触れただけで弾け飛ぶ虫取り網のように。これが手っ取り早い。
だがこいつはそうしなかった。わざわざ小さな魔力で一匹ずつ対処しているように見える。
出来るだけ大きな音を立てないように、大きな魔力を使わないようにしたのだろう。
それはつまり、異常を察知して駆けつけて来る我々の存在に気付いたから、あえてそうした可能性が高い。
ならば、まだ、
(……近い、か?)
相手はまだそう遠くには行っていない、リックにはそう思えた。
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