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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第二十七話 移る舞台(1)
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◆◆◆
移る舞台
◆◆◆
その頃、ラルフの姿は歓声の中にあった。
ラルフの眼前には砕かれた石柱の残骸が散らばっていた。
ラルフがいる場所は精鋭の試験場。神学校を卒業したばかりのラルフであったが、この試験にはヨハンに言われるよりも早く自ら志願していた。
歓声はやまない。ラルフの魔力はあまりにも圧倒的であった。
ラルフはその声に応えるように、拳を真上に、太陽に向かって突き上げた。
◆◆◆
そうして精鋭になったラルフはすぐにある場所へと足を運んだ。
それは収容所であった。
傍についていた護衛の静止を振り切り、ラルフは収容所の奥へと足を運んだ。
そして、ラルフは目的の女性を見つけた。
その女性、リリィはボロの衣服を纏い、作業に従事していた。
ラルフは声をかけようとはしなかったが、その存在に気づいたリリィが口を開いた。
「あ……ラルフ?」
ラルフはリリィを見つめたまま、追ってきた護衛に一言、言い放った。
「彼女と話がしたい」
◆◆◆
ラルフはリリィを連れて収容所内にある応接間へと入った。
「座ってリリィ」
促されるままにリリィがソファーに腰掛けると、ラルフは対面側に座り、口を開いた。
「ここにいると思った。やはり父は私に嘘をついていたんだな」
嘘、それは屋敷へ連れ出され、ラルフと会わされたあの日のことを言っているのだろうと、リリィは察した。
「……すまない。君をこんなひどい目に合わせてしまって。そもそも、僕がしっかりしていれば君がこの収容所に入れられることも無かったはずなのに」
「……」
頭を下げながら謝罪の言葉を述べるラルフに、リリィは何も言葉をかけられなかった。
そして暫し後、ラルフは「すっ」と頭を上げながら口を開いた。
「リリィ、突拍子の無い話に聞こえるかもしれないが、聞いて欲しい」
「……」
リリィは頷きも言葉も返さなかったが、ラルフは言葉を続けた。
「リリィ、僕はこれからカルロを倒しに行く」
「……?」
本当に突拍子の無い話に、リリィは心の中で首を傾げることしか出来なかった。
対し、ラルフはリリィの目を見つめながら再び口を開いた。
「……カルロを倒した後、僕は君を迎えにここへ戻って来る。そして君を外へ連れ出す」
ラルフの口調は徐々に熱く、まくしたてるようになっていった。
「僕は君を傍に置く。誰にも文句は言わせない。カルロを倒した男に口出しなど許さない」
そしてラルフは視線を一瞬下に外した後、先よりも力強い眼差しをリリィへ向けた。
「そして、僕はこの国の王を目指す。王になって、この腐敗した世の中を正す」
「……」
「だから、もう少しだけ辛抱して待っていてくれ、リリィ」
「……」
ラルフはたぶん真剣に話している。だが共感も実感も沸かない。何かがずれている、リリィはそう感じていた。
ラルフは神学校の生活を経て、明らかに変化していた。野心、野望のようなものがラルフの中に芽生えていた。
だが、それがどうにも薄っぺらい。リリィはそう感じていた。
リリィは直感的にラルフのある厄介な気質を見抜いていたのだ。
その気質とは――
◆◆◆
その夜――
ヨハンは私室にて赤毛の男カイルからラルフの行動についての報告を聞いていた。
「ほう、ラルフが収容所へ、リリィに会いに行ったと」
主を前に跪くカイルは、その頭をさらに低く垂れるかのように頷いた後、尋ねた。
「いかがいたしますか?」
ヨハンは顎に生えた白い無精髭を暫しいじった後、口を開いた。
「ラルフはその後何かを言ってきたか?」
これにカイルは首を振った。
「いえ、特に何も」
「ならば放っておけばよい」
主の意に物申すつもりは無いが、カイルは確認するように再び尋ねた。
「よろしいので?」
「無能の女を一人手篭めにするくらいかまわんよ。カルロを倒してくれさえすればな」
ヨハンは薄い笑みを浮かべ、「それにな、」と繋げた。
「はっきり言ってラルフは大した男では無いよ。魔力が強いだけの甘ちゃんだ。リリィを収容所に入れていたことを知ったのに、私に何も言ってこないことがその証拠よ」
そう言ってヨハンはカイルに背を向け、窓の外に広がる夜景を眺めながら口を開いた。
「結局ラルフは自分の身が一番可愛いのだ。私に反抗する機会はこれまでにもあったが、一度もしなかった。あやつは何をするにしても、まず自分の身の安全を第一に考え、そして欲深いのだ。本人は気づいていないかもしれんがな」
ヨハンは顔に笑みを貼り付けたまま、再び顎鬚をいじりながら言葉を続けた。
「だからラルフは我々に逆らわない。贅沢な暮らしと、戦いによる名誉と、そこから生じる権力を与えてくれるのは我々だということを分かっているからだ」
ヨハンはカイルの方に向き直りながら、
「その手の人間は多く、いずれも御しやすい。まことに分かりやすい連中よ」
と言って、含み笑いを口尻から漏らした。
ヨハンが言ったことは当たっている。が、一つ見落としている。
ヨハンが与えられるものと同じもの、または同等の価値があるものを与えられる人間が別に現れたならば、ラルフはあっさりそちら側に寝返る可能性があるということを。
移る舞台
◆◆◆
その頃、ラルフの姿は歓声の中にあった。
ラルフの眼前には砕かれた石柱の残骸が散らばっていた。
ラルフがいる場所は精鋭の試験場。神学校を卒業したばかりのラルフであったが、この試験にはヨハンに言われるよりも早く自ら志願していた。
歓声はやまない。ラルフの魔力はあまりにも圧倒的であった。
ラルフはその声に応えるように、拳を真上に、太陽に向かって突き上げた。
◆◆◆
そうして精鋭になったラルフはすぐにある場所へと足を運んだ。
それは収容所であった。
傍についていた護衛の静止を振り切り、ラルフは収容所の奥へと足を運んだ。
そして、ラルフは目的の女性を見つけた。
その女性、リリィはボロの衣服を纏い、作業に従事していた。
ラルフは声をかけようとはしなかったが、その存在に気づいたリリィが口を開いた。
「あ……ラルフ?」
ラルフはリリィを見つめたまま、追ってきた護衛に一言、言い放った。
「彼女と話がしたい」
◆◆◆
ラルフはリリィを連れて収容所内にある応接間へと入った。
「座ってリリィ」
促されるままにリリィがソファーに腰掛けると、ラルフは対面側に座り、口を開いた。
「ここにいると思った。やはり父は私に嘘をついていたんだな」
嘘、それは屋敷へ連れ出され、ラルフと会わされたあの日のことを言っているのだろうと、リリィは察した。
「……すまない。君をこんなひどい目に合わせてしまって。そもそも、僕がしっかりしていれば君がこの収容所に入れられることも無かったはずなのに」
「……」
頭を下げながら謝罪の言葉を述べるラルフに、リリィは何も言葉をかけられなかった。
そして暫し後、ラルフは「すっ」と頭を上げながら口を開いた。
「リリィ、突拍子の無い話に聞こえるかもしれないが、聞いて欲しい」
「……」
リリィは頷きも言葉も返さなかったが、ラルフは言葉を続けた。
「リリィ、僕はこれからカルロを倒しに行く」
「……?」
本当に突拍子の無い話に、リリィは心の中で首を傾げることしか出来なかった。
対し、ラルフはリリィの目を見つめながら再び口を開いた。
「……カルロを倒した後、僕は君を迎えにここへ戻って来る。そして君を外へ連れ出す」
ラルフの口調は徐々に熱く、まくしたてるようになっていった。
「僕は君を傍に置く。誰にも文句は言わせない。カルロを倒した男に口出しなど許さない」
そしてラルフは視線を一瞬下に外した後、先よりも力強い眼差しをリリィへ向けた。
「そして、僕はこの国の王を目指す。王になって、この腐敗した世の中を正す」
「……」
「だから、もう少しだけ辛抱して待っていてくれ、リリィ」
「……」
ラルフはたぶん真剣に話している。だが共感も実感も沸かない。何かがずれている、リリィはそう感じていた。
ラルフは神学校の生活を経て、明らかに変化していた。野心、野望のようなものがラルフの中に芽生えていた。
だが、それがどうにも薄っぺらい。リリィはそう感じていた。
リリィは直感的にラルフのある厄介な気質を見抜いていたのだ。
その気質とは――
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ヨハンは私室にて赤毛の男カイルからラルフの行動についての報告を聞いていた。
「ほう、ラルフが収容所へ、リリィに会いに行ったと」
主を前に跪くカイルは、その頭をさらに低く垂れるかのように頷いた後、尋ねた。
「いかがいたしますか?」
ヨハンは顎に生えた白い無精髭を暫しいじった後、口を開いた。
「ラルフはその後何かを言ってきたか?」
これにカイルは首を振った。
「いえ、特に何も」
「ならば放っておけばよい」
主の意に物申すつもりは無いが、カイルは確認するように再び尋ねた。
「よろしいので?」
「無能の女を一人手篭めにするくらいかまわんよ。カルロを倒してくれさえすればな」
ヨハンは薄い笑みを浮かべ、「それにな、」と繋げた。
「はっきり言ってラルフは大した男では無いよ。魔力が強いだけの甘ちゃんだ。リリィを収容所に入れていたことを知ったのに、私に何も言ってこないことがその証拠よ」
そう言ってヨハンはカイルに背を向け、窓の外に広がる夜景を眺めながら口を開いた。
「結局ラルフは自分の身が一番可愛いのだ。私に反抗する機会はこれまでにもあったが、一度もしなかった。あやつは何をするにしても、まず自分の身の安全を第一に考え、そして欲深いのだ。本人は気づいていないかもしれんがな」
ヨハンは顔に笑みを貼り付けたまま、再び顎鬚をいじりながら言葉を続けた。
「だからラルフは我々に逆らわない。贅沢な暮らしと、戦いによる名誉と、そこから生じる権力を与えてくれるのは我々だということを分かっているからだ」
ヨハンはカイルの方に向き直りながら、
「その手の人間は多く、いずれも御しやすい。まことに分かりやすい連中よ」
と言って、含み笑いを口尻から漏らした。
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