Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十五話 舞台に上がる怪物(1)

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   ◆◆◆

  舞台に上がる怪物

   ◆◆◆

 翌日、アランが未練を残したその戦場にて、一つの動きがあった。

「ちょっと、バージル、突然どういうことなの!?」

 陣中にて、リーザはバージルに対し声を上げていた。

「さっき言ったこと、冗談よね?」

 リーザの言葉に、バージルは首を振った。

「……冗談では無い。私は今日、ここを去るつもりだ」
「一体、どういうつもりなの? ジェイクが死んだ今、ここの総大将はあなたなのよ?」
「だから、総大将の座はお前に譲ると言っている」

 話にならない。そう思ったリーザは質問を変えることにした。

「……ここを離れるにしても、せめて理由を話してからにしてちょうだい」
「どうしてもやりたいことが出来た。そのためにある人を訪ねようと思っている」
「やりたいこと?」
「自分の器を計りたい、と言うのが正しいかもしれない」
「……」

 リーザには、バージルが何を言いたいのかさっぱり分からなかった。

「俺の兵はお前に預ける。……迷惑だろうが、よろしく頼む」

 そう言って、バージルはリーザに背を向けた。
 
   ◆◆◆

 一ヵ月後――

 大陸の中央、切り立った山々が連なる偉大なる者の地で、リックは訓練を続けていた。

「……」

 手のひらの上に乗せた石に、魔力を通す。
 ふわりと、石が浮かび上がる。
 静かであった。石は空中で静止しており、僅かな揺らぎも見受けられなかった。
 どれくらいそうしているのか、リック自身分からなくなるほどの時間が流れた頃、その耳に透き通るような声が届いた。

「かなり上達したようですね、息子よ」

 突然の母の声。リックは思わず手を止め、振り返った。
 足音は聞こえなかった。いつから自分の後ろに立っていたのか。
 リックの母クレアは、驚く息子を前に、足元にあった手ごろな石を拾い上げ、口を開いた。

「受け止めてみなさい」

 言うや否や、クレアはその石をリックに向けて投げた。
 それは放物線を描くゆるやかな軌道であった。
 母は受け止めろと言った。だが普通にやっては駄目だろう。これも試験のうちの一つのはずだ。母を驚かせるように、今の自分の力量を見せ付けるように、石を受け止めなくてはならない。
 そう考えたリックは右手の人差し指だけを使うことにした。
 指の腹を上に向け、石の軌道上に構える。
 石が指に乗る。
 その瞬間、石の動きはぴたりと止まった。
 不自然であった。僅かな揺れすら無い。まるで石が指に張り付いたかのようであった。
 目を凝らすと、石の下部、指との接着部分が発光しているのが見えた。
 指からは薄い光の膜が生じていた。その光は石を包み、力強く捕まえていた。
 この結果にクレアは拍手を送った。

「見事です」

 褒められたリックは照れくさそうに笑みを浮かべたが、クレアの方は逆にその表情に真剣さを湛えた。
 そしてクレアは拍手を止め、口を開いた。

「これならば、そろそろ始めてもいいでしょう」

 この言葉にリックも気を引き締めた。
 何を始めるのか、そんな事は分かっている。クレアはリックが思ったとおりの台詞を吐いた。

「息子よ、これからあなたに我が一族に伝わる奥義を伝授します」

 遂にこの時が――リックは期待に目を輝かせた。
 だが、クレアはリックから視線を外しながら口を開いた。

「ですが、その前に――」

 クレアが目を向けた方向、そこには一人の召使いが立っていた。
 召使いはクレアに対し深く一礼した後、用件を告げた。

「当主様、お客様がお見えになっております」

 客? クレアはリックに横目で視線を送りながら首を傾げた。

   ◆◆◆

 クレアとリックは召使いの案内に従い、玄関へと足を運んだ。
 重量感のある門の前で足を止めると、召使いが口を開いた。

「門の向こうでお待ちです」

 門番が重そうな音を立てながら門を開ける。
すると、そこには一人の男が立っていた。
 その立ち姿にリックは思わず警戒した。
リックはその男の手にある武器に意識を奪われていた。
 ディーノと同じ武器を持つその男はクレアに対し深く一礼した後、その場に跪き、口を開いた。

「突然の訪問という無礼、お許し願いたい」

 頭を垂れたまま微動だにせぬ男にクレアは尋ねた。

「お名前を伺っても?」

 男は顔を上げずに答えた。

「私の名前はバージルと申します」

 クレアは顎に手を添えつつ、記憶の中からその名前を探したが、見つからなかった。

「バージル……申し訳ありませんが、存じぬ名ですね」

 バージルはここでようやく顔を上げ、口を開いた。

「盾の一族、と言えばお分かりになるでしょうか」
「よく存じています。誰にも破れぬ防御魔法を使う一族のことですね」

 クレアの言葉に、バージルは頷きを返しながら口を開いた。

「はい。私はその一族の末席に名を連ねるものです」

 素性が分かったところで、クレアは用件を尋ねることにした。

「その盾の一族の人間が、何の用なのです」

 バージルは一瞬間を置いた後、答えた。

「……不躾だと思われるでしょうが、私を鍛えていただきたいのです」

 クレアは難しい顔をしながら、その意を尋ね直した。

「……それはつまり、我が一族の技を教えてほしい、ということでしょうか?」

 これに、バージルは頷きだけを返した。

「……」

 クレアは暫し口をつぐんだ後、ゆっくりと唇を動かした。

「……申し訳ありませんが我が一族の技は秘伝。よく知らぬ外部の者に教えるなど、できることではありません」

 そう言ってクレアは背を向け、

「帰りなさい」

 と、冷たく言い放った。

「……」

 対し、バージルは跪いたまま何も言わず、動こうともしなかった。
 クレアは首をひねり、そんなバージルの姿をちらりと一瞥した後、

「連れ出しなさい」

 と、門番に命じた。
 バージルはやはり微動だにしない。門番の男はバージルの傍に歩み寄り、口を開いた。

「お立ち願いますバージル殿。名のある者に手荒な真似はしたくない」

 言われたバージルは少し間を置いた後、ゆっくりと立ち上がった。
 この時、リックは見た目では分からぬほどの戦闘態勢を取っていたが、バージルは抵抗せず、大人しく外へと出て行った。
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